黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第五章

強い願い

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「……あ!」

すると、縦われた金の瞳を包む、人間で言う白目の部分が真っ黒になっている。
ベル曰く、本来火竜サラマンダーのそれらは赤いのだそうだ。

しかもその黒。グリフォンに鎖のように絡み付いていた禍々しさと、非常に似通っている。でも、『魅了』なのに呪いが重なってるのか…?

「どうした、もっと近づかないと躾直しは出来んのではないか?」

ベルに疑問を投げかけようとして、ラシャドに嫌味を投げられた。どうやら怖気付いてると思われてるっぽい。

『話はまた後だ。ユキヤ、一先ずトカゲ共を『魅了』しろ』

「だからっ!俺は『魅了』の仕方なんて習ってないし、仮面つけたまんまでは無理だろ?」

『阿呆、さっきも言ったろうが。幻獣に比べればトカゲ如き、お前なら仮面つけててもお釣りがくる。いいか、コイツを従わせるという意思を込めながら、目を決して逸らすな」

「う~…クソッ、分かったよ!」

目の前に立ってという指定付きだし、腹を括ってやるしかない。ベルの言葉に従って、俺は一歩を踏み出した。

「……あ」

ゆっくりと、目を逸らさず丹田に力を入れながら火竜サラマンダーに数歩近づいた所で、俺は知らず声を漏らしてしまった。

牙を剥き出し唸るソレから、否応なく感じ取れる禍々しさ。ベルの言っていた匂い瘴気を、俺も感じとれてしまう。
言いたかないけど、この匂い瘴気…なんて醜悪なんだ。きっとこれをかけた奴の心が、腐り切っているからに違いない。

それにしても……。さっきも疑問に思ったけど、何故『呪い』と『魅了』が同時に掛かっているんだろう?

『簡単な事だ。雑魚の火竜トカゲ数匹ならば必要なかったろうが、これだけの群れを統べるコイツを使役するには、術者の「力」魅了が足りなかったんだよ』

俺の疑問に、ベルはそう答えてくれた。

聞けば単体の火竜サラマンダーと違い、群れを束ねる程の力を持つボス火竜サラマンダーは別格なのだとか。しかもボスを使役できれば、精神共鳴している群れ全てを使役出来るそうだ。

ちなみに、ボス火竜サラマンダーに掛かっているのは魔力を奪い取る呪詛ではなく、精神支配系の呪いらしい。『魅了』と混ざっている為、俺がかけ直せば呪いも一緒に壊れると言うけどさ…。

『雑談はここまでだな。ユキヤ、あと数歩近づいたら一旦止まれ』

ベルの指示に従い、辛うじてボス火竜サラマンダーの攻撃範囲一歩手前で足を止めた。そして鼻息が届きそうな距離で、俺は更に高くなったボス火竜サラマンダーを見上げる。

流石によそ見とか雑念を浮かべられる状況じゃない。火竜サラマンダーは俺を凝視しながら喉奥で唸り声をあげてるだけだけど、今にも牙を剥き噛み付く素振りを見せている。

タール色の黒に染まってる目も、何やら墨汁を水に垂らしたみたい?なうねりが生まれていた。これって、『呪いと魅了』がレジストしてるのか…?

『さてユキヤ。お前はこいつトカゲをどうしたい?』

「え?どうしたいって…」

ベルが最初に言った様に…要は掛かっている『魅了と呪い』を壊して使役し直すって事だろ?つまり「使役したい!」って強く願えばいいんだよな。

不意に謎かけみたいな問いをされ、戸惑った俺にベルの低い声が脳裏にゆったりと響いてくる。そして、鎌首で目の前の火竜サラマンダーを指し示した。

『まあそうだ。”使役したい”、”服従させたい”、”ペットにしたい”…何なら”滅したい”でも良いな。だが確実なのは、お前が心の底からどうしたいのか願い、意志を固定させる事だ。それによって、お前の潜在能力魅了がより強く引き出される』

ユキヤ、お前が俺と最初に対峙した時のようにな。

「お前と、対峙した時…」

最後にベルに告げられた呟きは、一滴の水のように思考へ落ち波紋を広げていった。
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