黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第四章

枯れ果てた大地

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白い光が徐々に薄れ、周囲が段々とハッキリしてくる。それと同時に刺すような日差しが降り注ぎ、頬を生ぬるい風が流れるように吹き抜けていった。

「…着いた…のか?」

眩しさに数度瞬きをした後、改めて周囲を見てみれば、自分が今現在立っている場所が判明し、そのあんまりな現実に、思わず全身が硬直してしまった。

「な…な…なんだよ、ここはー!!?」

思わず叫んでしまったが、それもその筈。今現在自分が立っているのは、どこかのバカ高い建物の、更に高い塔の天辺だったのだ。
幅はおよそ40センチ四方しかなく、ハッキリ言って、少しでもよろければ足を踏み外して落ちてしまうだろう。

思わず喉が上下し、ゴクリと唾を飲み込む。

『ユキヤ、落ちるなよ。残念だが今のところ、俺にお前を助ける力は無いからな』

「忠告どうも!俺も落ちる気は毛頭無いから!」

ベルの有難いのかよく分からない忠告に返事をすると、俺は足に力を入れつつ、周囲を眺めてみる。すると眼下には広大な畑とおぼしき一面が黄色一色…いや、むしろ茶色一色の景色が広がっていた。

「ここ…カルカンヌ王国…だよな?ひょっとして、今って秋なのかな?」

色こそ茶色っぽいけど、米田の収穫前によく見るような風景だ。けれどその割には、頭上で照り付ける強烈な太陽光線といい、亜熱帯独特の湿気を帯びた空気といい、秋と呼ぶには無理感が半端ない。

『…ふ~ん。どうやらあれらは全部、枯れているようだな』

「え!?枯れてるって…あの茶色いの全部!?」

だって、茶色は見渡す限り広がっているのだ。それこそ、奥に連なる連峰にまで。

『ああ。ここら一帯に、大地の精霊の息吹は感じられない』

ベルの言葉に改めて周囲を見回してみる。

すると確かに、収穫前の稲(?)と違い、眼下に見える植物は濃淡の違いこそあれ茶色で、しかもそれは遥か彼方にまで続いている。それにベルの言う大地の精霊の息吹とやらはよく分からないが、確かに晴れ渡る空とは対照的に、見渡す大地はどこも不気味な静寂に占められている。

――死の大地。

そんな言葉が脳裏を掠め、思わず背筋がゾッとした。

「と…とにかく、まずはここからどうにかして降りないとな」

いきなりの衝撃的な風景に気を取られていたが、今自分がここにいる意味を思い出す。

しかし、塔にはとっかかりとなるようなものは何も無く、仕方がないので風の精霊の力を借りる事にした。

今まで魔力操作がお粗末だったお陰で、四元素を司る精霊の力を使う事は、ほぼ成功しなかった。けれどベルと仮契約してから安定している今だったら…。

「我が呼びかけに応えよ『シルフィ』」

なんか、腕に巻きついているベルが、抗議するように尻尾をベシベシ腕に叩き付けてくるが、それを無視して意識を集中し、四大精霊の一柱であるシルフィに呼び掛ける。するとすぐに反応があった。

一陣の風が吹き、青白い半透明の身体をした小さな妖精が姿を現すと、まるでじゃれつくように俺の身体にまとわりついてきた。

成功だ!ちっちゃくて可愛いくて、思わず頬が緩んでしまう。

「応えてくれて嬉しいよ、シルフィ。悪いが下に降りたいんだ。力を貸してくれないか?」

『ウン、イイヨー!デモソノカワリ、ボクヲアナタノケンゾクニシテクレル?』

「眷属?まあ、別にいいけど…痛ぇ!!」

気軽にOKを出そうとしたらベルに腕を噛まれて悲鳴を上げ、思わずバランスを崩してしまう。

「う…わ…っ!!」

傾いだ身体は重力に抗えず、宙に投げ出されてしまった。
え?これって不味くない?ってかヤバい?!

――落ちる!

咄嗟に体勢を建て直そうとした身体は、何故か重力に逆らい浮遊し、宙に浮かんだまま立っているという謎な体勢を維持していた。

「え?」

『だいじょうぶだよーマスター』

「シルフィ!?」

先程呼び出したシルフィが目の前に翔んできて笑いかけてくる。

見れば何故か、先程まで半透明だった身体はしっかり肉が付き、実体化している。

健康的な小麦色の肌、薄水色の髪、真っ青な空色の瞳。性別は不明だが流石は妖精、やはりとても愛らしい。

「あ、有り難うシルフィ。お陰で助かった」

『きにしないでー!マスターをたすけるのは、けんぞくとしてとうぜんだもん!』

眷属?ああ、そういえばさっき、そんな事言われて了解(?)したっけな。カタコトに聞こえていた『声』も流暢になっているのも、それが影響してるのかな。

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