黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第一章

下位悪魔の消滅

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バサリと広がる、ぬばたまの黒い羽根。

初めて見た時と同じ、優美極まる蠱惑的な美貌。そう、俺が呼びだした悪魔とは、魔界を統べる7柱の魔王の一柱、その筆頭とも言える大悪魔。別名“無価値の王”ベリアルだったのだ。

ベリアルは俺を庇う様に前に立つと、下位悪魔レッサーデーモンに向き合った。

下位悪魔レッサーデーモンはと言えば、明らかに怯えた様子。それはそうだ。下位悪魔レッサーデーモンにしてみれば、悪魔公デーモンロードなど、神にも等しい存在。それが今、突如として自分の目の前に現れたのだから。

ベリアルは冷たい眼差しを下位悪魔レッサーデーモンに向け、口角をあげた。

「貴様ごとき雑兵が。よくぞ俺のモノに傷をつけてくれたもんだ。しかもあわよくば…とばかりに、鼻の下伸ばしやがって。身の程知らずのクズが…!」

最後、吐き捨てるように呟かれた言葉に、内心で首を捻る。

何だ鼻の下伸ばすって?ってか、伸びてたか?悪魔の表情って、よく分からん。

次の瞬間、なんと下位悪魔レッサーデーモンはあまりの恐怖に恐慌状態になったのか、よりにもよってベルに襲い掛かってくる。だが、当然というかベルは全く動ぜず、人差し指を横に一閃させた。

「まずは目だ。その汚らわしいガラス玉に俺のモノを映す事を止めろ」

下位悪魔レッサーデーモンの目から黒い血液のようなものが噴き出した。

「次に…。俺のモノを貫いたその手…そして足…」

そうベリアルが口にするたび、下位悪魔レッサーデーモンの身体の一部が吹き飛び、塵と化す。そうしてジワジワと少しずつ身体を削っていく、まさに一方的な拷問とも言える攻撃に、思わず下位悪魔レッサーデーモンへの同情が沸き上がってきてしまう程だ。

「…ッ…」

流石にもう立っていられず、ガックリと地面に膝をつく。

そんな俺に気付いたベルは、目の前でもがき苦しんでいる下位悪魔レッサーデーモンに手をかざした。

「時間切れだ。本当ならもっと遊んでやるつもりだったのだがな。慈悲をくれてやる。…消えろ」

そう言い放った言葉通り、下位悪魔レッサーデーモンの身体は黒い粒子と化し、霧散して消えた。

あ…駄目だ。もう目まで霞んできた。

グラリと傾いだ身体は、いつの間にかベルの腕に抱き抱えられていた。

ベルは俺の身体を一瞥すると、貫かれた部分の服を乱暴に引き千切る。…おい、もうちょっと紳士的にできねえのかよ!

俺の不満をよそに、ベルは未だに血を流し続けている傷口に唇を近づけると、そのまま吸い付いた。

「ッ…!」

鋭い痛みに身体がビクリと跳ねる。

だがすぐにその痛みはどんどんと小さくなっていき、やがて完全に消え失せた。どうやらベルが傷口を塞いでくれたようだ。

苦痛から解放され、ホッと安堵の吐息が漏れる。

と同時に、緊張で張り詰めていた身体が弛緩した。貧血と疲労のせいか、目眩を伴う眠気が一気に襲いかかってきて目を開けていられない。

「…べ…ル…」

瞼が下りる直前、俺は無意識に彼の名を呼んでしまった。

そんな俺を、ベルは優しい手付きで床に横たわらせる。そして静かに立ち上がり、指をパチリと鳴らした。

パンと、俺達を包んでいた防御結界が霧散し、消える。

途端、遮断されていた音が一気に耳に届いた。
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