黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
148 / 194
第五章

嫌な可能性

しおりを挟む
「なんと!やはりあの男が…!!」

一緒に聞いていたザビア将軍の顔が剣呑になる。
シェンナ姫は不安げに目を陰らせていたが、無言のままだった。

俺は再び後ろを振り返りラシャドを見ると、相変わらず憎々しげに顔を歪め、殺意のこもった目で俺を睨んでいた。あいつは上司…いや、主であるバティルに心酔しているみたいだけど、『魅了』によるものなのかな。それとも…。

『それからあいつ、『いや、まだあの御方が召喚した…』って言いかけたよ』

「あの御方が召喚した?それから奴はなんて?」

『分かんない。あわてて口閉じちゃったから』

多分、俺が魔法か何かで聞き耳立ててるとでも思ったんだろう。実際ベルがフウを使って盗聴してたから、その判断は正しい。

「ラシャドが…じゃないだろうな。御方って、バティル…?一体何を…」

『少なくとも、火竜サラマンダー魔鳥スラッシュはバティルって野郎が使役していた。グリフォンの呪いの根源も奴として、更に切り札になる召喚獣も…か?』

ベルは不可解そうに目を細め、チロチロと忙しなく舌を出し入れしている。俺も増えてしまった謎に眉根を寄せた。

「御方」をバティルと仮定して、奴は何かを召喚している。そしてそれは、俺たちへの切り札になり得る存在のようだ。

『ひょっとしたら…。『ソレ』は、この火竜サラマンダー達よりも強い魔獣なのか…?』

だけど、グリフォンと従魔にかけた呪いの強さがチグハグな謎が残ってる。

バティルって奴の単独犯ではなくて国の術師も加わって、グリフォンに掛けた『呪い』を完成させた…ってのなら納得がいくような気がするけど、そんな男が『召喚』した切り札?

『う~ん…。こんがらがった系を解こうとしてるみたいでイライラする!考えが堂々巡りになっちまうな?』

そもそも、シェンナ姫を執拗に欲しがってる理由はなんだ?グリフォンの力を奪い取っているのと、関係あるんだろうか。

「あの…魅了師殿」

悶々としていた俺に、ザビア将軍が少し躊躇いながら声をかけてきた。気を遣わせてしまったかなと振り向くと、彼は俺というより魔鳥スラッシュに視線を向けている。

「あなたの肩に停まっている魔鳥を見ていて、思い出したことがあります。謁見の際、バティルの肩に奴の使い魔だというカラスが乗っておりました」

『…カラスだと?』

ザビア将軍の言葉を聞いた途端、何故かベルがピクリと反応する。鎌首をぐいっと将軍に向け、珍しく『声』を出して問い掛けた。

『奴が肩に乗せていたカラスだが、目は何色だったか覚えているか?』

ザビア将軍は、ベルがいきなり喋った事に驚いた様子だったが、俺の従魔だからか、それとも何でもありと割り切っているのか、素直にベルの疑問に答える。

「確か…貴方の瞳と同じ深紅でした。魔鳥にはよくある色ですが、一際深かったので印象に残っております」

『…そうか…』

ベルは舌をチロチロと忙しなく出し入れながら考え込み、やがて双眼を細めた。

「あの、それが何か…?」

戸惑うザビア将軍と同じく、俺も不思議そうに首元のベルを見下ろす。バティルが肩に乗せていたカラスに興味を示してるけど、それがグリフォンの呪いと関係あるのか?

「ベル?」

『俺の考えが正しければ、事は少し厄介かもしれねぇな…。オンタリオに到着するまであと少し。…おいユキヤ』

ベルは巻きついていた体を上げ、俺の唇に当たる仮面の部分をコツンとつついた。

『オンタリオ国かバティルか。どうやら、画策してるヤツの裏にいる『諸悪の権化』を炙り出す必要がありそうだ』

「諸悪の権化!?おい、それってどういう……」

そこで俺は言葉を切った。

ひょっとしたら…。バディルが召喚したのかもしれない『ソレ』は、決して召喚してはならない者だったのかもしれない。

『そう…。例えば…』

再び俺の首元に戻ったベルに目を落しながら、俺はその嫌な可能性に思いを巡らせたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

花の聖女として異世界に召喚されたオレ

135
BL
オレ、花屋敷コガネ、十八歳。 大学の友だち数人と旅行に行くために家の門を出たらいきなりキラキラした場所に召喚されてしまった。 なんだなんだとビックリしていたら突然、 「君との婚約を破棄させてもらう」 なんて声が聞こえた。 なんだって? ちょっとオバカな主人公が聖女として召喚され、なんだかんだ国を救う話。 ※更新は気紛れです。 ちょこちょこ手直ししながら更新します。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

処理中です...