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第五章
宰相バティル
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『…ぉい…おい!ユキヤ』
ベルに脳内で名を呼ばれ、ついでに軽く尻尾で頬を叩かれ我に返る。
回想にかなり没頭していたようで、意識を首に巻きついている蛇へと向けた。ちなみに、ベルが俺の本名を呼ぶ時は脳内会話である。
『なに?ベル』
『なに?ベル、じゃねぇ!さっきから呼んでるってのに無視しやがって!』
いや、無視してたんじゃなくて神殿での話し合いを振り返っていたんだけど!?と反論しかけた俺に構わず、ベルは鎌首をくいっと上げた。
『見ろ、おいでなすったぞ』
『え?』
ベルが指し示す…上空を見上げてみる。
雲一つない真っ青な空には、何も居ないかのように『普通の人間』の目には映るだろう。だけど、俺の『目』は特別製だ。
『…鳥…?いや、あれは…魔鳥か?』
認識阻害がかかっているのか、少しブレているけど間違いなく飛翔する物体がいた。
ベル曰く、例の呪いと同じ瘴気がするから、間違いなく例の術者に使役された魔鳥だそうだ。
『お前が長火竜の魅了と呪いを壊したんだ。異常を知った元使役者が探りを入れてくるのは当然だろう。大方アレの『目』を使って覗き見てやがんだろうな』
まあね。ラシャドからの連絡が無ければ、術者から行動するしかない。鳥と認識できるギリギリの高さで飛行してて、いまいち大きさや種類が分からないけど、時折りグライディングしてるから鷲?鷹系の魔鳥かな。
『これ以上の情報をくれてやる必要はない。火竜と同じく使役を壊せ』
確かに。ベルが気付く少し前から俺達を『視て』いたとして、確実に俺の存在と今現在の異常な状況は知られたろうからな。
『了解。あの時と同じ様に…だな?』
俺は上空を、正しくは飛翔している魔鳥をじっと見つめる。そして、それが「解放されて自由になるように」願った。
ピュルルル~…!!
「な、何だ!?」
甲高い鳴き声が空に響いたと思ったら、突如羽ばたきと共に上空から鳥が姿を現したのだ。
驚きの声を上げ、ザビア将軍は妹を守る様に抱きしめ、剣に手を掛けたのを俺は「大丈夫」と制止する。
魔鳥は忙しなく羽根を撒き散らしていたが、やがて動きも安定してしていく。
そのまま飛び去るかと思ったのだが、それは真っ直ぐ俺へと降下してきた。
「魅了師殿!」
ザビア将軍の焦りを他所に、魔鳥はふわりと俺の肩へ停まった。きちんとフウを認識してるらしく、空いていた方に。
クルクルと甘える様に鳴くそれは、漆黒だけど見た目は小型の鷹そのものだ。
『スラッシュか。こいつは『空の便利屋』だ。攻撃力は殆どないが、風を操って俊速で飛べる上に、さっきのように気配を隠蔽するのに長けている』
『へえーっ』
ほっぺた辺りを掻いてやると、気持ち良さそうに目を閉じて指に擦り寄ってきた。
召喚できるほど魔力の高い者なら、比較的使役しやすく利便が良いらしい。
辛辣だしへこむ事も多々あるけど、俺にとってはベル(の蘊蓄)が一番役に立つし便利だな…。なんて考えたら、『従魔と一緒にすんな!』って耳たぶ噛まれた。いてっ!
