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第三章
悲劇の王子
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宮殿には王族それぞれが住まう宮殿が存在し、それらは総じて離宮と呼ばれている。
その離宮の中でも一際大きい宮殿に居を構えるのは次期後継者と称される者…、すなわち王太子であり、第一王子ランスロットは当然ながら、その離宮で実母や近習達と生活しているのだ。
白亜に輝き、緑あふれる美しい離宮…。
だが今その一部は数日前、第二王子によって偶然召喚された……とされる悪魔の襲来により崩壊し、無残な瓦礫の山と化している。
第二王子が下位悪魔を召喚した後、偶発的に呼び出した悪魔は一見して上級と分かる美しい容姿をしていた事から、上級悪魔であると推測されていた。
その上級悪魔はその際、身を呈して第二王子を庇い、負傷したアスタール公爵家の嫡男ユキヤに目をつけ、第一王子であるランスロット王子の離宮にて治療を受けていた彼を襲い、連れ去ってしまった。
そしてその際、たまたま居合わせたランスロット王子は、ユキヤを助けようとしたものの、魔力を持たぬ身では悪魔に叶う筈もなく、命に関わる重傷を負わされる事となってしまったのだった。
王宮は第一王子とユキヤの婚約を内々に決めていた事もあり、人々は婚約者を奪われ、深手を負ったランスロット王子を『悲劇の王子』と呼び、同情を寄せている。
「――悲劇の王子…ね」
自分の為にと設えられた豪華な客室の中、セオドアは誰に言うともなくそう呟くと、ゆっくりと目を閉じ、悪魔に襲撃を受けたとされている夜を思い返した。
あの時、自分もテオノアも、異変に気が付いたのは全てが終わった後だった。
部屋から飛び出して目にしたものは、天井が崩壊し、瓦礫が散乱した部屋の中、血塗れで倒れているランスロット王子の姿だった。
慌ててランスロットに駆け寄り、息があるのを確認した後急いで治癒魔法を施す自分の傍で、テオノアは真っ青な顔で立ち尽くし、震える唇で呟いた。
「あにうえ…?は、ははうえ…あにうえは…!?」
その後駆け付けた近衛や騎士達がその場の惨状に呆然としているのを、「早く医師と魔術師を呼べ!!」と正気に返らせ、テオノアと共に周囲を必死に探してみたものの、ユキヤの姿はどこにも無かった。
後に意識を取り戻した第一王子の話により、ユキヤが上級悪魔に連れ去られた事が判明し、第一王子の負傷という事実と共に、王宮内は一時大混乱に陥ったのだった。
当然、この事は内々に処理されるだろうとの予想に反し、事の次第は瞬く間に国中に広まり、第一王子には国民からは同情を。そして王宮内では、表立っては言われないものの、「魔力無しだったがゆえに、悪魔に婚約者を攫われた無能者」と、失望と嘲笑が頻繁に囁かれるようになった。
『魔力を持たぬがゆえ、重傷を負わされ、目の前で愛しい婚約者が奪われるのをただ見ている事しか出来なかった。確かに悲劇だ』
――そう、それが事実であれば。
事実と言えば…第二王子の誕生祭での顛末だ。徹底的に箝口令を敷いた為、まだ作られた事実がまかり通っているが、いずれは綻びが生じるだろう。
テオに聞いた話では、ユキヤに負けそうになった第二王子は闇雲に召喚した結果、下位悪魔を召喚してしまった。
だが、彼はソレすらも御し切れず殺されかけたのだそうだ。
それはすなわち、己の身の丈に合わない召喚相手だった…という事だ。なのに上位悪魔が第二王子によって偶発的に召喚された?それこそ有り得ない。
では、『どうして』『誰が』あの悪魔を召喚したというのか。
王宮の近衛達や魔導師達もあの場にいた。そして音は聞こえなかったにしろ、ユキヤと上位悪魔のやり取りは、彼らに「ある可能性」を抱かせるのには十分だったろう。
だからこそ、ユキヤは政治の駒として「無能」と言われている第一王子の婚約者に据えられたのだ。聞かされた時は怒りでどうにかなりそうだったが、ユキヤが攫われた事により振り出しへと戻ったのは皮肉としか言いようがない。
