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第一章
悪魔公召喚
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パタパタと、床に赤い滴が落ちて染みをつける。
「ガハッ!」
咽込んだ俺の口から、せり上がってきた血が吐き出された。
今しがた、下位悪魔の爪によって貫かれた胸元からも赤い血が流れ落ちていく。その傷口を手で押さえながら、俺は下位悪魔を痛みに霞む目で睨み付けた。
ベルの指示とは真逆に、俺はローレンス王子を下位悪魔の方ではなく、結界の外へと放り投げた。そして下位悪魔が伸ばした爪は、そのまま俺の身体を貫いたのだった。
そうして逃げ遅れた俺は完璧に張られ終えた結界の中、下位悪魔と共に取り残されてしまった。所謂絶対絶命というやつだ。全くもって洒落にならない。
下位悪魔はローレンス王子を取り逃がし、かなり怒っているようだ。そしてその怒りは間違いなく、邪魔した自分に対し注がれていた。
その証拠に、下位悪魔は今にもこちらに向かってきそうなそぶりを何度も見せている。だが何故か、奴は最初の攻撃以降攻撃をして来ない。
その上俺が睨み付けるたび、動きを止める。おかげで今現在まで、こうして睨み合ったままという状態が続いているのだ。
幸い、傷は心臓は免れたようだが、このまま出血が続けば俺の命は間違いなくヤバい事になるだろう。
が、唯一対抗出来るだろう王宮騎士達は結界の外にいる。俺を助ける為、結界を解く事はすなわちこの国の王族や大勢の生徒達を危険に晒す事になる。
ゆえに彼らは結界を解く事は無いだろう。俺一人の命と他を天秤にかければ、俺を見捨てるのが一番被害が少なくて済むのだから。
『やれやれ。本当にお前はお人好しだな。諸悪の根源を差し出しさえすれば、奴は満足して消滅したろうに』
ベルの呆れ声が脳裏に響く。ああ、だからこいつはギリギリになるまで黙って見ていたのか。極限状態になれば、俺が王子を見捨てると思って。こんな状態なのに掠れた笑いが口から漏れた。
「はは…。本当に…お前は悪魔…だな。んな事、できる訳…ないだろ…」
確かにあの王子様は色々とやらかしているし、あの悪魔を呼び出してしまったのも王子本人だ。その罪の清算と言われれば、放り出すのも致し方なかったのかもしれない。
でも王族を見殺しにすれば、アスタール公爵家もタダでは済まない。
確実に取り潰しになるし、見殺しにした俺も罪を問われるだろう。悪くて処刑。良くて一生幽閉になるかもしれない。父達や弟も、それなりに罰が下るだろうし、一族にも迷惑がかかる。
…なんて、色々理由を並べたけど、結局の所俺は、殺されそうになっているヤツを身捨てる事が出来なかっただけだ。
勿論、俺だって死にたくなんてないけれど、身体が勝手に動いてしまったんだ。どうしようもないだろう。
『本当に、お前はお人好しなうえに愚かしいな。…だが、俺としては、お前のそういった所がたまらなく好ましい。馬鹿な子ほど可愛いとも言うしな』
「愚かだの馬鹿だの、本当に失礼な奴だな!」
ベルの言いぐさに、思わず痛みを忘れて怒鳴りつけ、また血を吐いてしまう。うう…本当、勘弁してくれ。
『ユキヤ。召喚士として俺を呼べ』
「…え?」
『今お前が流しているその血を対価に、力を貸してやろう』
そういえば仮契約をした時、対価を払えば戦ったり守ったりしてくれるって言っていたっけ。
しかし、ただでさえかなり出血して貧血状態だってのに、この上血をやったりなんかしたら俺、干からびて死ぬんじゃないだろうか。
…いや、どのみちこのままじゃ殺されてしまうし、実質選択肢なんてないけどさ。
俺は深呼吸を繰り返し、再度気合を入れ直すと下位悪魔を再び睨み付けながら口を開いた。
「…混沌と闇の世界を統べ、80の軍団を率いる者。魔界7大君主が一柱。我が名と血に応え、顕現せよ…」
詠唱と共に俺を中心に魔法陣が浮かび上がってくる。それは、ベルだけに許された紋章。
