45 / 194
第一章
息子が召喚したのはツンデレだった
しおりを挟む
「テオノア。いつまでそうしているつもりだ?」
不意に母であるセオドア様に声をかけられ、回想に浸っていた意識を呼び戻された。
「…母上」
「朝から食事も取らずに…。昨日も一昨日も満足に食べていないし、睡眠だって碌に取っていないのだろう?このままではお前まで倒れてしまうぞ」
秀麗な顔に労わりの色を浮かべている母に、俺は新たに湧き上がってきた深い懺悔に目を伏せる。
「…ですが…」
「ユキヤは当分目覚めないだろう。だからお前は少し別室で休みなさい。この子が目を覚ました時、死人みたいにやつれた顔なんて見せたくないだろう?…安心しなさい。私がちゃんとこの子の傍にいるから。…それに、ベルもついているしな」
「………」
俺は眠り続けている兄の枕元に目をやった。
そこには以前俺を威嚇した小さな黒蛇が、まるで兄を守るようにとぐろを巻いて寛いでいた。
「…まさか兄上に、召喚士の才能があるとは思ってもみませんでした」
「うん。まぁ…。あくまで才能があるかも…ってぐらいだけどね」
そう。母曰く、兄はたまたま『魅了』のスキル持っていたらしく、父の調べでローレンス王子が召喚士だと知り、その力を使って強力な従魔を召喚させようとしたらしい。
何でも魅了のスキルを持つ者は、普通の召喚士より強い従魔を呼ぶ事が出来るのだそうだ。ちなみにローレンス王子も魅了のスキル持ちらしい。
…成程。あれ程の数の信奉者達をあの短期間で従えられたのは、その魅了の力のお陰であったのかと深く納得した。
いくら美しく身分が高いとはいえ、あの王子自身にはそこまで人を惹き付ける魅力は無い。うちの兄ならそんな能力なんて無くても、魅力が爆発しているけど。
だが兄は、召喚士の才能自体はあまり無かったらしく、今目の前にいる黒蛇をうっかり召喚して以降、何も召喚する事が出来なかったのだそうだ。
成程、何をやらかしたら蛇をペットにしてしまうのかと思っていたが、そういう事だったのか…と、深く納得した。
「さ、本当にもう休みなさい。もしこのままここにいるつもりなら、物理で眠ってもらうぞ?」
母がにっこり良い笑顔でそう宣言した。
つまりはこのまま我儘を言えば、速攻で意識を落すと言われたのだ。俺は観念し、ベッド脇の椅子から立ち上がった。
「それでは母上、私は隣室で休ませて頂きます。…あの、もし兄上が目を覚ましたら…」
「分かっている。真っ先にお前を起こしに行くから、安心して休みなさい」
ペコリとお辞儀をし、部屋から出て行く息子を見送ったセオドアは、扉が閉まった瞬間、物憂げに溜息をついた。
「…そりゃあね。貴方様がいるのでしたら、どれだけ従魔の召喚をしようが失敗する訳ですよ。…まさかユキヤが初っ端に悪魔公を呼び出していたとは…。しかも契約まで。貴方様のお眼鏡に叶い、命を奪われなかったのは僥倖だったと言わざるを得ませんね」
セオドアの言葉に、黒蛇は鎌首を上げると舌をチロチロと出した。
『契約は契約でも、『仮契約』だ。そこを間違えるな』
「…承知いたしました」
少し不快そうなベルの言葉に、セオドアは素直に頭を下げる。…が、心の中ではベルに対してツッコミ満載だ。
そもそも『仮契約』でも契約は契約だし、真名を口にする事も認めている。ハッキリ言って従魔と大して変わらない。
それにユキヤに対する態度といい、どうも自分と結婚する前のウェズレイを思い出して仕方がない。所謂、ツンデレというやつだ。
王子が愚かにも下位悪魔を召喚し、あわや殺されそうになったのをユキヤが助け、代わりに大怪我を負った。その後の経緯を聞いたって、ユキヤへの執着は所有物のそれを超えているし…。
セオドアは、枕元でユキヤの頬にすり寄っている黒蛇…もとい、悪魔公を半目になりながら見つめた。
まあ、何の運命の悪戯かと思ったが、それでも彼がたまたまユキヤと契約したお陰で、ユキヤは命拾いをしたのだ。
テオノアから決闘から今の状況に至るまでを聞かされた時は、真面目に肝が冷えた。その上、ユキヤと二人きりになった時、黒蛇に自分の正体を明かされ再度肝を冷やした。
「…この度の貴方の出現。王宮側は第二王子が己の召喚術を披露し、手違いで下位悪魔を呼び出した影響で高位悪魔をも出現。しかし魔法陣に不具合が生じ、2体は消滅した…として片付けるようです。その場に居た者達全てに箝口令が王命によって下されました」
要は勅命でユキヤを自分の生誕祭に呼びつけ、決闘の際に暴走してあわや大惨事を引き起こしかけた…という事実を歪曲し、有耶無耶にしたのである。
