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第一章
貴方の事が……【テオ視点】
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――第二王子ローレンスの誕生祭が、この王立学院で行われる。そしてその場で、第二王子がアスタール公爵家長子、ユキヤに決闘を申し込む。
それを聞いた直後、俺は慌ててエイトール、アドルファス、キーランに、誰かアスタール公爵家へその事を伝えに行って欲しいと頼んだ。…まさか全員で行くとは思っていなかったけど。
彼らは心配し過ぎだと言いながらも、了解してくれた。
…確かにローレンス王子は武術学問(魔術含む)全て平均値スレスレなので、よっぽどの相手でなければ彼に負ける事はないだろう。ましてや兄は、こと武術においては俺よりも強い。
…ただ、魔力について言えば、コントロールが壊滅的という最大の欠点があるのだ。
だから万が一の事を考え、あらゆる状況において対応出来るようにしていて欲しかったのだ。それに今なら、兄の御生母であるベハティ様がいる筈。(父が屋敷を不在にしている時などは、高確率で兄に会いに来ているようだから)
彼女は父や母の師匠であり、武術と魔術の達人だ。きっと色々な対策を講じてくださるだろう。
ローレンス王子はその後すぐに学生に不必要な外出を全面的に禁じた。勿論、教員や使用人達も同様だ。
だが俺がすでに実家へ使いを出していた事を知ったローレンス王子は、激高しながらこんな事を俺に言ってのけた。
「君や君の兄が何をやっても、僕には勝てないよ!なにせ僕は召喚士なんだからね!」
――召喚士!?
己のスキルを使い、魔獣、幻獣、果ては精霊すらも呼び、使役する事の出来る稀有な能力を持った者の名称。まさか、この目の前の王子がその召喚士だったとは…。
だが、それでは兄が決闘に勝つ見込みは限りなく低くなってしまう。
下位の魔物なら力技で何とかなるかもしれないが、召喚獣とは総じて強い魔力を有している。
ローレンス王子がどれ程の召喚獣を使役しているのかは不明だが、この自信であれば….恐らくはそれなりの従魔を持っているのだろう。そうでなければ軽々しく決闘を申し込もうなんて思わない筈だ。
俺はその直後軽い軟禁状態となり、外部への通信手段を全て封じられた。当然、学院に帰ってきたエイトール達も同様で、彼らは外出の罰も加わり、パーティー当日まで部屋に監禁状態となってしまったのだ。
俺はこんな事態を招いてしまった自分自身の不甲斐なさと、兄に対する申し訳なさで食事を摂る事も眠る事も出来ず、ただひたすら父や母達がなにかしらの対策を立ててくれる事だけを願い続けた。
そうして一週間後。
ローレンス王子の誕生祭がやって来たのだった。
俺は物見高い生徒や教員達と共に、兄の到着を待った。
ひょっとしたら、父母が兄を逃がしてくれるかもと期待していたのだが、それは無かったようだ。多分だが、もし父母がその提案を兄にしたとしても、兄は拒否したに違いない。
名誉だの貴族としてのプライドだのといったものはどうでもいい人だけど、他人が困っている事に対しては即座に動こうとする人だから。
ましてや大切な家族の一大事となれば、きっと負けるのも厭わずやって来るに違いない。多分、俺自身が見放して欲しいと懇願したところでそれは変わらないだろう。
兄の到着を心待ちにし、増々浮足立っている部外者が増えていく。そうこうしている間に、アスタール公爵家の家紋が彫られた一際豪華な馬車が到着し、周囲がざわめく。
