黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第三章

新弟子爆誕

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セオドアと夫婦になった経緯が経緯なだけに、未だにウェズレイは、セオドアが自分を受け入れてくれているのは決闘で負けたからであって、義理で仕方なくだと思っている節がある。

だが、あの徹底した異性愛者ヘテロだったセオドアが男であるウェズレイを夫として受け入れている。それだけでも愛情の深さが伺い知れるというものだろう。

「お前はもう少し、自分に自信を持て」

「…善処はします」

まあ、公式の場でいつもセオドアはウェズレイを立ててはいるが、なんだかんだで手綱はセオドアが握っている。
ウェズレイが愛ゆえの暴走をちょくちょくやらかしたりするのを、ある時は冷ややかに諭し、またある時には鉄拳制裁を加えてもいる。……要はかかあ天下というやつだ。

つい先日もテオノアとユキヤを結婚させて、可愛い息子達をずっと手元に置いておく計画がばれ、セオドアに雷を落とされていたからな。
愛されている自信が持てないのも分かるが…。セオドアにも折に触れ、ちゃんと気持ちを言葉にして伝えてやれと言っておいてやるか。

「そういえば、テオノアは?」

「…あの件からずっと、こちらにいます。私も気持ちが分かりますので、落ち着くまではあいつの好きにさせてやろうかと…」

やはりそうか。

そもそもが、自分の不始末が大切な兄に飛び火したと責任を感じていたというのに、それが原因で重傷を負わせた挙句、悪魔に連れ去られてしまった…など、15歳の子供にはあまりにも残酷な現実だ(連れ去られたというのは事実では無いけど)

しかもテオノアは弟としてではなく、一人の男としてユキヤを愛していた。

その愛する者を自分のせいで失った…となれば、下手をすれば自害しかねない。そんな事になってしまえば、ユキヤがどれ程悲しむか。自分にも「テオは大丈夫かな?」としきりに弟を気遣う言動を繰り返していたのだから。

『やはり、早い段階でユキヤの無事を知らせた方が…。いや、だがやはりそれは…』

その時だった。

ドアの向こうが何やら騒がしくなったと思ったら唐突に扉が開き、当のテオノアが書斎へと飛び込んで来た。

「テオノア?!」

「父上、お話の最中、申し訳ありません」

顔色も悪く、満足に眠れていないのか目の下が黒ずんでいるその姿に、一見して憔悴し切っているのが分かる。

「テオノア、久しいな。この度は、とんだ事に…」

「ベハティ様、お願いです!俺を貴方の弟子にして下さい!」

突然そんな事を叫ぶなり、テオノアは私の目の前に膝を着き、頭を下げた。ウェズレイと共に暫し呆気にとられた私を、テオノアは顔を上げ、真っすぐに見つめてきた。

「兄上は…絶対に生きています!あの人が死ぬはずなんてない!…でも、今の俺は力も何も無いから…。だから俺は退魔師となって、あの悪魔から兄を救い出したいんです!お願いします!どうか俺を貴女の手で鍛えて下さい!!」

父親譲りの澄んだアイスブルー。その瞳には強い決意が込められている。

――うん。でもユキヤ、しっかり無事だし、ユキヤを攫った悪魔って黒の精霊の頂点である悪魔公デーモンロードなんだよ。ぶっちゃけアレに勝てるの、当の本人ユキヤ位なんじゃ?ってレベルだから。

とか、色々言いたい事はあるのだが、今の状況ではそのどれも言えないし、それゆえに断るに断れない…。

いや、待てよ?

むしろユキヤについての真実を告げる迄の間、そっちに集中してくれれば負のスパイラルに嵌る事も無いだろう。
元々才能のある子だから、鍛えればかなり良い線行くだろうし、上手くすればあの悪魔公デーモンロードからユキヤを守れるだけの力を獲得出来る….のは難しいか。

いや、普通ならあり得ないが、悪魔公デーモンロードがユキヤと正式に契約せず、あの状態のままなら、あるいは可能性も…。

「…分かった。だが、私の修行は厳しいぞ?ついてこれるか?」

「――ッ!はいっ!有難うございます!!」

打算と計算と見切り発車で了解した私の目に、テオノアの一点の曇りも無いキラキラしい眼差しが妙に眩しい…。

「よくぞ決心した、テオノア!私はお前を誇りに思うぞ!」

「有難うございます父上!兄上は必ずや、私が救出してご覧に入れます!」

「うむ!私も教えられる事は全てお前に教えよう!己の実力で最愛の者を救い出し、堂々と我が物とするのだ!」

「はい!父上!」

…何だかユキヤの預かり知らぬ間に、悪魔に攫われた恋人を奪い返して略奪婚…的な話になっているんだけど…。いいのかな、これ。

…うん、深くは考えまい。セオドアもこうなってしまったら、諫めるより自分も協力するとか言い出しそうだし。私も大切な息子が悪魔の嫁になるぐらいなら、この子の嫁になってくれた方が遥かにいい。

「当面は身体強化を行う!…だが、まずは体調を整える事から始めるぞ!よく食べ、よく寝て英気を養う!いいな、テオノア!」

「はい!」

こうして私は新たなる弟子を迎える事となったのだった。
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