92 / 194
第四章
カルカンヌ王国の巫女姫
しおりを挟む
王の私室だという、豪華だが落ち着いた雰囲気のある部屋に通された俺は、この国の名産だという黒糖をふんだんに使って淹れたカフェオレらしき飲物を飲んでいた。
うん、ちょっと甘いけど黒糖を使っているからか、独特のコクがあって凄く美味い。え?仮面?当然しています。
ウォレンさんの言った通り、口元に持って行くとしっかり飲める。超面白い。一体どんな仕組みになっているのか気になるところだ。
ちなみに、俺の肩にとまっているシルフィも、ちゃっかりとご相伴に預かっているのだが、腕から移動して首に巻きついているベルが、羽虫を追い払うように尻尾でベシベシ追っ払っていてウザい。
空中アクロバットでフラフラになっていた頭も、飲み物のお陰でだいぶ落ち着いた。なので、まずは依頼についての内容を王の口から話してもらった。
本当なら誓約書を直に見たいところだけど、それは流石に無理があるからな。
依頼の内容については、要約すると以下の通りだった。
『誘拐された聖獣の奪還について依頼したい』
『誘拐したのはカルカンヌ国王女、シェンナ姫』
『聖獣はグリフォン』
『どんな手段を用いても良い。ただし聖獣も王女も絶対に傷付けてはならない』
おおっ!聖獣ってグリフォンの事だったのか!
グリフォンってあれだろ?頭が鷲で下半身が獅子の幻獣で、捕食動物の頂点の良いとこ取りしているその外見から、前世では色んな国や権力者が紋章にしていたんだよな。
ゲームやコミックにもよく登場していて、かの世界的に有名な某魔法使いファンタジー小説でも、主人公が所属する寮の名前に使われていたっけ。
『グリフォンか…。神霊系に近いとされる幻獣系の上位種だ。もし奴を喚んだのがこの国の者だとしたら、かなりの術者だな』
相変わらず、絶妙なタイミングで俺の代わりに言葉を発するベルに対し、王は神妙な顔で頷いた。
「はい。かの聖獣様を召喚したのは、五百年以上前に実在したこの国の王女であり、シェンナと同じ巫女姫であったと言い伝えられております」
――成程、凄いな巫女姫。…って、ちょっと待て!
グリフォンでテンション上がって気付くの遅れたけど、何でこの国の王女様が自分の国の聖獣を拐うんだよ。
しかも、『どんな手段を用いても』って言いながら、王女にも聖獣にも傷ひとつつけるななんて、矛盾があるにも程があるだろ!仮にも幻獣の上位種だぞ!?戦わずにどうやって大人しくさせるんだよ!
『…だからこそ『魅了師』に依頼したんだろうが』
ベルの『お前は馬鹿か?』的な言い方にムッとするが、そういえば今の俺は『黒の魅了師』だったな。ヤバイヤバイ、気を抜くとすぐ忘れてしまう。
魔法使いや剣士は魔法や剣技を使い、召喚師は自分が召喚した魔獣を使って戦う。もし彼らがグリフォンのような上位種と対峙した場合、傷ひとつつけずに戦う事など不可能に近いだろう。
その点、魅了師は魅了のスキルで相手を自分に縛り付け、服従させる事が出来る。
腹黒第一王子と師匠予定のハイエルフ様が、ベル使って実践してくれたから実力はお墨付き。
成程、まさに今回のような依頼にはうってつけなんだ。となると、残る疑問は誘拐犯である王女様だな。
なぜ、彼女が聖獣を拐わなければならなかったのか。というか、グリフォンを誘拐するなんてその姫君…シェンナさんだったか。彼女、ひょっとして物凄く強い力を持っているとか?