その離宮の中でも一際大きい宮殿に居を構えるのは次期後継者と称される者…、すなわち王太子であり、第一王子ランスロットは当然ながら、その離宮で実母や近習達と生活しているのだ。
白亜に輝き、緑あふれる美しい離宮…。
だが今その一部は数日前、第二王子によって偶然召喚された……とされる悪魔の襲来により崩壊し、無残な瓦礫の山と化している。
第二王子が下位悪魔を召喚した後、偶発的に呼び出した悪魔は一見して上級と分かる美しい容姿をしていた事から、上級悪魔であると推測されていた。
その上級悪魔はその際、身を呈して第二王子を庇い、負傷したアスタール公爵家の嫡男ユキヤに目をつけ、第一王子であるランスロット王子の離宮にて治療を受けていた彼を襲い、連れ去ってしまった。
そしてその際、たまたま居合わせたランスロット王子は、ユキヤを助けようとしたものの、魔力を持たぬ身では悪魔に叶う筈もなく、命に関わる重傷を負わされる事となってしまったのだった。
王宮は第一王子とユキヤの婚約を内々に決めていた事もあり、人々は婚約者を奪われ、深手を負ったランスロット王子を『悲劇の王子』と呼び、同情を寄せている。
「――悲劇の王子…ね」
自分の為にと設えられた豪華な客室の中、セオドアは誰に言うともなくそう呟くと、ゆっくりと目を閉じ、悪魔に襲撃を受けたとされている夜を思い返した。
あの時、自分もテオノアも、異変に気が付いたのは全てが終わった後だった。
部屋から飛び出して目にしたものは、天井が崩壊し、瓦礫が散乱した部屋の中、血塗れで倒れているランスロット王子の姿だった。
慌ててランスロットに駆け寄り、息があるのを確認した後急いで治癒魔法を施す自分の傍で、テオノアは真っ青な顔で立ち尽くし、震える唇で呟いた。
「あにうえ…?は、ははうえ…あにうえは…!?」
その後駆け付けた近衛や騎士達がその場の惨状に呆然としているのを、「早く医師と魔術師を呼べ!!」と正気に返らせ、テオノアと共に周囲を必死に探してみたものの、ユキヤの姿はどこにも無かった。
後に意識を取り戻した第一王子の話により、ユキヤが上級悪魔に連れ去られた事が判明し、第一王子の負傷という事実と共に、王宮内は一時大混乱に陥ったのだった。
当然、この事は内々に処理されるだろうとの予想に反し、事の次第は瞬く間に国中に広まり、第一王子には国民からは同情を。そして王宮内では、表立っては言われないものの、「魔力無しだったがゆえに、悪魔に婚約者を攫われた無能者」と、失望と嘲笑が頻繁に囁かれるようになった。
『魔力を持たぬがゆえ、重傷を負わされ、目の前で愛しい婚約者が奪われるのをただ見ている事しか出来なかった。確かに悲劇だ』
――そう、それが事実であれば。
事実と言えば…第二王子の誕生祭での顛末だ。徹底的に箝口令を敷いた為、まだ作られた事実がまかり通っているが、いずれは綻びが生じるだろう。
テオに聞いた話では、ユキヤに負けそうになった第二王子は闇雲に召喚した結果、下位悪魔を召喚してしまった。
だが、彼はソレすらも御し切れず殺されかけたのだそうだ。
それはすなわち、己の身の丈に合わない召喚相手だった…という事だ。なのに上位悪魔が第二王子によって偶発的に召喚された?それこそ有り得ない。
では、『どうして』『誰が』あの悪魔を召喚したというのか。
王宮の近衛達や魔導師達もあの場にいた。そして音は聞こえなかったにしろ、ユキヤと上位悪魔のやり取りは、彼らに「ある可能性」を抱かせるのには十分だったろう。
だからこそ、ユキヤは政治の駒として「無能」と言われている第一王子の婚約者に据えられたのだ。聞かされた時は怒りでどうにかなりそうだったが、ユキヤが攫われた事により振り出しへと戻ったのは皮肉としか言いようがない。
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