黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
56 / 194
第一章

きっと帰って来るから!

しおりを挟む
「……ベル。逃げよう」

「ユキヤ!」

「悔しいけど……このまま戦っても多分勝てない。万が一勝てたとして、他はどうするんだよ。俺が処刑されるだけだったら良いけど、最悪家族も巻き添えになる。だったら今は逃げる。……でも、逃げるのは今、この時だけだ!いつか帰ってきてやる!堂々と、胸を張って!」

俺はランスロットに向かって、そう言い放った。

憤りはある。

何故俺だけが家族も故郷も捨て、死んだことにされなくてはならないのかと。

だけどこの王子の言う通り、このまま俺がこの国に居れば自分だけじゃなく、家族や親族にまで迷惑がかかってしまう。

家族は俺が利用されるのを良しとはしない。絶対に。それはすなわち、皆の破滅を意味するのだ。だったら、こうするしかないじゃないか。

父さん達もテオも、俺が攫われたと知ったら嘆き悲しむだろう。けど、今迄俺のせいで散々苦労させたのだ。これ以上皆に迷惑をかける事だけは絶対にしたくない。

悔しい。悔し過ぎて、泣きたいくらいだ。

でも、誰が悪いとか悪くないとか以前に、俺には力が無かったのだ。

『俺』という個人に、理不尽をはね除け、権力に立ち向かい、対等に渡り合うことのできる『力』と『経験』が。

でもだったら、今からそれを得ようじゃないか。そして先程、ランスロットに宣言した通り、帰って来るんだ。大切な家族の元に。

「ベル!頼む……!」

懇願する俺をチラリと見た後、盛大に舌打ちをしたベルはランスロット王子の縛りを強制的に破壊する。
そしてそのまま、荒れ狂う魔力を頭上へと放った。

凄まじい破壊音と共に、瓦礫が雨霰と降ってくる。

そうしてようやく崩壊が収まった時には貴賓室は床だけ残し、辺り一面、瓦礫の山と化していた。

「ランちゃーん、無事~?」

「何とかー!……いや~、しかし派手にやってくれたよね」

ランスロットは周囲の惨状を確認し、苦笑した。

彼の安否を確認し、ほっとため息をついたレリエルは、次いで感嘆のそれに切り替える。

「凄いわよねぇ、咄嗟に張った私の結界突破して、こんだけやるんだから。あいつが結んだのが仮契約じゃなかったら、真面目にヤバかったわ!」

「しかし、破壊されたのはこの部屋と天井だけで、周囲の部屋は無傷のようだ。きっとユキヤの家族がいるからだろうけど、悪魔公デーモンロードベリアル。音に聞こえし大悪魔殿は、かなり甘い性格をしているようだね」

「いやいや、普段のあいつは『気まぐれ、残虐、傍若無人』を絵に描いたようなヤツだから。それだけあのボーヤに惚れてるって事じゃないの?」

速攻否定した守護天使の言葉に、ランスロットはくすりと笑って見晴らしのよくなった天井を見上げた。

「そうかもしれないね。もしくは、そんな悪魔を魅了できる程、ユキヤには底知れぬ才能があるって事かな。……もしかしたら、私以上に」

最後の一言は、レリエルでもかろうじて拾うことが出来る位に小さなものだった。元の色に戻った目を一瞬だけ瞑ってから、ランスロットは何時もの朗らかな笑顔を浮かべる。

「……さて、最後の仕上げだ。城の者達が来る前に、私を殺さぬ程度に痛め付けてくれ。そうだな、あそこの壁に叩きつけるなんてどうかな?あ、あばら骨は折っても良いけど、内臓は傷付けないでね」

「……何もそこまでやんなくても……」

「物事にはリアリティーが大切なんだよ。……レリエル、頼む」

守護する者に願われ、叶えないなどあり得ない。レリアルは「やれやれ」と呆れたようにため息をついた。

「ほんと、私の守護者は難儀な性格してるわよね。……悪者ぶっちゃって!」

「事実、悪者だからね」

「だいたい、何も追い出さなくたっていいじゃない!手っ取り早く妃にしちゃえば良かったのよ!私とあんたとで守ってやれば済む話なんだから!」

「あの悪魔公デーモンロードがそれを許すとでも?それに、そんな事したら自由が無くなるじゃないか」

「自由ねぇ……。どっちの事を言ってるんだか」

「レリエル。時間が無い」

「はいはい」

レリエルが手の中に霊力を溜めるのを見ながら、ランスロットは薄く笑う。

――、君が力をつけて帰ってくるのを楽しみに待っているよ。

そう心の中で呟くと、ランスロットはそっと目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

処理中です...