不意に母であるセオドア様に声をかけられ、回想に浸っていた意識を呼び戻された。
「…母上」
「朝から食事も取らずに…。昨日も一昨日も満足に食べていないし、睡眠だって碌に取っていないのだろう?このままではお前まで倒れてしまうぞ」
秀麗な顔に労わりの色を浮かべている母に、俺は新たに湧き上がってきた深い懺悔に目を伏せる。
「…ですが…」
「ユキヤは当分目覚めないだろう。だからお前は少し別室で休みなさい。この子が目を覚ました時、死人みたいにやつれた顔なんて見せたくないだろう?…安心しなさい。私がちゃんとこの子の傍にいるから。…それに、ベルもついているしな」
「………」
俺は眠り続けている兄の枕元に目をやった。
そこには以前俺を威嚇した小さな黒蛇が、まるで兄を守るようにとぐろを巻いて寛いでいた。
「…まさか兄上に、召喚士の才能があるとは思ってもみませんでした」
「うん。まぁ…。あくまで才能があるかも…ってぐらいだけどね」
そう。母曰く、兄はたまたま『魅了』のスキル持っていたらしく、父の調べでローレンス王子が召喚士だと知り、その力を使って強力な従魔を召喚させようとしたらしい。
何でも魅了のスキルを持つ者は、普通の召喚士より強い従魔を呼ぶ事が出来るのだそうだ。ちなみにローレンス王子も魅了のスキル持ちらしい。
…成程。あれ程の数の信奉者達をあの短期間で従えられたのは、その魅了の力のお陰であったのかと深く納得した。
いくら美しく身分が高いとはいえ、あの王子自身にはそこまで人を惹き付ける魅力は無い。うちの兄ならそんな能力なんて無くても、魅力が爆発しているけど。
だが兄は、召喚士の才能自体はあまり無かったらしく、今目の前にいる黒蛇をうっかり召喚して以降、何も召喚する事が出来なかったのだそうだ。
成程、何をやらかしたら蛇をペットにしてしまうのかと思っていたが、そういう事だったのか…と、深く納得した。
「さ、本当にもう休みなさい。もしこのままここにいるつもりなら、物理で眠ってもらうぞ?」
母がにっこり良い笑顔でそう宣言した。
つまりはこのまま我儘を言えば、速攻で意識を落すと言われたのだ。俺は観念し、ベッド脇の椅子から立ち上がった。
「それでは母上、私は隣室で休ませて頂きます。…あの、もし兄上が目を覚ましたら…」
「分かっている。真っ先にお前を起こしに行くから、安心して休みなさい」
ペコリとお辞儀をし、部屋から出て行く息子を見送ったセオドアは、扉が閉まった瞬間、物憂げに溜息をついた。
「…そりゃあね。貴方様がいるのでしたら、どれだけ従魔の召喚をしようが失敗する訳ですよ。…まさかユキヤが初っ端に悪魔公を呼び出していたとは…。しかも契約まで。貴方様のお眼鏡に叶い、命を奪われなかったのは僥倖だったと言わざるを得ませんね」
セオドアの言葉に、黒蛇は鎌首を上げると舌をチロチロと出した。
『契約は契約でも、『仮契約』だ。そこを間違えるな』
「…承知いたしました」
少し不快そうなベルの言葉に、セオドアは素直に頭を下げる。…が、心の中ではベルに対してツッコミ満載だ。
そもそも『仮契約』でも契約は契約だし、真名を口にする事も認めている。ハッキリ言って従魔と大して変わらない。
それにユキヤに対する態度といい、どうも自分と結婚する前のウェズレイを思い出して仕方がない。所謂、ツンデレというやつだ。
王子が愚かにも下位悪魔を召喚し、あわや殺されそうになったのをユキヤが助け、代わりに大怪我を負った。その後の経緯を聞いたって、ユキヤへの執着は所有物のそれを超えているし…。
セオドアは、枕元でユキヤの頬にすり寄っている黒蛇…もとい、悪魔公を半目になりながら見つめた。
まあ、何の運命の悪戯かと思ったが、それでも彼がたまたまユキヤと契約したお陰で、ユキヤは命拾いをしたのだ。
テオノアから決闘から今の状況に至るまでを聞かされた時は、真面目に肝が冷えた。その上、ユキヤと二人きりになった時、黒蛇に自分の正体を明かされ再度肝を冷やした。
「…この度の貴方の出現。王宮側は第二王子が己の召喚術を披露し、手違いで下位悪魔を呼び出した影響で高位悪魔をも出現。しかし魔法陣に不具合が生じ、2体は消滅した…として片付けるようです。その場に居た者達全てに箝口令が王命によって下されました」
要は勅命でユキヤを自分の生誕祭に呼びつけ、決闘の際に暴走してあわや大惨事を引き起こしかけた…という事実を歪曲し、有耶無耶にしたのである。
6
お気に入りに追加
935
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる