42 / 194
第一章
兄の暴挙【テオ視点】
しおりを挟む
尊大で傲慢、自己中心的で利己的。この少年の纏う皮が幾ら美しくとも、内面はそれらが詰まった存在だとしか最早自分には思えない。伴侶…などと考えるだけで虫唾が走る。
煮えたぎる怒りを堪え、俺は沈黙しながら隣の愛しい人を見やる。
兄は元凶を前にしても、最初の内はしっかり貴族の礼をとり、完璧な公爵家子息を演じていた。
ローレンス王子の失礼な態度にも、余裕で笑顔まで見せる。
ローレンス王子の取り巻き連中は、その笑顔を見た瞬間一斉に息を飲み、見惚れてしまってローレンス王子がそれを敏感に察し、取り巻き達を睨み付ける一幕もあった。その時は思わず留飲が下がったものだが。
それにしても…。その後現れた第一王子のランスロット王子に対するローレンス王子の態度は、正直見ていて非常に不快だった。
ランスロット王子と言えば、魔力こそ無いが文武両道に秀で、おまけに気取らない人格者であると、非常に評判の良い方だ。
実際、弟であるローレンス王子の所業に対する謝罪をしてくれ、その人格者っぷりをその場の者達に見せ付けた。
そんな彼を、まるで無能者のようにこき下ろすなど、自分の立場を自分で貶めるだけだと、何故ローレンス王子は分からないのだろうか。
兄のユキヤも、ローレンス王子の物言いが不快だったのだろう。呆れたように何かを呟いていた。何を言ったのかは声が小さすぎて分からなかったが、何故か絶妙なタイミングでランスロット王子が噴き出していた。まさかと思うが、兄の呟きが聞こえたのだろうか?…いや、まさかな。
その後すぐ、ローレンス王子はいつもの持論を嬉々として展開しだした。
曰く、兄が次期アスタール公爵家の当主となる為に、自分をタラシこんでいるだの、誘惑しているだの…といったものだ。寧ろ兄は常々「テオの方が公爵に相応しいと思うんだよな」と、事あるごとに俺に言っているというのに…。
そんな兄が次期公爵の座を得る為に俺を誘惑する…なんて、そんな美味しい…いや、不埒な事をする訳がない。
その事は手を変え品を変え、口を酸っぱくしてローレンス王子に言っているのだが、どうやら彼は自分の都合の悪い事は頭に入らない性格をしているらしい。
ローレンス王子の口撃はとどまる事を知らず、遂には母(兄の実父)であるセオドア様の事まで侮辱され、それまで呆れ顔だった兄の表情が一変した。
兄は母のセオドア様譲りの直情型で、身内を傷付ける者や理不尽な言動をする者が大嫌いだ。そしてそういう相手には容赦をしない。
ローレンス王子の言動に「ヤバい!」と思った時には既に遅く、兄による嫌味返しが炸裂した。
「けれどご心配には及びませんよ。父も私も、美しさなどという、どーでもいいものに頼らぬ、まっとうで堅実な人生目指して日々精進しております。自分の美しさを鼻にかけ、やりたい放題やって享楽に耽った挙げ句、誰にも見向きもされないシワくちゃジジイになった時に、『あの頃のワシは美しかった』と、事あるごとにブツブツ呟いてるだけの痛い老人にだけはなりたくないですからね」
…どう考えても、その『自分の美しさを鼻にかけた、将来の痛い老人』とはローレンス王子の事だろう。
周囲や自分達を凍り付かせ、第一王子の爆笑を誘った兄。ユキヤを、ローレンス王子が顔色を無くし、まるで親の仇のような表情で睨み付けてくる。
自業自得とは言え、あそこまで言われたら確かに怒髪天をつくだろう。
…それにしても兄上。王族に対してなんて物言いを…!不敬罪でこの場で処刑されたらどうするんですか!?
「我、ローレンス・フェレーラは今ここで、正式にユキヤ・アスタールに決闘を申し込む!」
怒りにかられた勢いで、ローレンス王子が兄に決闘を申し込んだ。ここまでは当初の予定通りだ。
だが、何故かその決闘の前に、生徒会メンバーを中心とした王子の信奉者達が兄に決闘を挑むと言う。
しかも激高して抗議した俺に対し、「決闘は一対一で戦うと定められてはいるが、一度に何人もの相手と続けて戦ってはいけないという決まりはない」と言い放ち、なおかつ彼らに勝てなければ自分には挑んでも勝てないと言い切ったのだ。
ローレンス王子は召喚士だ。
確かに兄のユキヤにとって、勝つ事は厳しいかもしれない。
だが、どう御託を並べようが自分の信奉者達と兄を戦わせ、少しでも力を削ごうとしている事など、誰の目から見ても分かる事だろう。
「…兄上、それは本当です。彼らはこの学院の生徒会のメンバーと、それに準ずる補佐の者達。王子の言う通り、品格や知性などはともかくとして、実力者揃いなのは間違いありません」
そう、生徒会に入れる者達は皆、武術、魔力、学力が秀でている。…たとえ兄との決闘にあわよくば勝って、兄を玩具に出来る権利を獲得できるかも…と言ったような思惑が丸わかりの、下卑た表情をしていたとしても。
ローレンス王子も、その信奉者達も兄が決闘を辞退すると踏んでいるのか、不敵な笑みを浮かべている。
だがその予想に反し、兄はローレンス王子とその信奉者達との決闘を受けた。しかも「一人一人じゃ面倒だから、まとめてかかってこい」と信奉者達に向かって言い放ったのだ。
煮えたぎる怒りを堪え、俺は沈黙しながら隣の愛しい人を見やる。
兄は元凶を前にしても、最初の内はしっかり貴族の礼をとり、完璧な公爵家子息を演じていた。
ローレンス王子の失礼な態度にも、余裕で笑顔まで見せる。
ローレンス王子の取り巻き連中は、その笑顔を見た瞬間一斉に息を飲み、見惚れてしまってローレンス王子がそれを敏感に察し、取り巻き達を睨み付ける一幕もあった。その時は思わず留飲が下がったものだが。
それにしても…。その後現れた第一王子のランスロット王子に対するローレンス王子の態度は、正直見ていて非常に不快だった。
ランスロット王子と言えば、魔力こそ無いが文武両道に秀で、おまけに気取らない人格者であると、非常に評判の良い方だ。
実際、弟であるローレンス王子の所業に対する謝罪をしてくれ、その人格者っぷりをその場の者達に見せ付けた。
そんな彼を、まるで無能者のようにこき下ろすなど、自分の立場を自分で貶めるだけだと、何故ローレンス王子は分からないのだろうか。
兄のユキヤも、ローレンス王子の物言いが不快だったのだろう。呆れたように何かを呟いていた。何を言ったのかは声が小さすぎて分からなかったが、何故か絶妙なタイミングでランスロット王子が噴き出していた。まさかと思うが、兄の呟きが聞こえたのだろうか?…いや、まさかな。
その後すぐ、ローレンス王子はいつもの持論を嬉々として展開しだした。
曰く、兄が次期アスタール公爵家の当主となる為に、自分をタラシこんでいるだの、誘惑しているだの…といったものだ。寧ろ兄は常々「テオの方が公爵に相応しいと思うんだよな」と、事あるごとに俺に言っているというのに…。
そんな兄が次期公爵の座を得る為に俺を誘惑する…なんて、そんな美味しい…いや、不埒な事をする訳がない。
その事は手を変え品を変え、口を酸っぱくしてローレンス王子に言っているのだが、どうやら彼は自分の都合の悪い事は頭に入らない性格をしているらしい。
ローレンス王子の口撃はとどまる事を知らず、遂には母(兄の実父)であるセオドア様の事まで侮辱され、それまで呆れ顔だった兄の表情が一変した。
兄は母のセオドア様譲りの直情型で、身内を傷付ける者や理不尽な言動をする者が大嫌いだ。そしてそういう相手には容赦をしない。
ローレンス王子の言動に「ヤバい!」と思った時には既に遅く、兄による嫌味返しが炸裂した。
「けれどご心配には及びませんよ。父も私も、美しさなどという、どーでもいいものに頼らぬ、まっとうで堅実な人生目指して日々精進しております。自分の美しさを鼻にかけ、やりたい放題やって享楽に耽った挙げ句、誰にも見向きもされないシワくちゃジジイになった時に、『あの頃のワシは美しかった』と、事あるごとにブツブツ呟いてるだけの痛い老人にだけはなりたくないですからね」
…どう考えても、その『自分の美しさを鼻にかけた、将来の痛い老人』とはローレンス王子の事だろう。
周囲や自分達を凍り付かせ、第一王子の爆笑を誘った兄。ユキヤを、ローレンス王子が顔色を無くし、まるで親の仇のような表情で睨み付けてくる。
自業自得とは言え、あそこまで言われたら確かに怒髪天をつくだろう。
…それにしても兄上。王族に対してなんて物言いを…!不敬罪でこの場で処刑されたらどうするんですか!?
「我、ローレンス・フェレーラは今ここで、正式にユキヤ・アスタールに決闘を申し込む!」
怒りにかられた勢いで、ローレンス王子が兄に決闘を申し込んだ。ここまでは当初の予定通りだ。
だが、何故かその決闘の前に、生徒会メンバーを中心とした王子の信奉者達が兄に決闘を挑むと言う。
しかも激高して抗議した俺に対し、「決闘は一対一で戦うと定められてはいるが、一度に何人もの相手と続けて戦ってはいけないという決まりはない」と言い放ち、なおかつ彼らに勝てなければ自分には挑んでも勝てないと言い切ったのだ。
ローレンス王子は召喚士だ。
確かに兄のユキヤにとって、勝つ事は厳しいかもしれない。
だが、どう御託を並べようが自分の信奉者達と兄を戦わせ、少しでも力を削ごうとしている事など、誰の目から見ても分かる事だろう。
「…兄上、それは本当です。彼らはこの学院の生徒会のメンバーと、それに準ずる補佐の者達。王子の言う通り、品格や知性などはともかくとして、実力者揃いなのは間違いありません」
そう、生徒会に入れる者達は皆、武術、魔力、学力が秀でている。…たとえ兄との決闘にあわよくば勝って、兄を玩具に出来る権利を獲得できるかも…と言ったような思惑が丸わかりの、下卑た表情をしていたとしても。
ローレンス王子も、その信奉者達も兄が決闘を辞退すると踏んでいるのか、不敵な笑みを浮かべている。
だがその予想に反し、兄はローレンス王子とその信奉者達との決闘を受けた。しかも「一人一人じゃ面倒だから、まとめてかかってこい」と信奉者達に向かって言い放ったのだ。
6
お気に入りに追加
935
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる