黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第四章

まさかの物理

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『マスター!だいじょうぶ?』

うん、大丈夫。お前も有り難うな、シルフィ。

「くっ…従魔を使って…。流石は世に名高い黒の魅了師。全てお見通しだったのですね」

いえ、全く見通せていませんでした。なんて声に出していえず、無言で肯定の意を示しとく。

「かくなるうえは…!せめて一矢たりとも報いる事が出来れば…!」

勝手に誤解したザビア将軍が、決死の表情で兵士達と共に俺に剣を向けてくる。あの…話聞いて下さいよ。俺は平和主義者なんだってば!たとえ自分を殺そうとした相手でも、出来れば殺したくないんだ。しかもこんな事をしなければいけない理由、絶対ある筈なんだから。

『ユキヤ、防御結界を張れ』

言われずとも張りますよ。…よし、これでいいかな?

『まあ、いいだろう。お前、そのままじっとしてろよ?そうすりゃ奴らは勝手にくたばる』

「はあ!?なんだそれ!ま、まさかお前、何かしたのか!?」

『違う。奴ら本人だ。奴ら全員、腹を切っているからな』

――え?!

『あの男、最初に会った時より、血の匂いが濃い。そろそろ立っているのも辛い筈だ』

「な…なんだよ…それ…?」

それっていわゆる、陰腹ってヤツだよな。でも何でわざわざそんな、切腹みたいな真似をしてんだ。

『大方、死にも等しい苦痛と引き換えに、魅了にかからぬようにする為だろう。愚かな連中だ。魂を縛る魅了の力の前では苦痛など、なんの意味も無いというのに』

ベルの言葉に頭が真っ白になり、気が付けば結界を解いて駆け出していた。
そしてザビア将軍達が身構え、俺に対峙しようとしている様子を見た瞬間ブチ切れる。

「命を粗末にすんじゃねぇー!!」

そう叫び、突進する俺に、てっきり魅了が来ると思っていたザビアは「えっ?!」と言って隙を見せた。俺はその瞬間を見逃さず、持っていた杖でザビア将軍の剣を弾くと、そのまま渾身の力でザビア将軍をぶっ飛ばした。
そしてそのままの勢いで、呆気に取られていた兵士達も次々ぶっ飛ばしていく。

「…ま…まさかの…物理…」

そう言ってザビア将軍が昏倒する。

…うん、思わず力技でやっちまったが、仕方がないじゃないか。だって俺、魅了の力の使い方知らないんだから。

ベルとシルフィの視線が冷たい気がするのは、気のせいだ…という事にしておこう。




◇◇◇◇




「黒の魅了師殿。我らの犯した数々の無礼、どうかお許し下さい」

今現在、ザビア将軍を筆頭に、兵士逹が俺の前で深々と頭を下げている。いわゆる土下座というやつだ。
対する俺も、床に正座してそれを受けている。なんかね。もう、気分はお代官様だ。

「あー…。気にしないで下さい。とにかく…まあ、無事で良かったです」

――後ろめたい…。

あの時、怒りと焦燥に任せてザビア将軍逹をぶちのめしたんだけど。ここだけの話、なんだか彼らが自分自身で負った傷より、俺がぶちのめした際に与えたダメージの方がでかかった…気がしたんだよな。

というか、下手したらとどめを差すレベル?慌てて彼らの怪我を治した訳なのだが、どうにもいたたまれない。
まあ、あの時はああするより方法が無かった訳だし、実際殺されかけたんだし、それ考えたらプラマイゼロだよな。うん。

…でも心の中では謝っておこう。ごめんなさい。

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