だが、その喧騒は馬車から出てきた一人の青年の姿を見た瞬間、沈黙へと変わった。
『兄上….!!』
そこには、輝かんばかりに美しく装った兄の姿があった。
特注であろう漆黒の外套を着こみ、髪も整え、この日の為に磨き上げられたであろうその姿は本当に美しく。凛として立つその姿は、まるで身体から光を放っているかのように見える。
その姿を目にして思わず立ち止まってしまった俺だが、俺の姿を確認した兄は、まるで花が綻ぶように嬉しそうに笑った。
黙って立っていれば鋭利にも見える美貌を持つ兄だが、笑うと元来の人懐っこさが全開となり、見た目の印象が180度変わる。
その破壊力は非常に凄まじく、兄に慣れていても不意打ちを喰らうとダメージを受けてしまう程だ。
初めて兄を見た学生達はもとより、何度も会って親しくしている筈のエイトール達でさえ、後方で腰砕けになってしまっているのが何よりの証明だ。かくいう俺も思わず固まり、その場に立ち尽くしてしまう。
「テオ、元気…じゃなさそうだな。なんか痩せちまってるし。ちゃんと飯食ってたか?」
近距離からの兄の言葉に、ハッと我に返る。すると兄が心配そうな表情で自分を見つめていた。
俺は慌てて兄へと頭を下げ、この不祥事に対する謝罪を行う。
だが、兄は俺を責める事はなかった。逆に弟である俺の事を守らせて欲しいと言って、再度笑ってくれた。
その笑顔を見た瞬間、心の中にずっと抱いていた想いが激しく湧き上がってきてしまい、その熱に浮かされるように俺は兄の手を両手で握りしめた。
「兄上…。俺は貴方の事が…」
が、言い終わる前に兄の服から小さな黒蛇が出て来る。
驚いて思わず後方に飛びずさった俺に、なおも牙を向けて威嚇してくる黒蛇を、兄が慌てて必死に抑えてた。
「悪い!テオ!」
「あ…兄上、それは一体…?」
「え~と、これはペットで…。その…ちょっとやらかした結果というか…」
兄が歯切れ悪く、もごもごと何やら言っているが、ちょっと何をやらかせば蛇をペットにする事になるのだろうか。
そうこうしている間に、ローレンス王子が取り巻き達を引き連れ、その場に現れる。
兄がこの場に来なくてはならなくなった元凶の登場に、俺の顔は自分でも分かるくらいに険しく強張った。
それを聞いた直後、俺は慌ててエイトール、アドルファス、キーランに、誰かアスタール公爵家へその事を伝えに行って欲しいと頼んだ。…まさか全員で行くとは思っていなかったけど。
彼らは心配し過ぎだと言いながらも、了解してくれた。
…確かにローレンス王子は武術学問(魔術含む)全て平均値スレスレなので、よっぽどの相手でなければ彼に負ける事はないだろう。ましてや兄は、こと武術においては俺よりも強い。
…ただ、魔力について言えば、コントロールが壊滅的という最大の欠点があるのだ。
だから万が一の事を考え、あらゆる状況において対応出来るようにしていて欲しかったのだ。それに今なら、兄の御生母であるベハティ様がいる筈。(父が屋敷を不在にしている時などは、高確率で兄に会いに来ているようだから)
彼女は父や母の師匠であり、武術と魔術の達人だ。きっと色々な対策を講じてくださるだろう。
ローレンス王子はその後すぐに学生に不必要な外出を全面的に禁じた。勿論、教員や使用人達も同様だ。
だが俺がすでに実家へ使いを出していた事を知ったローレンス王子は、激高しながらこんな事を俺に言ってのけた。
「君や君の兄が何をやっても、僕には勝てないよ!なにせ僕は召喚士なんだからね!」
――召喚士!?
