143 / 194
第五章
黒い石
しおりを挟む
姫と将軍が共にいるにならば、あの男はカルカンヌ王国が雇った者なのか?
グリフォンの命も後わずかで尽きかける、力も無いあの弱小国が舐めた真似を…!
「姫を連れて此方に向かっている…のであれば、輿入れに同行しているだけなのか…?ならば何故、我が国の火竜を使役した!あの男の…いや、カルカンヌの真の狙いは…!?」
思考を巡らしていた男の、揺らしていた肩が不意に止まる。
そして、険しかった顔を更に歪めさせ「グリフォンか」と呟いた。
あくまでも憶測でしかない。
だが、もしもこの国がグリフォンに『呪い』を施し、力を搾取しているのを知られたとしたら…。
ならば、依頼を受けた仮面の男が輿入れに乗じ、この国にやって来るのも説明がつく。
そう。この私の…『呪い』を壊す為に。
「――ッ!…くそっ!早急に対策を立てねば!!」
カルカンヌがこのように大胆な手を使って来るくらいだ。あの仮面の男…魅了師は、相当の手練れ。
いや、そもそも『魅了師』を堂々と名乗れるのだ。その時点で力があると示しているようなものだ。
『魅了師』の名は、それ程までに強く……そして重いものなのだから。
「落ち着け……。まず考えなくてはならないのは……」
火竜が掌握されているのは間違い無いし、ラシャド達も魅了に侵されている可能性も高い。それに後一刻もすれば、火竜達は砦の正門に到着する。仮面の男に使役された長率いる百以上の火竜達が。
万が一の為、火竜の炎を防ぐ水の結界を防壁に施してある。
とは言え、あの男に命じらた奴等が一斉に牙を剥けば、甚大な被害が…いや、下手をしたら王都に壊滅的な損害が出てしまうだろう。
半ばパニックに陥り掛けていた男だったが、握っている杖を視界に入れ、先端に埋め込まれている『ある物』を目にした途端、ニヤリと口端を歪めた。
「……いや。恐る事などない。私の手はグリフォンの力と…命をも握っているのだから
男の双眼に映っているのは、鈍い光を放つ黒い石だった。
視る者が見れば、それがただの飾りではないと分かる、禍々しいそれ。
「たかが火竜を使役しただけで勝ったつもりでいる、愚か者が。『かの者』を召喚し、幻獣に呪いを掛けたこの私に勝てる訳がない。『魅了師』が何程のものぞ!あの仮面の男など、ザビア共々隙をついて滅してくれるわ!そして…姫を我が手に…!」
男は一転して余裕の色を浮かべ、くくく、と喉奥で嗤う。
細められた双眼は、焦茶から金を含んだ茜色に変わっていたのだった。
◇◇◇◇
「うおー!速いなぁ!!」
『当たり前だ。爬虫類系の中でも、火竜は砂漠地帯に特化した魔獣だからな』
砂の上を、まるで滑るように走る火竜の上で興奮し、はしゃぐ俺にベルの呆れを含んだ声が続いた。しかも殆ど揺れない抜群の安定感で、「お前凄いなぁ!」って首を撫でてほめたら、嬉しそうに喉を鳴らす。うん、やっぱり可愛いぞ。
オンタリア国までは、この砂漠を火竜で駆ければ数時間で到着出来るらしい。成程、流石は砂漠特化型!
ちなみに。オーガやラミア達、砂漠の移動に強い亜人兵は火竜に乗ってない。頭数の兼ね合いもある為、一日掛けて国に戻るそうだ。
で、今現在。俺は将軍と姫の三人でボス火竜に騎乗し、先頭を爆走していた。広がるように後方を走っているのは、ラシャドと奴の親衛隊。さらに後方には主に人間種の兵達を乗せた火竜達が付いてきている訳なんだが。
……うん。ちょっと絵面的におかしいと自分でも思う。普通は迎えに来た国の人間が先導するもんだよな。けど、こうなったのは必然というか…。
グリフォンの命も後わずかで尽きかける、力も無いあの弱小国が舐めた真似を…!
「姫を連れて此方に向かっている…のであれば、輿入れに同行しているだけなのか…?ならば何故、我が国の火竜を使役した!あの男の…いや、カルカンヌの真の狙いは…!?」
思考を巡らしていた男の、揺らしていた肩が不意に止まる。
そして、険しかった顔を更に歪めさせ「グリフォンか」と呟いた。
あくまでも憶測でしかない。
だが、もしもこの国がグリフォンに『呪い』を施し、力を搾取しているのを知られたとしたら…。
ならば、依頼を受けた仮面の男が輿入れに乗じ、この国にやって来るのも説明がつく。
そう。この私の…『呪い』を壊す為に。
「――ッ!…くそっ!早急に対策を立てねば!!」
カルカンヌがこのように大胆な手を使って来るくらいだ。あの仮面の男…魅了師は、相当の手練れ。
いや、そもそも『魅了師』を堂々と名乗れるのだ。その時点で力があると示しているようなものだ。
『魅了師』の名は、それ程までに強く……そして重いものなのだから。
「落ち着け……。まず考えなくてはならないのは……」
火竜が掌握されているのは間違い無いし、ラシャド達も魅了に侵されている可能性も高い。それに後一刻もすれば、火竜達は砦の正門に到着する。仮面の男に使役された長率いる百以上の火竜達が。
万が一の為、火竜の炎を防ぐ水の結界を防壁に施してある。
とは言え、あの男に命じらた奴等が一斉に牙を剥けば、甚大な被害が…いや、下手をしたら王都に壊滅的な損害が出てしまうだろう。
半ばパニックに陥り掛けていた男だったが、握っている杖を視界に入れ、先端に埋め込まれている『ある物』を目にした途端、ニヤリと口端を歪めた。
「……いや。恐る事などない。私の手はグリフォンの力と…命をも握っているのだから
男の双眼に映っているのは、鈍い光を放つ黒い石だった。
視る者が見れば、それがただの飾りではないと分かる、禍々しいそれ。
「たかが火竜を使役しただけで勝ったつもりでいる、愚か者が。『かの者』を召喚し、幻獣に呪いを掛けたこの私に勝てる訳がない。『魅了師』が何程のものぞ!あの仮面の男など、ザビア共々隙をついて滅してくれるわ!そして…姫を我が手に…!」
男は一転して余裕の色を浮かべ、くくく、と喉奥で嗤う。
細められた双眼は、焦茶から金を含んだ茜色に変わっていたのだった。
◇◇◇◇
「うおー!速いなぁ!!」
『当たり前だ。爬虫類系の中でも、火竜は砂漠地帯に特化した魔獣だからな』
砂の上を、まるで滑るように走る火竜の上で興奮し、はしゃぐ俺にベルの呆れを含んだ声が続いた。しかも殆ど揺れない抜群の安定感で、「お前凄いなぁ!」って首を撫でてほめたら、嬉しそうに喉を鳴らす。うん、やっぱり可愛いぞ。
オンタリア国までは、この砂漠を火竜で駆ければ数時間で到着出来るらしい。成程、流石は砂漠特化型!
ちなみに。オーガやラミア達、砂漠の移動に強い亜人兵は火竜に乗ってない。頭数の兼ね合いもある為、一日掛けて国に戻るそうだ。
で、今現在。俺は将軍と姫の三人でボス火竜に騎乗し、先頭を爆走していた。広がるように後方を走っているのは、ラシャドと奴の親衛隊。さらに後方には主に人間種の兵達を乗せた火竜達が付いてきている訳なんだが。
……うん。ちょっと絵面的におかしいと自分でも思う。普通は迎えに来た国の人間が先導するもんだよな。けど、こうなったのは必然というか…。
5
お気に入りに追加
935
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★


気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる