123 / 194
第四章
名残を無視しつつ
しおりを挟む
「ん…っ」
こつん、と突くような蛇のそれとは程遠いキス。俺の唇を飲み込むような深いそれに息が上手く出来ず、くぐもった声が漏れた隙間を逃さず舌が捩じ込まれた。
「ンっ?!んんっ..!」
口腔を無遠慮に蹂躙していたベルの肉厚な舌が、縮こまっていた俺の舌を舐めたと思ったら絡め取られ、強く吸われて頭の芯が痺れてしまう。
離宮でされた時よりも濃厚なキスは飽く事なく続けられて、いよいよ酸欠になりかけた矢先。
「はっ…!....あ?」
漸く離れたと思ったのに、口端から溢れて伝い落ちた唾液を追うようにベルは舌を這わせ、蛇の時の定位置である俺の首筋に吸い付いたのだ。
「?…いっ!」
チリっとした痛みを感じて一瞬牙を立てられたのかと思ったけど、次いでぬるりとした舌に撫でられて、擽ったさに似た甘い痺れに濡れた吐息が漏れてしまった。
「はぁ…っ」
「ユキヤ」
舌全体で首を舐め上げられ、たまらず仰け反った喉元を金髪の毛先がくすぐって、更にベルの存在を濃厚に感じる。
「ふふ....お前は、どこもかしこも甘いな。どんな美酒よりも癖になる。魔力も肌も...まるで媚薬だ」
漸くお前に触れられた、と。愉悦に塗れた低い声が耳元で囁かれた。そして耳たぶを喰まれ嬲られて、ふるりと睫毛が震える。
もうやめろセクハラ悪魔!これ以上は駄目だ、そんな厭らしい手つきで俺に触るな!
喉から出てこない否定の数々が、ぐるぐると頭の中に渦巻いてる。どうして、どうしてベルを弾けないんだと疑問と焦りが増せば増す程、抵抗も出来ないなんて。
「やめ…ろ、って…!」
ベルの髪を引っ張って顔を引き剥がそうとするも、震えて力の入らない指では全く効果がない。俺はきつく閉じてしまっていた目をこじ開け、ベルを懸命に睨みつけた。けれど。
(?!)
この悪魔の不遜で尊大な表情なら嫌ってほど見てきたけど、こんな目も表情も、俺は知らない。ルビーよりも濃い赤は、マグマのような熱さを孕んで俺の視線を、意識を絡め取る。
「ベリ、ア…」
「お前が欲しい、ユキヤ。俺を受け入れろ….そして俺のモノになれ」
夜着の襟元に手を掛けられ、グッと力がこめられる。破かれると直感するも、なす術もない俺は再び息を詰め反射的に目を閉じてしまった。
(...あれ?)
だがしかし、急に服にかかっていた手や自分の体に掛かっていた重みが消えた。つまり、ベルの気配が消えた…?というか…鳩尾の辺りに小さな重みは残ってるような...。
俺は、そ?っと目を開けてみた。すると人型のベルではなく、憮然とした黒蛇がトグロを巻いて胸の上に鎮座していたのだった。
「え...え?あれ?」
今さっきまで俺を支配していた動悸息切れも見事吹き飛び、目を丸くして凝視してしまう。ど、どうして?ウォレン師匠の『縛り』は解けたんじゃなかったのか?
『あのクソッタレの術、自動修復しやがった!』
…え?
一旦切れた術が再生するって。そんな事ってあるの? でも蛇の首?には術の輪がしっかりあった。しかも、掛けられた当初の太さに近くなってる!何で?
『ふざけんなよユキヤ!破るなら完全に破れ、この未熟者がっ!!』
ベルは威嚇音付きで牙を剥き怒りを示してるけど、想像するに…。うん、流石は『黒の魅了師』の術。ベルの魔力で脆くなってても、俺の中途半端な魅了では短い時間だけ縛りの効果を消すに止まった?…みたいだ。
(た…助かった…!)