「貴方の娘さんは巫女姫だと言いましたが、どのような力を持ってグリフォンを攫ったのですか?」
「そ…それは…」
王様は動揺した様子で言い淀んだ。自分の声とベルの声だと口調が微妙に違うけど、そこら辺は気づいてなさそうで有り難いです。
まあ、本当なら依頼内容にあまり深く突っ込まない方が良いんだろうけど、こちらには本物の『黒の魅了師』ではないというハンデがある。しかも頼りのベルも力を封じられて、普通の蛇に成り下がってしまっている。だから相手の能力や力を把握するのは重要な事なのだ。
やがて王様は観念した様子で口を開いた。
「実は…。娘は聖獣様を誘拐したのではないのです。聖獣様も、ご自分の意志で娘と逃げました」
うん、ちょっと甘いけど黒糖を使っているからか、独特のコクがあって凄く美味い。え?仮面?当然しています。
ウォレンさんの言った通り、口元に持って行くとしっかり飲める。超面白い。一体どんな仕組みになっているのか気になるところだ。
ちなみに、俺の肩にとまっているシルフィも、ちゃっかりとご相伴に預かっているのだが、腕から移動して首に巻きついているベルが、羽虫を追い払うように尻尾でベシベシ追っ払っていてウザい。
空中アクロバットでフラフラになっていた頭も、飲み物のお陰でだいぶ落ち着いた。なので、まずは依頼についての内容を王の口から話してもらった。
本当なら誓約書を直に見たいところだけど、それは流石に無理があるからな。
依頼の内容については、要約すると以下の通りだった。
『誘拐された聖獣の奪還について依頼したい』
『誘拐したのはカルカンヌ国王女、シェンナ姫』
『聖獣はグリフォン』
『どんな手段を用いても良い。ただし聖獣も王女も絶対に傷付けてはならない』
おおっ!聖獣ってグリフォンの事だったのか!
グリフォンってあれだろ?頭が鷲で下半身が獅子の幻獣で、捕食動物の頂点の良いとこ取りしているその外見から、前世では色んな国や権力者が紋章にしていたんだよな。
ゲームやコミックにもよく登場していて、かの世界的に有名な某魔法使いファンタジー小説でも、主人公が所属する寮の名前に使われていたっけ。
『グリフォンか…。神霊系に近いとされる幻獣系の上位種だ。もし奴を喚んだのがこの国の者だとしたら、かなりの術者だな』
相変わらず、絶妙なタイミングで俺の代わりに言葉を発するベルに対し、王は神妙な顔で頷いた。
「はい。かの聖獣様を召喚したのは、五百年以上前に実在したこの国の王女であり、シェンナと同じ巫女姫であったと言い伝えられております」
――成程、凄いな巫女姫。…って、ちょっと待て!
グリフォンでテンション上がって気付くの遅れたけど、何でこの国の王女様が自分の国の聖獣を拐うんだよ。
しかも、『どんな手段を用いても』って言いながら、王女にも聖獣にも傷ひとつつけるななんて、矛盾があるにも程があるだろ!仮にも幻獣の上位種だぞ!?戦わずにどうやって大人しくさせるんだよ!
『…だからこそ『魅了師』に依頼したんだろうが』
ベルの『お前は馬鹿か?』的な言い方にムッとするが、そういえば今の俺は『黒の魅了師』だったな。ヤバイヤバイ、気を抜くとすぐ忘れてしまう。
魔法使いや剣士は魔法や剣技を使い、召喚師は自分が召喚した魔獣を使って戦う。もし彼らがグリフォンのような上位種と対峙した場合、傷ひとつつけずに戦う事など不可能に近いだろう。
その点、魅了師は魅了のスキルで相手を自分に縛り付け、服従させる事が出来る。
腹黒第一王子と師匠予定のハイエルフ様が、ベル使って実践してくれたから実力はお墨付き。
成程、まさに今回のような依頼にはうってつけなんだ。となると、残る疑問は誘拐犯である王女様だな。
なぜ、彼女が聖獣を拐わなければならなかったのか。というか、グリフォンを誘拐するなんてその姫君…シェンナさんだったか。彼女、ひょっとして物凄く強い力を持っているとか?
「貴方の娘さんは巫女姫だと言いましたが、どのような力を持ってグリフォンを攫ったのですか?」
「そ…それは…」
王様は動揺した様子で言い淀んだ。自分の声とベルの声だと口調が微妙に違うけど、そこら辺は気づいてなさそうで有り難いです。
まあ、本当なら依頼内容にあまり深く突っ込まない方が良いんだろうけど、こちらには本物の『黒の魅了師』ではないというハンデがある。しかも頼りのベルも力を封じられて、普通の蛇に成り下がってしまっている。だから相手の能力や力を把握するのは重要な事なのだ。
やがて王様は観念した様子で口を開いた。
「実は…。娘は聖獣様を誘拐したのではないのです。聖獣様も、ご自分の意志で娘と逃げました」
5
お気に入りに追加
935
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる