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第三章
こういう所だろうな
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『いや、ひょっとして試験そのものは口実で、ユキヤの能力を見極めたいだけなのかもしれないな』
だいたい、まだ召喚士どころか魔法を使う事もままならぬ素人同然の子供に、代わりに仕事をさせるなんて、いくらあのウォレンでも普通はさせないだろう。
そもそも失敗したらどうするのか。魅了師の頂点とも称される『黒の魅了師』の名を汚す事になるのに。
…まあ、自分の評判に頓着の無い奴だから、単純にそれはどうでも良いのかもしれない。だが、受けた仕事をキッチリこなすだけの矜持は持っていると思っていたのだが…。
思考の海に身を投じていたベハティだったが、ハタと顔を上げ辛抱強く反応を待っていたウェズレイに問いかけた。
「そういえば、セオドアはどうした?流石にもう帰って来ていると思ったのだが」
「…セオドアは、第一王子ランスロット様のお見舞いで、城に駐留しております」
途端、ウェズレイが苦々し気にそう吐き捨てた。
――ああ、そう言えばそうだった。
第一王子であるランスロットは、『上級悪魔から自分の婚約者候補であるユキヤを庇って攻撃を受け、重傷を負った』とされているのだ。
多分、『息子を庇って大切な王子が傷付いた』事を盾に、未だにセオドアに熱を上げている王族共が、ここぞとばかりにセオドアを帰そうとしないのだろう。
ユキヤ本人から城から逃げた経緯を聞いていたから、自分は真実は違うと知っている。ユキヤがベルと逃げた時、あの王子様はピンピンしていたらしいから、信憑性を高める為に自分自身で怪我を負ったのだろう。
『魔力無しなのを十分承知した上で、身を呈して婚約者を掬おうとした』…と、その噂は瞬く間に国中へと広がった。
我が身を顧みぬ献身っぷりに、元々の人望も相まって第一王子は『悲劇の王子』として民衆から同情と称賛の声が上がっている。
その一方で、貴族達からは「やはり魔力無しではこういう時に役に立たない」という声が多く上がり、第二王子の失態で勢いづきかけた第一王子派を沈黙させる結果となったらしい。
問題は、その『噂』を流したのは『誰なのか』という事だ。
『どこに対しても落し所を作って第二王子の失墜を薄め、互いの立ち位置をほぼ元ある場所に戻した…か。凄まじく頭の切れるお方だ』
しかも魔力無しだなどととんでもない。彼…ランスロット王子はユキヤ同様「魅了」の力を有し、守護天使までいるのだという。
為政者としての視野の広さ。その頭脳。強力な魔力。どれを取っても第二王子などとは比べ物にならぬ王の器だ。
――そこまでの才能を有していながら、なぜ王位を継ぐのを拒むのか。
そこは理解しかねるが、そういった天才肌は得てして一般人とは常識が違うものだ。ひょっとしたらランスロット王子はウォレンと同類なのかもしれない。
「だいたい、そもそもの騒動の発端は、テオノアに懸想したあの第二バカ王子が呼んだ下位悪魔でしょう!アレのせいでユキヤは命に関わる大怪我を負った挙句、上級悪魔に連れ去られてしまったんですよ!?なのにいつの間にか第一王子の婚約者に仕立て上げられた挙句、たまたまその場に居合わせて負った怪我をユキヤのせいにし、私の妻を城から返さぬとは…!!何様なんだよ、ちくしょう!!」
ウェズレイの精悍な美貌が殺気に彩られ、迫力が物凄い事になっている。
まあ、さもありなん。目の中に入れても痛く無い程溺愛していた息子の面会にも行く事も出来ず、そうこうしている間にその息子は悪魔に攫われてしまったのだ。
挙句、最愛の妻も返してもらえないとくれば、切れるのは当然だろう。むしろ謀反でも起こしそうな勢いだ。
「セオドアについては心配なかろう。どう考えてもユキヤは被害者なのだから、いくら王子が負傷したとしても、いつまでもそれを理由に城に留め置く事など出来ん筈だ。それにお前に恥じるような事をあの子がするとは思えん。自害してでも操は守る。だから安心しろ」
「師匠!自害してどーすんですか!?ぜんっぜん、安心出来ませんよ!!」
「それだけ、あの子がお前を愛しているという事だよ」
その言葉に虚を突かれたように、ウェズレイが口をつぐんだ。
「…そりゃあ…。夫婦なんですし。…当然でしょう」
思わずといった感じに逸らされた顔は薄っすらと赤くなっていて、照れているのが丸分かりだ。
貴族としても男としても超有能なのに、気を許した相手に対しては甘くて非常に分かり易い。