じわじわ湧いてくる安堵と、少しだけ複雑な気持ちを吐き出す様に、俺は深くため息をついた。あちこちに残留するベルの名残とか、それに伴う体の熱りとか諸々を懸命に無視しつつ。
こつん、と突くような蛇のそれとは程遠いキス。俺の唇を飲み込むような深いそれに息が上手く出来ず、くぐもった声が漏れた隙間を逃さず舌が捩じ込まれた。
「ンっ?!んんっ..!」
口腔を無遠慮に蹂躙していたベルの肉厚な舌が、縮こまっていた俺の舌を舐めたと思ったら絡め取られ、強く吸われて頭の芯が痺れてしまう。
離宮でされた時よりも濃厚なキスは飽く事なく続けられて、いよいよ酸欠になりかけた矢先。
「はっ…!....あ?」
漸く離れたと思ったのに、口端から溢れて伝い落ちた唾液を追うようにベルは舌を這わせ、蛇の時の定位置である俺の首筋に吸い付いたのだ。
「?…いっ!」
チリっとした痛みを感じて一瞬牙を立てられたのかと思ったけど、次いでぬるりとした舌に撫でられて、擽ったさに似た甘い痺れに濡れた吐息が漏れてしまった。
「はぁ…っ」
「ユキヤ」
舌全体で首を舐め上げられ、たまらず仰け反った喉元を金髪の毛先がくすぐって、更にベルの存在を濃厚に感じる。
「ふふ....お前は、どこもかしこも甘いな。どんな美酒よりも癖になる。魔力も肌も...まるで媚薬だ」
漸くお前に触れられた、と。愉悦に塗れた低い声が耳元で囁かれた。そして耳たぶを喰まれ嬲られて、ふるりと睫毛が震える。
もうやめろセクハラ悪魔!これ以上は駄目だ、そんな厭らしい手つきで俺に触るな!
喉から出てこない否定の数々が、ぐるぐると頭の中に渦巻いてる。どうして、どうしてベルを弾けないんだと疑問と焦りが増せば増す程、抵抗も出来ないなんて。
「やめ…ろ、って…!」
ベルの髪を引っ張って顔を引き剥がそうとするも、震えて力の入らない指では全く効果がない。俺はきつく閉じてしまっていた目をこじ開け、ベルを懸命に睨みつけた。けれど。
(?!)
この悪魔の不遜で尊大な表情なら嫌ってほど見てきたけど、こんな目も表情も、俺は知らない。ルビーよりも濃い赤は、マグマのような熱さを孕んで俺の視線を、意識を絡め取る。
「ベリ、ア…」
「お前が欲しい、ユキヤ。俺を受け入れろ….そして俺のモノになれ」
夜着の襟元に手を掛けられ、グッと力がこめられる。破かれると直感するも、なす術もない俺は再び息を詰め反射的に目を閉じてしまった。
(...あれ?)
だがしかし、急に服にかかっていた手や自分の体に掛かっていた重みが消えた。つまり、ベルの気配が消えた…?というか…鳩尾の辺りに小さな重みは残ってるような...。
俺は、そ?っと目を開けてみた。すると人型のベルではなく、憮然とした黒蛇がトグロを巻いて胸の上に鎮座していたのだった。
「え...え?あれ?」
今さっきまで俺を支配していた動悸息切れも見事吹き飛び、目を丸くして凝視してしまう。ど、どうして?ウォレン師匠の『縛り』は解けたんじゃなかったのか?
『あのクソッタレの術、自動修復しやがった!』
…え?
一旦切れた術が再生するって。そんな事ってあるの? でも蛇の首?には術の輪がしっかりあった。しかも、掛けられた当初の太さに近くなってる!何で?
『ふざけんなよユキヤ!破るなら完全に破れ、この未熟者がっ!!』
ベルは威嚇音付きで牙を剥き怒りを示してるけど、想像するに…。うん、流石は『黒の魅了師』の術。ベルの魔力で脆くなってても、俺の中途半端な魅了では短い時間だけ縛りの効果を消すに止まった?…みたいだ。
(た…助かった…!)
じわじわ湧いてくる安堵と、少しだけ複雑な気持ちを吐き出す様に、俺は深くため息をついた。あちこちに残留するベルの名残とか、それに伴う体の熱りとか諸々を懸命に無視しつつ。
5
お気に入りに追加
935
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる