黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第四章

あの惑星の住人か

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なんか、既に慣れきって気にもしなくなった自分がいる。むしろペットの親愛行為っぽくて、可愛いかも…なんて最近は思っちゃったりして。但し、そういう思考を読まれると容赦のない平手打ちならぬ尻尾打ちが来るんだが。

『ユキヤ。お前がどこから来たのか、詳しく教えろ』

「ん?ああ。俺の前世の事か?そういや約束してたしな。でも別に、俺がこうして生まれる前の話だぞ?」

『構わん。仮とはいえ契約者として、お前の事は全て知っておきたい』

「そういうもん?まあ、いいけど」

そうして俺は、ここに転生する前生きていた世界の事をベルに語って聞かせた。

俺が生きていたのは、『地球』という惑星である事。母と姉、そして自分の三人家族で暮らしていた事。別になんの事は無い、穏やかで平凡な人生を過ごしていた事。…そして、全く記憶にないのだが。16歳の時に、何らかの原因で死んでしまった事を。

黙って俺の話を聞いていたベルだったが、納得したように鎌首をもたげて真紅の目を細めた。

『…成程。お前、『地球』からやって来たのか。その上界渡りをしたのならば、それ程の力を所有しているのも頷ける』

「えっ?!ベル、地球の事知ってたんだ!」

地球って言ったって分からないだろうな。なんて思っていたから、ベルの言葉にびっくりしたのは俺の方だった。

目を見開き驚く俺を見て、ベルはちょっと小馬鹿にしたように細長い舌をチロチロ出す。

『天使や悪魔で、地球の存在を知らない奴はいない。なにせ上位精霊や神霊を使役出来た奴の大半は、あの惑星の住人だからな』

「うぇっ!?そうなのか!?」

更に告げられた事実に、俺の驚きは継続しっぱなしだった。

ベルの話によれば、ソロモン王や安倍晴明といった、俺からしてみたらお伽噺上の人物は実際に地球に存在していて、伝承通り数多の精霊や神々を使役していたのだそうだ。

へぇ?、成る程なぁ。じゃあ、悪魔とか天使とか精霊神々の存在が宗教とか御伽噺の類で地球に定着しているのって、根拠あったんだ!

「そ…それでさ。やっぱ契約した彼らって、対価とかで死んだ後に魂を差し出していた…とか?」

『さあな。俺は誰とも契約した事は無いし、興味無かったから知らん』

本当に興味なさそうなベルだったが、ふと首を傾げる仕草をした。

『ただ…。ソロモンで言えば、奴は己の欲にはとんと執着しない奴で、願う事と言えば大抵他人や国家の繁栄の為って変わりもんだった。契約したり使役されていた連中は、奴のそんな所を面白がっていたから、対価で魂を要求した奴らはいなかった筈だぞ。まぁ、寵の奪い合いはあったがな』

へぇ…。

俺が知る限りでは、悪魔を使役して暴虐の限りを尽くした享楽王ってイメージが強かったけど、実際はそんな人だったんだ。正に事実は小説よりも奇なり。

けどさ。御伽噺になったソロモンだけど、どうして極悪非道って真逆なキャラクターになってるんだろう?

多分だけど。余りに膨大な力を持ってたから、彼が没した後の権力者達によって歪められたのかも、な。

それは兎も角。ソロモンって全ての悪魔を使役していたってあったけど、ベルは契約していなかったんだ。って事は、仮契約だけど俺が初めての契約主…?!

(え?おかしいだろそれって!)

俺よりも遥かに凄い力を持っていただろうに。何で、半人前以下の魅了師もどきに仮とはいえ契約を持ちかけたんだ?顔や魂が気に入ったって言ってたけど、ソロモンや安倍晴明って結構美形に描かれてるよ?

特にソロモンなんて、ベル以外の悪魔を全て契約?使役出来るんだから、たいそう魅力溢れる魂だったんじゃないか。

なのに、何で…俺を選んだ?

「ベルは…契約してなくても、ソロモンの召喚に応えた事はあるのか?」

『ああ、彼奴に何度か力を貸した事はある。他の奴ら程ではなかったが、俺も彼奴を気に入ってはいた』

本当に、無意識で口から出た質問にベルはあっさり答える。そして、遠い昔を懐かしむように瞬きをしてから改めて俺を見上げた。

『そういう意味では、お前はソロモンによく似ているな。特に自分の事より他人の心配をするようなお人好しな所がな』

響く声とか細められてる双眼とかで、何となくベルが笑ったような気がした。馬鹿にしたような響きじゃなくて、やっぱり懐かしむように。

嗚呼、ベルは俺を通してソロモンを思い出しているんだ。そう感じた途端、ほんの僅かに俺の胸の真ん中がツキリと小さく痛んだ。
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