己のスキルを使い、魔獣、幻獣、果ては精霊すらも呼び、使役する事の出来る稀有な能力を持った者の名称。まさか、この目の前の王子がその召喚士だったとは…。
だが、それでは兄が決闘に勝つ見込みは限りなく低くなってしまう。
下位の魔物なら力技で何とかなるかもしれないが、召喚獣とは総じて強い魔力を有している。
ローレンス王子がどれ程の召喚獣を使役しているのかは不明だが、この自信であれば….恐らくはそれなりの従魔を持っているのだろう。そうでなければ軽々しく決闘を申し込もうなんて思わない筈だ。
俺はその直後軽い軟禁状態となり、外部への通信手段を全て封じられた。当然、学院に帰ってきたエイトール達も同様で、彼らは外出の罰も加わり、パーティー当日まで部屋に監禁状態となってしまったのだ。
俺はこんな事態を招いてしまった自分自身の不甲斐なさと、兄に対する申し訳なさで食事を摂る事も眠る事も出来ず、ただひたすら父や母達がなにかしらの対策を立ててくれる事だけを願い続けた。
そうして一週間後。
ローレンス王子の誕生祭がやって来たのだった。
俺は物見高い生徒や教員達と共に、兄の到着を待った。
ひょっとしたら、父母が兄を逃がしてくれるかもと期待していたのだが、それは無かったようだ。多分だが、もし父母がその提案を兄にしたとしても、兄は拒否したに違いない。
名誉だの貴族としてのプライドだのといったものはどうでもいい人だけど、他人が困っている事に対しては即座に動こうとする人だから。
ましてや大切な家族の一大事となれば、きっと負けるのも厭わずやって来るに違いない。多分、俺自身が見放して欲しいと懇願したところでそれは変わらないだろう。
兄の到着を心待ちにし、増々浮足立っている部外者が増えていく。そうこうしている間に、アスタール公爵家の家紋が彫られた一際豪華な馬車が到着し、周囲がざわめく。
だが、その喧騒は馬車から出てきた一人の青年の姿を見た瞬間、沈黙へと変わった。
『兄上….!!』
そこには、輝かんばかりに美しく装った兄の姿があった。
特注であろう漆黒の外套を着こみ、髪も整え、この日の為に磨き上げられたであろうその姿は本当に美しく。凛として立つその姿は、まるで身体から光を放っているかのように見える。
その姿を目にして思わず立ち止まってしまった俺だが、俺の姿を確認した兄は、まるで花が綻ぶように嬉しそうに笑った。
黙って立っていれば鋭利にも見える美貌を持つ兄だが、笑うと元来の人懐っこさが全開となり、見た目の印象が180度変わる。
その破壊力は非常に凄まじく、兄に慣れていても不意打ちを喰らうとダメージを受けてしまう程だ。
初めて兄を見た学生達はもとより、何度も会って親しくしている筈のエイトール達でさえ、後方で腰砕けになってしまっているのが何よりの証明だ。かくいう俺も思わず固まり、その場に立ち尽くしてしまう。
「テオ、元気…じゃなさそうだな。なんか痩せちまってるし。ちゃんと飯食ってたか?」
近距離からの兄の言葉に、ハッと我に返る。すると兄が心配そうな表情で自分を見つめていた。
俺は慌てて兄へと頭を下げ、この不祥事に対する謝罪を行う。
だが、兄は俺を責める事はなかった。逆に弟である俺の事を守らせて欲しいと言って、再度笑ってくれた。
その笑顔を見た瞬間、心の中にずっと抱いていた想いが激しく湧き上がってきてしまい、その熱に浮かされるように俺は兄の手を両手で握りしめた。
「兄上…。俺は貴方の事が…」
が、言い終わる前に兄の服から小さな黒蛇が出て来る。
驚いて思わず後方に飛びずさった俺に、なおも牙を向けて威嚇してくる黒蛇を、兄が慌てて必死に抑えてた。
「悪い!テオ!」
「あ…兄上、それは一体…?」
「え~と、これはペットで…。その…ちょっとやらかした結果というか…」
兄が歯切れ悪く、もごもごと何やら言っているが、ちょっと何をやらかせば蛇をペットにする事になるのだろうか。
そうこうしている間に、ローレンス王子が取り巻き達を引き連れ、その場に現れる。
兄がこの場に来なくてはならなくなった元凶の登場に、俺の顔は自分でも分かるくらいに険しく強張った。
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