「こ、これは……?」
「あ…はは。自由になれって願ったんだけど」
まだ状況を把握してないザビア将軍に、俺は引き攣り笑うしかない。
使役するつもりなんて無かったのに、火竜への魅了再びってやつか。一応ざっと説明したら、「流石です!」とまたもや二人してキラキラしい目を向けてくれた。
『魂を『魅了』されるのと『縛られる』のとでは根本的に違う。大抵の魅了師モドキは従魔を縛れても、真の意味で魅了は出来ていない。故に、真の『魅了師』に容易く壊されてしまうんだ』
でも俺は修行も全くしていないし、真の魅了師って言われても…と呟いた俺の脳内に、ベルの諭すような声は静かに、そして低く響いた。
『ユキヤ、お前はソロモン級の潜在能力を持ってるってのを忘れんな。特にお前の魂は『目』よりも万物を魅了し、否応なく惹きつける』
ベルは俺に懐きまくってるスラッシュを一瞥してから、面白く無さそうに口を尖らせているフウを『おい羽虫』と声をかけた。それからじっと睨む事暫し。
どうやら念話で何やら命令したみたいで、『だからぁ、オマエがめーれーすんな!』とフウは頬を目一杯膨らませてたけど、渋々俺の肩から飛び立っていった。
『ベル。フウになに命じたんだ?』
『どうにも腑に落ちねえ…』
『?何がだよ』
『魔鳥もそうだが火竜もだ。幻獣であるグリフォンに施した呪い。アレは上位悪魔程度なら破れる、中々に厄介な代物と言える。それ程の術を駆使する者にしては、魔鳥と火竜にかかっていたのは余りにもお粗末だ』
それは…俺も感じてた事だった。ラシャドに挑発され、図らずも火竜を使役してしまった時、俺の中で違和感が生じたのだ。
術者は、『魅了』と『呪い』の二重掛けで強化しなければボス火竜縛れなかったのだ。なら、どうやって幻獣グリフォンが破れない程の『呪い』を発動できたのだろう?しかも気づかれず、巧妙に…。
『いってきたぞーハ虫類!』
唐突に鈴のような声が耳元で聞こえ、振り返れば肩でむくれた顔のままあぐらをかいてるフウがいた。
『そうか羽虫、さっさと話せ』
『羽虫いうな黒ヘビ!』
聞けば、後方のラシャドの言動を盗み聞いてこいと命令したらしい。フウも俺の役に立つとわかってるから、イヤイヤでも従ったみたいだ。
でもなんか…ベルさ。俺の精霊を自分の使い魔扱いしてない?
『あのラシャド?って奴、マスターをすっごくイヤな目でにらんでブツブツ喋ってた。え?っと、『火竜だけでなく、バティル様の魔鳥まで..』って呟いてた』
「!?ラシャドは『バティル』って言ってたのか!」
『うん、まちがいないよー』
これで疑惑は確信に変わった。
グリフォンや火竜に『呪い』をかけ、魔鳥を使役していたのはオンタリオの宰相、バティルで確定だ。
ベルに脳内で名を呼ばれ、ついでに軽く尻尾で頬を叩かれ我に返る。
回想にかなり没頭していたようで、意識を首に巻きついている蛇へと向けた。ちなみに、ベルが俺の本名を呼ぶ時は脳内会話である。
『なに?ベル』
『なに?ベル、じゃねぇ!さっきから呼んでるってのに無視しやがって!』
いや、無視してたんじゃなくて神殿での話し合いを振り返っていたんだけど!?と反論しかけた俺に構わず、ベルは鎌首をくいっと上げた。
『見ろ、おいでなすったぞ』
『え?』
ベルが指し示す…上空を見上げてみる。
雲一つない真っ青な空には、何も居ないかのように『普通の人間』の目には映るだろう。だけど、俺の『目』は特別製だ。
『…鳥…?いや、あれは…魔鳥か?』
認識阻害がかかっているのか、少しブレているけど間違いなく飛翔する物体がいた。
ベル曰く、例の呪いと同じ瘴気がするから、間違いなく例の術者に使役された魔鳥だそうだ。
『お前が長火竜の魅了と呪いを壊したんだ。異常を知った元使役者が探りを入れてくるのは当然だろう。大方アレの『目』を使って覗き見てやがんだろうな』
まあね。ラシャドからの連絡が無ければ、術者から行動するしかない。鳥と認識できるギリギリの高さで飛行してて、いまいち大きさや種類が分からないけど、時折りグライディングしてるから鷲?鷹系の魔鳥かな。
『これ以上の情報をくれてやる必要はない。火竜と同じく使役を壊せ』
確かに。ベルが気付く少し前から俺達を『視て』いたとして、確実に俺の存在と今現在の異常な状況は知られたろうからな。
『了解。あの時と同じ様に…だな?』
俺は上空を、正しくは飛翔している魔鳥をじっと見つめる。そして、それが「解放されて自由になるように」願った。
ピュルルル~…!!
