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第六章
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近づいてくる俺を警戒し、ラシャド達はバティルを護るように立ちはだかり剣に手をかける。しかも、中には攻撃の魔法陣を展開するそぶりを見せる者も…って、ラシャドかよ。諸々あって怒り心頭に発するってやつか。
けど、俺から顔を逸らしていては攻撃も、主を守ることも出来ない。しかも仮面だから、俺の『目』を避けるのは難しいだろう。
どうやら俺は、ラシャド達には剣技や攻撃魔法はからっきしで、軽い防御魔法と『魅了』しか出来ないと思われてるっぽい。だから、お望み通り軽く「大人しくしてろ」と言う意思を込めてひと睨みすれば、途端に青ざめ動きが固まってしまった。
『魅了師は人や魔獣を誑し込むだけじゃないって、バティルに従ってるなら分かってるんじゃ…』
とはいえ、『黒の魅了師』程の有名人を知ってても、「特質」とかはご存じ無いらしい。例えば使役抜してなくても「とんでもないモノ」を召喚出来る…とか。
ザビア将軍も言っていたっけ。
俺が生まれ育った西の大陸に比べ、ここ南の大陸での魔法魔術の進歩発展は遅れていると。言い方悪いけど、発展途上国のようなものか。
だからこそ幻獣を召喚し、守護獣としたカルカンヌは小国なのに一目置かれていた。
そして、若くとも高い魔力を持ち魔法を駆使出来る者達はのし上がれる。ラシャドやバティルがいい例だ。
「愚か者どもが。下がれ!」
「もっ、申し訳…っ!」
ラシャド達を一括して後ろに下がらせたバティルの顔に、僅かだが隠せない苛立ちが浮かんだ。直ぐに消し去り口角を上げたが、双眼は全く笑っていない。
そして二メートル程距離を残して立ち止まった俺を、値踏みするような焦茶色の目でじっと見つめてきた。
「…大聖樹の杖、白磁に金と黒の模様の入った仮面…。ふむ、伝え聞いた特徴とは合っている…か」
憚かる事なく、俺の出で立ちと『黒の魅了師』のそれを検証している。
こいつも『魅了師』の端くれだからか、滅多に出没しないヒエラルキーの頂点の詳細な特徴を把握していた。
『おいユキヤ。あのクソったれエルフの『縛り』が『俺』の気配を抑えてやがるが、念には念だ。俺は『口』を出さねぇから、お前が奴と話をつけてみろ』
バティルが俺を観察してる最中、ベルが指示を出してきた。最後に『雲行きがいよいよヤバくなったら、迷わず俺を『召喚』しろ』と付け加えて。
『…まぁ、よほど俺がポカしたらな』
『…………』
はっきりと肯定しなかったのが気に入らなかったらしい。
ベルは抗議なのか、俺の下顎を甘噛みして鎌首を擦り付ける。痛くはなくて擽ったいそれに、思わず肩を震わせ忍び笑いが漏れてしまった。
俺と飾りのペット(だと思ってるんだろう)が戯れてるのを余裕と受け取ったか、ラシャド達が殺気を伴い歯噛みしてる。
バティルは首に緩く巻きついてる黒蛇を一瞥した後、やっと俺と『目』を合わせてきた。
こいつの一番強い力がそれらだからか、魔力の質がダイレクトにわかる。ねっとりとした、冷たくて粘着質な…嫌な感じだ。
「おい。名乗りもせず不躾にジロジロ見ていたが、さっさと『打ち合わせ』を始めたらどうだ?」
『なっ!?きっ、貴様!」
「無礼者!バティル様に何という物言いぞ!!」
気を引き締め、努めて横柄な声音で言い放った俺にラシャド達は激昂する。
まあ、バティルは一国の宰相様でこいつらに取って主。かたや俺は一介の魔術師風情だから当然だ。
けど、心情はどうであれ当の本人は殺気マックスの部下達とは違い、鷹揚な態度を崩さなかった。
「これは失礼。ザビア殿下から聞き及んでいるだろうと思ってな。私はオンタリオ王国宰相、バティル・ハリエと言う」
「ああ、知っているよ。あんたの部下から聞いていると思うが、俺は…『黒の魅了師』だ」
但し偽のですけどね、と心の内で呟いておく。
フリがいまだに慣れないから、名乗るのをちょっと躊躇ってしまったが、箔を付ける為だと勘違いしてくれたらしく、嘲笑は起きなかった。代わりにバティルの切長の眼に鋭い光が宿って、杖を持つ手に力がこもる。
「そうか、魅了師殿。先程も触れたが、我が国は貴殿を招待はしておらぬ。だが…遣わした此奴らが貴殿の同行を許さざるを得なくなり、今ここにいる訳だが」
バティルは言葉を切り、視線をちらりと俺の後ろに向けたが直ぐに元に戻す。振り返らなくても、こいつが火竜達を…正しくはボス火竜に乗っている姫達を見たのが分かった。
「本来ならば門前払いか捕縛となるが、どちらも少し難しそうだ。さりとて容易く貴殿の入国を許可出来るかと言えば、我が国の安全上難しい。そこは理解して貰えるだろうか」
「理解したとして、どうする?」
「出来れば…貴殿にはお引き取り頂きたい。無論、手ぶらとは言わぬ。火竜の返還も含めて、満足出来る報酬を支払おうではないか」
