黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
60 / 194
第二章

一緒にいてくれてありがとう

しおりを挟む
「……美味い……な」

「――!だろ!?」

俺はホッとしながら顔を綻ばせた。そんな俺をジッと見つめた後、ベルはスープを食べる事に集中しだす。

俺も自分のお椀にスープをたっぷりよそって食べ始めた。うん、即席で作った割りには上出来だ。やはり塩?がいい仕事しているよな。勿論、ブーケガルニもいい仕事した。

「ユキヤ、お代わり」

その後、ベルは物凄い食欲でスープのお代わりをしまくり、あれだけ作ったスープはあっという間に食べ尽くされてしまったのだった。

あれ?おかしいな?朝食分もと多めに作っていたのに……。しかも俺、1杯しか食べられなかったんだけど………。

まあ、気に入ってくれたみたいだから良しとするか。でも食べ過ぎは良くないと思うんだけどな……あ、そうだった。コイツは悪魔だから食べ過ぎとか関係ないか。

「ふぁ……」

残っていた井戸の水で軽く食器を濯ぎ、口もすすいで一息つく。
そしたら人間の生理現象の一つ、腹が膨れたら眠くなる。……という訳で、今俺は凄く眠い。

だけどなぁ……。流石にマットレスの無い、木組みのベッドの上で寝るのはいかがなものかと思う。
室温も暖かくなったとは言え、掛け布団も無いからちょっと寒そうだし。

いくら俺が元庶民でも、この世界に生まれてからは極上羽毛布団での生活だったからな……。悲しい事に、人間とは贅沢にはすぐ馴れるが、逆は中々慣れない生き物なのだ。

まあ、床に寝るよりマシかと諦めたら、なんとベルがベッドにもたれるようにして、手招きをしてきた。

「……お前、何やってんの?」

「俺がお前を抱いて寝てやろう」

「なんかお前が言うと台詞が卑猥……って、何で!?一人で寝るし!」

「この固い板の上でか?」

「うっ……!」

正に今さっき考えて悶々していた事を指摘され、言葉が詰まってしまう。

「しかもその薄着じゃ、確実にまた調子が悪くなるぞ?」

「うう……」

更に追い討ちをかけられてしまい、苦悩の表情を浮かべて呻く俺を、ベルは心無し楽し気に見つめ片口端をあげた。

「さあ、どうする?俺は別にどっちでもいいぞ?」

「………」

長い、長い葛藤の末、俺は観念した。

そう、大人しくベルに後ろから抱っこされる形でベッドに横になった。というか、もたれた。

「全く、最初っから素直になれば良いものを」

「う、うるさい!」

クックッと喉奥で笑う声に小さく悪態をつき、ともすれば熱が灯りそうな顔を俯かせた。そしたら緩く回されていた腕に少し力が入り、俺とベルの身体が更に密着して内心焦る。

「ちょっ……!」

「うるせえな。この方が温いだろうが」

「性的な行為は俺の許可無しでは禁止!」を誓約書に加えてるけど、これならば何ら問題ないとばかりに遠慮なく抱きしめられてしまう俺。

確かに、背中からじんわりと身体中が暖まってきてる...んだけど…。

うう……。見事に鍛え上げられた身体の良い弾力が背中越しに伝わって来て落ち着かない。

そういえばこいつ、俺の身体とか魂とか狙ってるんだよな……いや、意識しない、意識しない!
意識してしまえば負けだ!身体の純粋なる訴えに耳を傾けろ!寝ろ!寝るんだ!!そ、そうだ!日本古来より伝わる眠りへと誘うアレを……!

羊が一匹…羊が二匹……。

脳内でエンドレスシープシネマを上映していると、ふわりとした別種の温かさに包まれ、何だろうと目を開けてみる。すると俺の身体を覆うように、ベルの羽が身体を包み込んでいた。これぞまさにリアル羽毛布団。

(ふわぁ……)

極上の温かさに、緊張していた心身が溶かされていくようだ。

うとうとと眠くなって揺れ動く意識の中で、俺はふと思った。

――こいつって、かなり優しいよな……。

勿論悪魔だから、これも俺を堕とす為の作戦の一環かもしれない。

それでも実際、ベルがいてくれたお陰で俺はこうして生きているし、こんな状態でも何とかなっているのだ。何より、自分は一人じゃないんだって事実が、こんなにも心強くて嬉しい。

「ベル……」

「ん?」

「……ありがと……」

俺と一緒にいてくれて。っていう言葉は、やっぱり気恥ずかしくて心の中で呟いたけど。

何となく、気配でベルが驚いてるような気がした。

悪魔って、ただただ恐いだけの存在だと思ったけど、割と人間臭いよな……。天使もアレだったし……。あ、明日の朝食はどうしようかな……。またベルに……今度は卵を持ってきてもらって……。

つらつらと、まどろみながら考え事をしている内に、俺は眠りへと落ちていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

処理中です...