黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
125 / 194
第四章

界渡りした粋な贈り物

しおりを挟む
「なあ、ベル。ずっと気になってたんだけどさ、『界渡り』って何?」

俺は、ごろりとキングサイズのベッドに横たわり、長くて大きな枕に後頭部を埋める。それから顔の横に移動したベルへ質問すると、実に詳細な答えが返ってきた。

『魂が別の次元の世界に転生する事だ。普通魂は生まれた世界の中を循環するように廻る。間違えて循環の輪から外れ、『外』に出たとしても界と界の間に在る次元の波に飲まれ、殆どの魂は他の世界に辿り着けない』

「へぇ?」

流石は永劫の時を生きる悪魔。噛み砕くように分かりやすく説明してくれる。ふんふんと真面目に聞いている俺に、ベルの講義はさらに続いた。

『ゆえに奇跡的に次元の波を超え、別の界に辿り着けた魂は研磨され、強くなる…という訳だ。稀に生きたまま界渡りをする奴もいるが、それは『異世界召喚』された『勇者』が殆どだな』

――勇者!?うわあ、王道ファンタジーだ!あれって、本当に召喚されていたんだ!そういえば、ベハティ母さんが一緒に戦ったのも、召喚された勇者だったって言っていたっけ。

『ところで。お前が以前言ってた『腐界』とは、地球上のどこに存在しているんだ?』

「……..」

「沼に沈んだお腐れ様の心の中」…なんて言える筈もなく、最後の言葉は綺麗にスルーさせてもらった。




「ん。まぁ間一髪ってところだったね」

乱雑に積み上がった本の上に腰掛け、目の前に浮かべた魔法陣に人差し指を当てていたウォレンは、モノクル越しの金の目から光を消した。

実はこの男、仮面を媒介にして己の『目』として使い、ユキヤ達の行動をしっかり覗き見ていたのである。退屈しのぎも兼ねた監視ではあったが、いざとなった時の保険も兼ねていた。

「ユキヤ…か。思っていた以上に面白い素材だったなぁ~。ベハティも、粋な贈り物を持ってきてくれたものだねぇ」

風の精霊を眷属にし、国の事情を関わった者達から知りえて行動を起こした。そして『黒の魅了師』としてではなく、己の信念と意志で立ち回った事により、グリフォンを認めさせるに至った訳だ。

何よりも、『魅了師』でありながら力を行使する事を是とせず相手を魅了しまくってるのだ。面白いにも程がある。

「何も教えなかったのに、予想を上回る良い動きをしてくれてる。結構綱渡り気味ではあるけど、及第点は与えても良いかもしれない」

誓約を違え、ペナルティが発生するリスクは考慮…してなさそうだったが。まあ、その程度の失敗は想定内だったから問題ない。

「それにしても危なかったなぁ。まさかあの子が僕の『縛り』を解くなんて。まぁ解いてもらわなきゃだけど、今はちょっとねー」

ウォレンは魔法陣を消すと顎に手をかけ、少しばかり首をかしげ思案する。そう、術はしっかり解けていたのだ。けれどこのままでは宜しくない方向に進みそうだったので、媒介にしている仮面から気付かれぬ様に術を掛け直したのだった。

僅かでも悪魔公デーモンロードに魔力の気配を察知されれば厄介だったが、幸い彼は目の前の獲物ユキヤに夢中だったので無事成功。都合よく勘違いもしてくれたが、もしこの事実を知ったらあの悪魔、確実に自分を殺しに来るだろう。

「無意識でアレか…。混ざりものとは言え、末恐ろしいものだ」

魅了の力は確固たる「意志」が伴えば、内包する魔力に比例して威力を増す。彼…ユキヤの潜在能力は自分を既に凌駕しているのかもしれない。

に、しても。仮契約を結んでいるとはいえ、自分を狙っている悪魔公デーモンロードを解き放つなど、一体どんな心理が働いたのやら。案の定しっかり襲われてたが、存外絆されているのか。

とは言え、これから山場を迎えるにあたって色恋は不要の産物だ。まだ試験は続いているのだから。

「さあ、ここから君はどう行動するんだろう?もしも『正解』に辿り着けたら…」

最後まで呟かず、ウォレンは黒と金の目を細めてうっそりと笑う。そしてハミングしながら、再び別の魔法陣を宙に出現させたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

処理中です...