「な、何だ!?」
甲高い鳴き声が空に響いたと思ったら、突如羽ばたきと共に上空から鳥が姿を現したのだ。
驚きの声を上げ、ザビア将軍は妹を守る様に抱きしめ、剣に手を掛けたのを俺は「大丈夫」と制止する。
魔鳥は忙しなく羽根を撒き散らしていたが、やがて動きも安定してしていく。
そのまま飛び去るかと思ったのだが、それは真っ直ぐ俺へと降下してきた。
「魅了師殿!」
ザビア将軍の焦りを他所に、魔鳥はふわりと俺の肩へ停まった。きちんとフウを認識してるらしく、空いていた方に。
クルクルと甘える様に鳴くそれは、漆黒だけど見た目は小型の鷹そのものだ。
『スラッシュか。こいつは『空の便利屋』だ。攻撃力は殆どないが、風を操って俊速で飛べる上に、さっきのように気配を隠蔽するのに長けている』
『へえーっ』
ほっぺた辺りを掻いてやると、気持ち良さそうに目を閉じて指に擦り寄ってきた。
召喚できるほど魔力の高い者なら、比較的使役しやすく利便が良いらしい。
辛辣だしへこむ事も多々あるけど、俺にとってはベル(の蘊蓄)が一番役に立つし便利だな…。なんて考えたら、『従魔と一緒にすんな!』って耳たぶ噛まれた。いてっ!
「こ、これは……?」
「あ…はは。自由になれって願ったんだけど」
まだ状況を把握してないザビア将軍に、俺は引き攣り笑うしかない。
使役するつもりなんて無かったのに、火竜への魅了再びってやつか。一応ざっと説明したら、「流石です!」とまたもや二人してキラキラしい目を向けてくれた。
『魂を『魅了』されるのと『縛られる』のとでは根本的に違う。大抵の魅了師モドキは従魔を縛れても、真の意味で魅了は出来ていない。故に、真の『魅了師』に容易く壊されてしまうんだ』
でも俺は修行も全くしていないし、真の魅了師って言われても…と呟いた俺の脳内に、ベルの諭すような声は静かに、そして低く響いた。
『ユキヤ、お前はソロモン級の潜在能力を持ってるってのを忘れんな。特にお前の魂は『目』よりも万物を魅了し、否応なく惹きつける』
ベルは俺に懐きまくってるスラッシュを一瞥してから、面白く無さそうに口を尖らせているフウを『おい羽虫』と声をかけた。それからじっと睨む事暫し。
どうやら念話で何やら命令したみたいで、『だからぁ、オマエがめーれーすんな!』とフウは頬を目一杯膨らませてたけど、渋々俺の肩から飛び立っていった。
『ベル。フウになに命じたんだ?』
『どうにも腑に落ちねえ…』
『?何がだよ』
『魔鳥もそうだが火竜もだ。幻獣であるグリフォンに施した呪い。アレは上位悪魔程度なら破れる、中々に厄介な代物と言える。それ程の術を駆使する者にしては、魔鳥と火竜にかかっていたのは余りにもお粗末だ』
それは…俺も感じてた事だった。ラシャドに挑発され、図らずも火竜を使役してしまった時、俺の中で違和感が生じたのだ。
術者は、『魅了』と『呪い』の二重掛けで強化しなければボス火竜縛れなかったのだ。なら、どうやって幻獣グリフォンが破れない程の『呪い』を発動できたのだろう?しかも気づかれず、巧妙に…。
『いってきたぞーハ虫類!』
唐突に鈴のような声が耳元で聞こえ、振り返れば肩でむくれた顔のままあぐらをかいてるフウがいた。
『そうか羽虫、さっさと話せ』
『羽虫いうな黒ヘビ!』
聞けば、後方のラシャドの言動を盗み聞いてこいと命令したらしい。フウも俺の役に立つとわかってるから、イヤイヤでも従ったみたいだ。
でもなんか…ベルさ。俺の精霊を自分の使い魔扱いしてない?
『あのラシャド?って奴、マスターをすっごくイヤな目でにらんでブツブツ喋ってた。え?っと、『火竜だけでなく、バティル様の魔鳥まで..』って呟いてた』
「!?ラシャドは『バティル』って言ってたのか!」
『うん、まちがいないよー』
これで疑惑は確信に変わった。
グリフォンや火竜に『呪い』をかけ、魔鳥を使役していたのはオンタリオの宰相、バティルで確定だ。
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