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第一章
きっと帰って来るから!
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「……ベル。逃げよう」
「ユキヤ!」
「悔しいけど……このまま戦っても多分勝てない。万が一勝てたとして、他はどうするんだよ。俺が処刑されるだけだったら良いけど、最悪家族も巻き添えになる。だったら今は逃げる。……でも、逃げるのは今、この時だけだ!いつか帰ってきてやる!堂々と、胸を張って!」
俺はランスロットに向かって、そう言い放った。
憤りはある。
何故俺だけが家族も故郷も捨て、死んだことにされなくてはならないのかと。
だけどこの王子の言う通り、このまま俺がこの国に居れば自分だけじゃなく、家族や親族にまで迷惑がかかってしまう。
家族は俺が利用されるのを良しとはしない。絶対に。それはすなわち、皆の破滅を意味するのだ。だったら、こうするしかないじゃないか。
父さん達もテオも、俺が攫われたと知ったら嘆き悲しむだろう。けど、今迄俺のせいで散々苦労させたのだ。これ以上皆に迷惑をかける事だけは絶対にしたくない。
悔しい。悔し過ぎて、泣きたいくらいだ。
でも、誰が悪いとか悪くないとか以前に、俺には力が無かったのだ。
『俺』という個人に、理不尽をはね除け、権力に立ち向かい、対等に渡り合うことのできる『力』と『経験』が。
でもだったら、今からそれを得ようじゃないか。そして先程、ランスロットに宣言した通り、帰って来るんだ。大切な家族の元に。
「ベル!頼む……!」
懇願する俺をチラリと見た後、盛大に舌打ちをしたベルはランスロット王子の縛りを強制的に破壊する。
そしてそのまま、荒れ狂う魔力を頭上へと放った。
凄まじい破壊音と共に、瓦礫が雨霰と降ってくる。
そうしてようやく崩壊が収まった時には貴賓室は床だけ残し、辺り一面、瓦礫の山と化していた。
「ランちゃーん、無事~?」
「何とかー!……いや~、しかし派手にやってくれたよね」
ランスロットは周囲の惨状を確認し、苦笑した。
彼の安否を確認し、ほっとため息をついたレリエルは、次いで感嘆のそれに切り替える。
「凄いわよねぇ、咄嗟に張った私の結界突破して、こんだけやるんだから。あいつが結んだのが仮契約じゃなかったら、真面目にヤバかったわ!」
「しかし、破壊されたのはこの部屋と天井だけで、周囲の部屋は無傷のようだ。きっとユキヤの家族がいるからだろうけど、悪魔公ベリアル。音に聞こえし大悪魔殿は、かなり甘い性格をしているようだね」
「いやいや、普段のあいつは『気まぐれ、残虐、傍若無人』を絵に描いたようなヤツだから。それだけあのボーヤに惚れてるって事じゃないの?」
速攻否定した守護天使の言葉に、ランスロットはくすりと笑って見晴らしのよくなった天井を見上げた。
「そうかもしれないね。もしくは、そんな悪魔を魅了できる程、彼には底知れぬ才能があるって事かな。……もしかしたら、私以上に」
最後の一言は、レリエルでもかろうじて拾うことが出来る位に小さなものだった。元の色に戻った目を一瞬だけ瞑ってから、ランスロットは何時もの朗らかな笑顔を浮かべる。
「……さて、最後の仕上げだ。城の者達が来る前に、私を殺さぬ程度に痛め付けてくれ。そうだな、あそこの壁に叩きつけるなんてどうかな?あ、あばら骨は折っても良いけど、内臓は傷付けないでね」
「……何もそこまでやんなくても……」
「物事にはリアリティーが大切なんだよ。……レリエル、頼む」
守護する者に願われ、叶えないなどあり得ない。レリアルは「やれやれ」と呆れたようにため息をついた。
「ほんと、私の守護者は難儀な性格してるわよね。……悪者ぶっちゃって!」
「事実、悪者だからね」
「だいたい、何も追い出さなくたっていいじゃない!手っ取り早く妃にしちゃえば良かったのよ!私とあんたとで守ってやれば済む話なんだから!」
「あの悪魔公がそれを許すとでも?それに、そんな事したら自由が無くなるじゃないか」
「自由ねぇ……。どっちの事を言ってるんだか」
「レリエル。時間が無い」
「はいはい」
レリエルが手の中に霊力を溜めるのを見ながら、ランスロットは薄く笑う。
――雪弥、君が力をつけて帰ってくるのを楽しみに待っているよ。