こういう所が、この男の可愛い所なんだよな。セオドアも多分、こいつのこういった所に絆されたんだろう。
だいたい、まだ召喚士どころか魔法を使う事もままならぬ素人同然の子供に、代わりに仕事をさせるなんて、いくらあのウォレンでも普通はさせないだろう。
そもそも失敗したらどうするのか。魅了師の頂点とも称される『黒の魅了師』の名を汚す事になるのに。
…まあ、自分の評判に頓着の無い奴だから、単純にそれはどうでも良いのかもしれない。だが、受けた仕事をキッチリこなすだけの矜持は持っていると思っていたのだが…。
思考の海に身を投じていたベハティだったが、ハタと顔を上げ辛抱強く反応を待っていたウェズレイに問いかけた。
「そういえば、セオドアはどうした?流石にもう帰って来ていると思ったのだが」
「…セオドアは、第一王子ランスロット様のお見舞いで、城に駐留しております」
途端、ウェズレイが苦々し気にそう吐き捨てた。
――ああ、そう言えばそうだった。
第一王子であるランスロットは、『上級悪魔から自分の婚約者候補であるユキヤを庇って攻撃を受け、重傷を負った』とされているのだ。
多分、『息子を庇って大切な王子が傷付いた』事を盾に、未だにセオドアに熱を上げている王族共が、ここぞとばかりにセオドアを帰そうとしないのだろう。
ユキヤ本人から城から逃げた経緯を聞いていたから、自分は真実は違うと知っている。ユキヤがベルと逃げた時、あの王子様はピンピンしていたらしいから、信憑性を高める為に自分自身で怪我を負ったのだろう。
『魔力無しなのを十分承知した上で、身を呈して婚約者を掬おうとした』…と、その噂は瞬く間に国中へと広がった。
我が身を顧みぬ献身っぷりに、元々の人望も相まって第一王子は『悲劇の王子』として民衆から同情と称賛の声が上がっている。
その一方で、貴族達からは「やはり魔力無しではこういう時に役に立たない」という声が多く上がり、第二王子の失態で勢いづきかけた第一王子派を沈黙させる結果となったらしい。
問題は、その『噂』を流したのは『誰なのか』という事だ。
『どこに対しても落し所を作って第二王子の失墜を薄め、互いの立ち位置をほぼ元ある場所に戻した…か。凄まじく頭の切れるお方だ』
しかも魔力無しだなどととんでもない。彼…ランスロット王子はユキヤ同様「魅了」の力を有し、守護天使までいるのだという。
為政者としての視野の広さ。その頭脳。強力な魔力。どれを取っても第二王子などとは比べ物にならぬ王の器だ。
――そこまでの才能を有していながら、なぜ王位を継ぐのを拒むのか。
そこは理解しかねるが、そういった天才肌は得てして一般人とは常識が違うものだ。ひょっとしたらランスロット王子はウォレンと同類なのかもしれない。
「だいたい、そもそもの騒動の発端は、テオノアに懸想したあの第二バカ王子が呼んだ下位悪魔でしょう!アレのせいでユキヤは命に関わる大怪我を負った挙句、上級悪魔に連れ去られてしまったんですよ!?なのにいつの間にか第一王子の婚約者に仕立て上げられた挙句、たまたまその場に居合わせて負った怪我をユキヤのせいにし、私の妻を城から返さぬとは…!!何様なんだよ、ちくしょう!!」
ウェズレイの精悍な美貌が殺気に彩られ、迫力が物凄い事になっている。
まあ、さもありなん。目の中に入れても痛く無い程溺愛していた息子の面会にも行く事も出来ず、そうこうしている間にその息子は悪魔に攫われてしまったのだ。
挙句、最愛の妻も返してもらえないとくれば、切れるのは当然だろう。むしろ謀反でも起こしそうな勢いだ。
「セオドアについては心配なかろう。どう考えてもユキヤは被害者なのだから、いくら王子が負傷したとしても、いつまでもそれを理由に城に留め置く事など出来ん筈だ。それにお前に恥じるような事をあの子がするとは思えん。自害してでも操は守る。だから安心しろ」
「師匠!自害してどーすんですか!?ぜんっぜん、安心出来ませんよ!!」
「それだけ、あの子がお前を愛しているという事だよ」
その言葉に虚を突かれたように、ウェズレイが口をつぐんだ。
「…そりゃあ…。夫婦なんですし。…当然でしょう」
思わずといった感じに逸らされた顔は薄っすらと赤くなっていて、照れているのが丸分かりだ。
貴族としても男としても超有能なのに、気を許した相手に対しては甘くて非常に分かり易い。
こういう所が、この男の可愛い所なんだよな。セオドアも多分、こいつのこういった所に絆されたんだろう。
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