黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
144 / 194
第五章

守りの石

しおりを挟む
遡ること一時間前。俺とラシャドとの「ちょっとしたやり取り」の後、日没まで半日も無いと言う事で早々にオンタリオ国へ向かう事となったのだが、ボス火竜サラマンダーは今や俺の従魔な訳で...。

以前の(仮)主人だったラシャドを拒絶し、「さあ乗ってください」とばかりに俺の前に平伏したのだ。

造形はめっちゃ怪獣もどきだけど、グルグルと喉を鳴らして尾っぽを横振りするボス火竜サラマンダー。ついつい「可愛い奴めっ!」って鼻面撫でくり回してしまい、ベルに強烈な尾っぽビンタされてしまった。

「凄い…!火竜サラマンダーが、これ程人慣れる姿を見たのは初めてです」

なんて、ザビル将軍はキラキラした目で、ラシャド達は信じられないとばかりに引き攣った顔で俺を見てたっけ。

で、結局ボス火竜サラマンダーに俺と姫と将軍が乗り、ラシャドが副ボス火竜サラマンダーに、その他の兵達も後方からついてオンタリア国へ向かう…と言うことになったのだ。ちなみに侍女達は後方の一頭に乗っている。

それにしても、火竜サラマンダー達は馬みたいに鞍とか綱とかいう装備が何も付いてなかったのには困惑した。

どうやって乗るもんだろうか?と首を傾げる俺に、以前騎乗した事があるザビア将軍が「コレの前足から上がってください」と指示してくれたので従ってみると。

「おおっ!」

なんと、背中のヒダが一斉にペタリと寝て、クッションみたいになったのだ。しかも、首のすぐ後ろあたりに跨がれば、寝ていた前のヒダがピョコンと立ったではないか。何これ面白いっ!

「不安でしたら、それを掴んで手綱がわりにして下さい」

俺がワクワク興奮しているのが分かるのか、ザビア将軍はクスッと笑いながらシェンナ姫を横抱きにして、軽々ステップを踏むように上がってきた。

流石グリフォンの血脈。風の魔力で自身を軽量化して、将軍に至っては身体能力も上げてると見た。そんな彼らは俺のすぐ後ろの位置に腰を下ろす。尤も姫は横抱きのまま兄の膝に乗っていたけど。

ザビア将軍曰く、砂漠に限っては火竜サラマンダー以上に安定した乗り物はないのだそうで、成る程だから手綱とか鞍とかも必要ないんだなと納得する。

『ユキヤ、お前もそうだが、羽虫にも防御結界を張らせろ。そして長トカゲに後ろの連中を見張れと言っておけよ』

「ああ、勿論だ」

ラシャド達には、前もってベルバージョンの俺が釘を刺してある。移動中、ちょっとでも魔法の類いを発動しようものなら、火竜サラマンダーに振り落とされてしまうぞ…と。

だから下手な考えは起こさないとは思うが、これから数時間敵に背を向けるのだ。姫がいるから攻撃はされない…なんてお気楽思考は持ちあわせない。

『羽虫言うなー!』と怒るフゥを宥めながら結界を二重に張り、ボス火竜サラマンダーにも部下達に眼を光らせるよう「お願い」して今現在。ラシャド達の殺意こもった視線以外、移動は軽快かつ快適に進んでいるのだった。

「シェンナ姫、気分はどう?暑くない?」

「ええ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

後ろを振り返り尋ねた俺に、姫は首を横に振って唯一見える目を細める。砂漠を移動する際の日除けだろう。彼女と侍女達は、中東の女の人達が着ているみたいな真っ黒い布を被っている。

地球の砂漠地帯のように、乾燥し四十度を超える過酷さはないが、それでも暑い。ザビア将軍もだけど、ラシャド達も軍服がアラビア風で布を緩く巻き付け、直射日光を遮る仕様だ。

「魅了師殿こそ暑くはありませんか?脱水を起こしたら事です、この水を飲まれたら...」

逆にザビア将軍が心配して、携帯している水筒を差し出してくれる。確かに俺は全身黒づくめな上、砂漠の移動も初めてだもんな。

けど、心配ご無用。仮面がなんかいい仕事してくれてるみたいで、体温調節はばっちりなのだ。フゥも肩にとまりながら、冷たい風を送ってくれてるし。だからフゥの冷風を二人に送ろうかと聞いたら、また「大丈夫です」と返ってきた。

「…コリン様が…下さった『これ』がありますので」

そう言って大事そうに胸元から取り出したのは、白金のネックレス。チェーンに通されたヘッドは、アクアブルーの魔石が白金の蔦が絡んだデザインになっている。魔石は姫の小指の爪ほどの小ささだが、一眼見て貴重なものだとわかった。

『ほぅ…高濃度の水の魔力が込められているな』

「はい。とても大切な…私の宝物です」

ベルが鎌首を伸ばし、じっと見てから呟いた言葉を、俺の言葉として伝えた所、シェンナ姫はまた嬉しそうに目を細めた。

オンタリオとカルカンヌ、両国の間には険しい山と砂漠がある為、大人でも厳しい旅程になる。ましてや女子供ともなれば、相当どころではない過酷さが伴う。

でも、いつか自分の国に来て貰えたら、砂漠を渡る際に少しでも楽出来るように…と。2年前特使として訪れた際、てずから贈ってくれたのだそうだ。

それを着けていれば、灼熱から身を守ってくれるだけではなく、体内の温度調節や水分補給も賄える優れものらしい。そして、身に着けている者だけではなく、ザビア将軍みたく密接している者も恩恵を受ける事ができるとか。

ベルが(ちょっとだけ)感嘆するだけあり、コリン王太子が…シェンナ姫をどれだけ大切に思っていたのかが知れる逸品だ。

だからこそ、自分を無理やり嫁がせる為、カルカンヌに行った蛮行に彼が加担している…など考えられない。いや、考えたくないのだろう。

「………」

キュッとネックレスを握り、一瞬だけ悲しそうに瞳を揺らしたシェンナ姫に、俺も仮面の中で眉根を寄せた。

後方の一群をざっと見渡してから、俺は再び前方を見据える。そして、最終的な打ち合わせをグリフォンの居る部屋で話し合った時の事を回想した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...