そう心の中で呟くと、ランスロットはそっと目を閉じた。
「ユキヤ!」
「悔しいけど……このまま戦っても多分勝てない。万が一勝てたとして、他はどうするんだよ。俺が処刑されるだけだったら良いけど、最悪家族も巻き添えになる。だったら今は逃げる。……でも、逃げるのは今、この時だけだ!いつか帰ってきてやる!堂々と、胸を張って!」
俺はランスロットに向かって、そう言い放った。
憤りはある。
何故俺だけが家族も故郷も捨て、死んだことにされなくてはならないのかと。
だけどこの王子の言う通り、このまま俺がこの国に居れば自分だけじゃなく、家族や親族にまで迷惑がかかってしまう。
家族は俺が利用されるのを良しとはしない。絶対に。それはすなわち、皆の破滅を意味するのだ。だったら、こうするしかないじゃないか。
父さん達もテオも、俺が攫われたと知ったら嘆き悲しむだろう。けど、今迄俺のせいで散々苦労させたのだ。これ以上皆に迷惑をかける事だけは絶対にしたくない。
悔しい。悔し過ぎて、泣きたいくらいだ。
でも、誰が悪いとか悪くないとか以前に、俺には力が無かったのだ。
『俺』という個人に、理不尽をはね除け、権力に立ち向かい、対等に渡り合うことのできる『力』と『経験』が。
でもだったら、今からそれを得ようじゃないか。そして先程、ランスロットに宣言した通り、帰って来るんだ。大切な家族の元に。
「ベル!頼む……!」
懇願する俺をチラリと見た後、盛大に舌打ちをしたベルはランスロット王子の縛りを強制的に破壊する。
そしてそのまま、荒れ狂う魔力を頭上へと放った。
凄まじい破壊音と共に、瓦礫が雨霰と降ってくる。
そうしてようやく崩壊が収まった時には貴賓室は床だけ残し、辺り一面、瓦礫の山と化していた。
「ランちゃーん、無事~?」
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ランスロットは周囲の惨状を確認し、苦笑した。
彼の安否を確認し、ほっとため息をついたレリエルは、次いで感嘆のそれに切り替える。
「凄いわよねぇ、咄嗟に張った私の結界突破して、こんだけやるんだから。あいつが結んだのが仮契約じゃなかったら、真面目にヤバかったわ!」
「しかし、破壊されたのはこの部屋と天井だけで、周囲の部屋は無傷のようだ。きっとユキヤの家族がいるからだろうけど、悪魔公ベリアル。音に聞こえし大悪魔殿は、かなり甘い性格をしているようだね」
「いやいや、普段のあいつは『気まぐれ、残虐、傍若無人』を絵に描いたようなヤツだから。それだけあのボーヤに惚れてるって事じゃないの?」
速攻否定した守護天使の言葉に、ランスロットはくすりと笑って見晴らしのよくなった天井を見上げた。
「そうかもしれないね。もしくは、そんな悪魔を魅了できる程、彼には底知れぬ才能があるって事かな。……もしかしたら、私以上に」
最後の一言は、レリエルでもかろうじて拾うことが出来る位に小さなものだった。元の色に戻った目を一瞬だけ瞑ってから、ランスロットは何時もの朗らかな笑顔を浮かべる。
「……さて、最後の仕上げだ。城の者達が来る前に、私を殺さぬ程度に痛め付けてくれ。そうだな、あそこの壁に叩きつけるなんてどうかな?あ、あばら骨は折っても良いけど、内臓は傷付けないでね」
「……何もそこまでやんなくても……」
「物事にはリアリティーが大切なんだよ。……レリエル、頼む」
守護する者に願われ、叶えないなどあり得ない。レリアルは「やれやれ」と呆れたようにため息をついた。
「ほんと、私の守護者は難儀な性格してるわよね。……悪者ぶっちゃって!」
「事実、悪者だからね」
「だいたい、何も追い出さなくたっていいじゃない!手っ取り早く妃にしちゃえば良かったのよ!私とあんたとで守ってやれば済む話なんだから!」
「あの悪魔公がそれを許すとでも?それに、そんな事したら自由が無くなるじゃないか」
「自由ねぇ……。どっちの事を言ってるんだか」
「レリエル。時間が無い」
「はいはい」
レリエルが手の中に霊力を溜めるのを見ながら、ランスロットは薄く笑う。
――雪弥、君が力をつけて帰ってくるのを楽しみに待っているよ。
そう心の中で呟くと、ランスロットはそっと目を閉じた。
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