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第二章
何もかもが規格外な奴
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そうして今現在、俺とユキヤはあばら家の中にいる。
あの第一王子が目の前に現れた時、微かに嫌な予感がしたから大人しくしていたというのに…。まさかよりにもよって、あのレリエルが守護天使になっていようとは思わなかった。
あいつは『天使の皮を被った悪魔』と呼ばれている程腹黒い奴で、尚且つ俺と同等に気まぐれな奴だ。
そんな奴が一介の人間の守護天使をしているなど、どんな冗談だと言いたくなってしまう。奴らの統括者である神の任務すらも、気に入らなければ平気でサボる闇堕ち寸前天使だというのに…。
まあ、あの第一王子もかなりな食わせ者っぽかったから、単純に波長が合っているだけなのかもしれないな。
しかし、俺とユキヤの関係の脆弱性を突かれ、撤退せざるを得ない状態になったのは不本意の極みだったが、逆にある意味好機とも思えた。
真綿で包まれるように大切に育てられた、貴族の箱入り息子であるユキヤ。
そんな彼が生活基盤も何もなく、市井に放り出されて生きていけるだろうか?――答えは「否」だ。出来る訳が無い。
途方に暮れ、心身共に弱った所を突き本契約を結ぼうか。いや、それよりもいっそ、魔界に連れて行ってしまうか…。
そう目論んでいたのだが、やはりというかユキヤは俺の想像の斜め上を行っていた。
高位貴族のお坊ちゃんなので、逆境に弱いだろうと思っていた俺の考えを裏切り、逞し過ぎる行動に出たのだ。
休憩の為、たまたま降り立った湖畔にあばら家を見つけると、「悩むよりもまず行動」とばかりに、何か食べ物は無いかと家探ししだし、呆気にとられ思わず出してやった食材を瞬く間に料理し、菓子も作れるぞと胸を張る。
挙句、作ったばかりの料理を俺にと手渡してきたのだ。
「いや、考えたんだけど、俺が自主的に与えたものが対価になるんなら、俺が作った食事を食べれば魔力供給になるんじゃないかと思ってさ」
…俺の仮契約者様は、とことん規格外な奴だった。
悪魔である俺に魔力供給の為、飯を作ってやるなどと普通は誰も思わない。
しかもこいつは俺との契約を解除したがっていた。だからむしろ、俺が魔力を得られない方が都合が良い筈なのに…。
『契約者の作った食事で魔力補充とは…。今迄誰もやらなかったし、考え付きもしなかった事だな。…だが確かに、的を得ている』
物は試しと初めて口にした人間の食事は、驚いた事に非常に美味だった。
しかもユキヤの言う通り、しっかり魔力補給も出来た。
「…美味い…な」
「――!だろ!?」
嬉しそうに笑うユキヤ。
初めて俺だけに向けられた、極上の笑顔だった。
食事が終われば次は就眠だ。下心満載で、俺はマットレスがわりになってやろうと提案した。ユキヤは狼狽え暫く葛藤していた様だが、至極最もな理由を並べ畳み掛けてやると、観念してように俺にもたれかかった。
「ベル…」
「ん?」
「…ありがと…」
ウトウトと、俺の腕の中でまどろんでいたユキヤがそう口にする。
俺は大きく目を見開いた。
俺との契約を終わらせたがってるくせに、俺の為に料理を作る。
禁止事項を山盛りにする程信用していないのに、心からの感謝を平気で口にする。
どれもが本意。その裏表のないアンバランスさ。
先程の悪戯で、まだ少し痺れている唇をペロリと舐める。仕方がない、失った魔力は明日こいつが目を覚ました時、また何か作らせて補給するとしよう。
「…ま、不満はあるが、今のところ退屈はしないしな…」
人間一人もまともに堕とせず、こんな従魔の真似事までしてこの世界に留まっているなど、仲間に知られたらいい笑いものだ。全くもって、本当に厄介な奴に呼ばれてしまったものだと思う。
だが、この不可思議な仮契約者の傍にいれば、当分の間退屈とは無縁でいられるだろう。