「いでよ!悪魔公ベリアル!」
その瞬間。まばゆい光と共に魔方陣からベル…いや、ベリアルが現れた。
「ガハッ!」
咽込んだ俺の口から、せり上がってきた血が吐き出された。
今しがた、下位悪魔の爪によって貫かれた胸元からも赤い血が流れ落ちていく。その傷口を手で押さえながら、俺は下位悪魔を痛みに霞む目で睨み付けた。
ベルの指示とは真逆に、俺はローレンス王子を下位悪魔の方ではなく、結界の外へと放り投げた。そして下位悪魔が伸ばした爪は、そのまま俺の身体を貫いたのだった。
そうして逃げ遅れた俺は完璧に張られ終えた結界の中、下位悪魔と共に取り残されてしまった。所謂絶対絶命というやつだ。全くもって洒落にならない。
下位悪魔はローレンス王子を取り逃がし、かなり怒っているようだ。そしてその怒りは間違いなく、邪魔した自分に対し注がれていた。
その証拠に、下位悪魔は今にもこちらに向かってきそうなそぶりを何度も見せている。だが何故か、奴は最初の攻撃以降攻撃をして来ない。
その上俺が睨み付けるたび、動きを止める。おかげで今現在まで、こうして睨み合ったままという状態が続いているのだ。
幸い、傷は心臓は免れたようだが、このまま出血が続けば俺の命は間違いなくヤバい事になるだろう。
が、唯一対抗出来るだろう王宮騎士達は結界の外にいる。俺を助ける為、結界を解く事はすなわちこの国の王族や大勢の生徒達を危険に晒す事になる。
ゆえに彼らは結界を解く事は無いだろう。俺一人の命と他を天秤にかければ、俺を見捨てるのが一番被害が少なくて済むのだから。
『やれやれ。本当にお前はお人好しだな。諸悪の根源を差し出しさえすれば、奴は満足して消滅したろうに』
ベルの呆れ声が脳裏に響く。ああ、だからこいつはギリギリになるまで黙って見ていたのか。極限状態になれば、俺が王子を見捨てると思って。こんな状態なのに掠れた笑いが口から漏れた。
「はは…。本当に…お前は悪魔…だな。んな事、できる訳…ないだろ…」
確かにあの王子様は色々とやらかしているし、あの悪魔を呼び出してしまったのも王子本人だ。その罪の清算と言われれば、放り出すのも致し方なかったのかもしれない。
でも王族を見殺しにすれば、アスタール公爵家もタダでは済まない。
確実に取り潰しになるし、見殺しにした俺も罪を問われるだろう。悪くて処刑。良くて一生幽閉になるかもしれない。父達や弟も、それなりに罰が下るだろうし、一族にも迷惑がかかる。
…なんて、色々理由を並べたけど、結局の所俺は、殺されそうになっているヤツを身捨てる事が出来なかっただけだ。
勿論、俺だって死にたくなんてないけれど、身体が勝手に動いてしまったんだ。どうしようもないだろう。
『本当に、お前はお人好しなうえに愚かしいな。…だが、俺としては、お前のそういった所がたまらなく好ましい。馬鹿な子ほど可愛いとも言うしな』
「愚かだの馬鹿だの、本当に失礼な奴だな!」
ベルの言いぐさに、思わず痛みを忘れて怒鳴りつけ、また血を吐いてしまう。うう…本当、勘弁してくれ。
『ユキヤ。召喚士として俺を呼べ』
「…え?」
『今お前が流しているその血を対価に、力を貸してやろう』
そういえば仮契約をした時、対価を払えば戦ったり守ったりしてくれるって言っていたっけ。
しかし、ただでさえかなり出血して貧血状態だってのに、この上血をやったりなんかしたら俺、干からびて死ぬんじゃないだろうか。
…いや、どのみちこのままじゃ殺されてしまうし、実質選択肢なんてないけどさ。
俺は深呼吸を繰り返し、再度気合を入れ直すと下位悪魔を再び睨み付けながら口を開いた。
「…混沌と闇の世界を統べ、80の軍団を率いる者。魔界7大君主が一柱。我が名と血に応え、顕現せよ…」
詠唱と共に俺を中心に魔法陣が浮かび上がってくる。それは、ベルだけに許された紋章。
「いでよ!悪魔公ベリアル!」
その瞬間。まばゆい光と共に魔方陣からベル…いや、ベリアルが現れた。
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