ふぅん…。要は俺を排除したいけど、火竜の群れを使役している上に姫にも手を出せないのが現状。
なので試しに、俗人なら飛びつく「穏便な打開案」を提示したって訳か。陳腐さに思わず喉で笑ってしまった。
けど、俺から顔を逸らしていては攻撃も、主を守ることも出来ない。しかも仮面だから、俺の『目』を避けるのは難しいだろう。
どうやら俺は、ラシャド達には剣技や攻撃魔法はからっきしで、軽い防御魔法と『魅了』しか出来ないと思われてるっぽい。だから、お望み通り軽く「大人しくしてろ」と言う意思を込めてひと睨みすれば、途端に青ざめ動きが固まってしまった。
『魅了師は人や魔獣を誑し込むだけじゃないって、バティルに従ってるなら分かってるんじゃ…』
とはいえ、『黒の魅了師』程の有名人を知ってても、「特質」とかはご存じ無いらしい。例えば使役抜してなくても「とんでもないモノ」を召喚出来る…とか。
ザビア将軍も言っていたっけ。
俺が生まれ育った西の大陸に比べ、ここ南の大陸での魔法魔術の進歩発展は遅れていると。言い方悪いけど、発展途上国のようなものか。
だからこそ幻獣を召喚し、守護獣としたカルカンヌは小国なのに一目置かれていた。
そして、若くとも高い魔力を持ち魔法を駆使出来る者達はのし上がれる。ラシャドやバティルがいい例だ。
「愚か者どもが。下がれ!」
「もっ、申し訳…っ!」
ラシャド達を一括して後ろに下がらせたバティルの顔に、僅かだが隠せない苛立ちが浮かんだ。直ぐに消し去り口角を上げたが、双眼は全く笑っていない。
そして二メートル程距離を残して立ち止まった俺を、値踏みするような焦茶色の目でじっと見つめてきた。
「…大聖樹の杖、白磁に金と黒の模様の入った仮面…。ふむ、伝え聞いた特徴とは合っている…か」
憚かる事なく、俺の出で立ちと『黒の魅了師』のそれを検証している。
こいつも『魅了師』の端くれだからか、滅多に出没しないヒエラルキーの頂点の詳細な特徴を把握していた。
『おいユキヤ。あのクソったれエルフの『縛り』が『俺』の気配を抑えてやがるが、念には念だ。俺は『口』を出さねぇから、お前が奴と話をつけてみろ』
バティルが俺を観察してる最中、ベルが指示を出してきた。最後に『雲行きがいよいよヤバくなったら、迷わず俺を『召喚』しろ』と付け加えて。
『…まぁ、よほど俺がポカしたらな』
『…………』
はっきりと肯定しなかったのが気に入らなかったらしい。
ベルは抗議なのか、俺の下顎を甘噛みして鎌首を擦り付ける。痛くはなくて擽ったいそれに、思わず肩を震わせ忍び笑いが漏れてしまった。
俺と飾りのペット(だと思ってるんだろう)が戯れてるのを余裕と受け取ったか、ラシャド達が殺気を伴い歯噛みしてる。
バティルは首に緩く巻きついてる黒蛇を一瞥した後、やっと俺と『目』を合わせてきた。
こいつの一番強い力がそれらだからか、魔力の質がダイレクトにわかる。ねっとりとした、冷たくて粘着質な…嫌な感じだ。
「おい。名乗りもせず不躾にジロジロ見ていたが、さっさと『打ち合わせ』を始めたらどうだ?」
『なっ!?きっ、貴様!」
「無礼者!バティル様に何という物言いぞ!!」
気を引き締め、努めて横柄な声音で言い放った俺にラシャド達は激昂する。
まあ、バティルは一国の宰相様でこいつらに取って主。かたや俺は一介の魔術師風情だから当然だ。
けど、心情はどうであれ当の本人は殺気マックスの部下達とは違い、鷹揚な態度を崩さなかった。
「これは失礼。ザビア殿下から聞き及んでいるだろうと思ってな。私はオンタリオ王国宰相、バティル・ハリエと言う」
「ああ、知っているよ。あんたの部下から聞いていると思うが、俺は…『黒の魅了師』だ」
但し偽のですけどね、と心の内で呟いておく。
フリがいまだに慣れないから、名乗るのをちょっと躊躇ってしまったが、箔を付ける為だと勘違いしてくれたらしく、嘲笑は起きなかった。代わりにバティルの切長の眼に鋭い光が宿って、杖を持つ手に力がこもる。
「そうか、魅了師殿。先程も触れたが、我が国は貴殿を招待はしておらぬ。だが…遣わした此奴らが貴殿の同行を許さざるを得なくなり、今ここにいる訳だが」
バティルは言葉を切り、視線をちらりと俺の後ろに向けたが直ぐに元に戻す。振り返らなくても、こいつが火竜達を…正しくはボス火竜に乗っている姫達を見たのが分かった。
「本来ならば門前払いか捕縛となるが、どちらも少し難しそうだ。さりとて容易く貴殿の入国を許可出来るかと言えば、我が国の安全上難しい。そこは理解して貰えるだろうか」
「理解したとして、どうする?」
「出来れば…貴殿にはお引き取り頂きたい。無論、手ぶらとは言わぬ。火竜の返還も含めて、満足出来る報酬を支払おうではないか」
ふぅん…。要は俺を排除したいけど、火竜の群れを使役している上に姫にも手を出せないのが現状。
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