あどけない顔で眠るユキヤを見ながら、俺は愛しい仮契約者の身体を抱き直し、うっそりと笑った。
あの第一王子が目の前に現れた時、微かに嫌な予感がしたから大人しくしていたというのに…。まさかよりにもよって、あのレリエルが守護天使になっていようとは思わなかった。
あいつは『天使の皮を被った悪魔』と呼ばれている程腹黒い奴で、尚且つ俺と同等に気まぐれな奴だ。
そんな奴が一介の人間の守護天使をしているなど、どんな冗談だと言いたくなってしまう。奴らの統括者である神の任務すらも、気に入らなければ平気でサボる闇堕ち寸前天使だというのに…。
まあ、あの第一王子もかなりな食わせ者っぽかったから、単純に波長が合っているだけなのかもしれないな。
しかし、俺とユキヤの関係の脆弱性を突かれ、撤退せざるを得ない状態になったのは不本意の極みだったが、逆にある意味好機とも思えた。
真綿で包まれるように大切に育てられた、貴族の箱入り息子であるユキヤ。
そんな彼が生活基盤も何もなく、市井に放り出されて生きていけるだろうか?――答えは「否」だ。出来る訳が無い。
途方に暮れ、心身共に弱った所を突き本契約を結ぼうか。いや、それよりもいっそ、魔界に連れて行ってしまうか…。
そう目論んでいたのだが、やはりというかユキヤは俺の想像の斜め上を行っていた。
高位貴族のお坊ちゃんなので、逆境に弱いだろうと思っていた俺の考えを裏切り、逞し過ぎる行動に出たのだ。
休憩の為、たまたま降り立った湖畔にあばら家を見つけると、「悩むよりもまず行動」とばかりに、何か食べ物は無いかと家探ししだし、呆気にとられ思わず出してやった食材を瞬く間に料理し、菓子も作れるぞと胸を張る。
挙句、作ったばかりの料理を俺にと手渡してきたのだ。
「いや、考えたんだけど、俺が自主的に与えたものが対価になるんなら、俺が作った食事を食べれば魔力供給になるんじゃないかと思ってさ」
…俺の仮契約者様は、とことん規格外な奴だった。
悪魔である俺に魔力供給の為、飯を作ってやるなどと普通は誰も思わない。
しかもこいつは俺との契約を解除したがっていた。だからむしろ、俺が魔力を得られない方が都合が良い筈なのに…。
『契約者の作った食事で魔力補充とは…。今迄誰もやらなかったし、考え付きもしなかった事だな。…だが確かに、的を得ている』
物は試しと初めて口にした人間の食事は、驚いた事に非常に美味だった。
しかもユキヤの言う通り、しっかり魔力補給も出来た。
「…美味い…な」
「――!だろ!?」
嬉しそうに笑うユキヤ。
初めて俺だけに向けられた、極上の笑顔だった。
食事が終われば次は就眠だ。下心満載で、俺はマットレスがわりになってやろうと提案した。ユキヤは狼狽え暫く葛藤していた様だが、至極最もな理由を並べ畳み掛けてやると、観念してように俺にもたれかかった。
「ベル…」
「ん?」
「…ありがと…」
ウトウトと、俺の腕の中でまどろんでいたユキヤがそう口にする。
俺は大きく目を見開いた。
俺との契約を終わらせたがってるくせに、俺の為に料理を作る。
禁止事項を山盛りにする程信用していないのに、心からの感謝を平気で口にする。
どれもが本意。その裏表のないアンバランスさ。
先程の悪戯で、まだ少し痺れている唇をペロリと舐める。仕方がない、失った魔力は明日こいつが目を覚ました時、また何か作らせて補給するとしよう。
「…ま、不満はあるが、今のところ退屈はしないしな…」
人間一人もまともに堕とせず、こんな従魔の真似事までしてこの世界に留まっているなど、仲間に知られたらいい笑いものだ。全くもって、本当に厄介な奴に呼ばれてしまったものだと思う。
だが、この不可思議な仮契約者の傍にいれば、当分の間退屈とは無縁でいられるだろう。
あどけない顔で眠るユキヤを見ながら、俺は愛しい仮契約者の身体を抱き直し、うっそりと笑った。
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