黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第三章

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「師匠。お戻りになられたのですか」

ウォレンの居住区を出て、そのままアスタール公爵家に戻った私を、ウェズレイが書斎で出迎えてくれた。その顔は険しく、多くの心労で少しばかりやつれたように思えた。

それでも私の一番弟子を名乗るだけの事はあり、最愛の息子が拐わかされたばかりだというのにその姿は凛として、最高位貴族の落ち着きと威厳を保っている。

彼は傍に控えていた執事にお茶の用意を命じると、私をソファーへと誘った。
そうして向かい合わせに座り、茶菓子と紅茶が目の前に置かれたタイミングで、執事に人払いを命じる。

「では、失礼いたします」

歳を感じさせぬ洗礼された仕草で深くお辞儀をする老齢な執事。…だが心なし、そのその姿には覇気が感じられないように思われる。

屋敷全体もどことなく暗い印象を与えてくるのは、いつも元気に屋敷を走り回っている「あの子」がいないせいなのだろう。

「…師匠、それでどうなのですか?息子は…ユキヤの事で、何かお分かりになられましたか?」

部屋の中に誰もいなくなった途端、ウェズレイは息子の安否を私に尋ねて来る。その不安そうな姿は、息子を案じているただの父親の顔だった。

「いや…済まない。私の方でも色々と伝手を当たったのだが、ユキヤの事は何も掴めなかった」

「…そうですか…」

ガックリと肩を落とすウェズレイに、思わずユキヤの無事を伝えてやりたくなったが、それは出来ないとすぐに思い止まる。

なにせ今この瞬間も、我々は王国側によって何らかの監視がなされている筈なのだ。

私が分かる範囲での監視は、ここにくるまでにことごとく物理で排除してきたが、国お抱えの魔術集団とか隠密とかが出張られたりすれば、流石にそれらを全て排除するのは難しいのが現実だ。

ウォレンならそれらも容易く排除出来るだろうが、生憎私にはそれだけの術力が無い。そもそもそこまでしては、自らで疑わしいと公言しているようなものだ。

非常に不愉快だが、監視されているのならそれを逆手に取って、ユキヤについては何も掴めていない体を取り、とっとと監視を解かせるのが得策だろう。

今この目の前で憔悴している可愛い弟子を見ながら、ベハティはそう心の中で結論付けた。
酷な事だが、それがユキヤを守り、ひいてはこの子とその家族を守る事に繋がるのだから。

――それにしても、まさか悪魔公デーモンロードに邂逅する日が来ようとは…。

ベハティは、つい先程まで共にいた美しい悪魔を思い返した。

悪魔公デーモンロードとは、魔王を筆頭に存在する、黒の精霊の頂点とも呼べる至高の存在だ。長い時を生きてきた自分ですら、召喚は愚か邂逅など皆無だったのに。

悪魔は力と美しさがイコールの種族だと聞いていたが、まさにその通り。美の権化とも言える程、美しい悪魔だった。

ユキヤと並んでみても全く遜色がない。…というか、人外の美を誇る悪魔公デーモンロードと並び立てるあの子ユキヤが異常なのだろう。

しかも『ベリアル』とは、七柱しかいないとされる悪魔公デーモンロードの筆頭とも言われる実力者な筈。
それを『うっかり間違って召喚しちゃった』とは…もう。聞いた時には我が息子ながら、呆れを通り越して眩暈を覚えたものだ。

しかし、もっと驚いたのは、その悪魔公デーモンロードがユキヤと『契約』をしたという事だ。(彼がいたら「仮契約だ!」と否定されたろうが、生憎ここには彼はいない)

力の無い者に、精霊系は決して従わない。

ましてや上位精霊を召喚する者は、魂の資質までも問われる。

それはつまり、精霊系の頂点に存在する悪魔公デーモンロードが『契約』を交わした時点で、超一流の実力と資質を持つと証明したに他ならないのだ。
しかも何も差し出す事無く…。通常であればあり得ない事だ。
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