30 / 194
第一章
召喚獣
しおりを挟む
まず一人が爆炎系の魔法を撃ち、それにもう一人が水系の魔法を同時に撃った。それによって大量の水蒸気を巻き起こし、周囲の状況を見えにくくしてしまう。
そしてサーチ系のスキルを持つ者だろう。煙幕の中、的確に俺に向かって襲い掛かってくる。
俺は両足に仕込んだショートソードを抜き取ると、切りかかって来た相手の剣を弾いて叩き割る。
『…空を渡りし自由の使者よ。我が身にその力を宿らせたまえ』
風魔法の呪文を唱え、地面を蹴って空中に躍り出る。
――右3時の方向に二人、正面に一人、後方に二人…。
目隠しに邪魔されず、瞬時に敵の位置を確認する。そして着地するや、先手必勝とばかりに次々と対戦相手を倒していった。
「おお…!何と!」
「これは…!」
霧が晴れた時、その場に立っていたのは俺だけだった。俺に挑んできた者達は全て地に伏せているか、尻餅をつき震えているかだ。
「で?次は誰が来るんだ?」
半数ほど残った親衛隊の連中を睨み付けてやると、皆青褪め、怯えた様子で後ずさる。どうやら戦意喪失したらしい。
――実は俺自身、この時点ですでに息が上がってしまっていた。
いくらこの一週間、集中的に特訓を受けたとは言っても俺は武術の達人ではないし、実践経験もない素人だ。これだけの人数を一度に相手するのは流石にバテる。
だが相手の思惑通り、本命に行き着くまでにスタミナ切れになってしまったら洒落にならない。だから少々やり過ぎかと思う程度に叩き潰させてもらったのだ。
案の定、勝手にビビって戦意喪失してくれた。ふう…やれやれ。やはり攻撃は最大の防御だな。魔力も温存出来たし、後は王子様の従魔が対処可能なレベルであることを願うだけだ。間違っても幻獣クラスがいませんように。
「ええい!この役立たず共が!!もうよい、下がれ!この者には私直々に制裁を下す!」
「制裁?決闘の間違いだろ?」
「どちらも同じ事だ!いいか!このようなザコ共を打ち倒したからと言っていい気になるなよ!?目に物見せてくれる!」
そう言い放った次の瞬間、ローレンス王子の濃い翡翠色の瞳が鮮やかな黄緑色に光った。
『氷の吐息。氷雪を纏いし雪原の白き獣。我が名と命に従い顕現せよ!アイシングウルフ!』
詠唱が終わると同時にローレンス王子の足元が発光し、真っ白な毛並みの狼が飛び出して来た。
そして更に、王子の召喚は続く。
『大いなる大地。その谷間より生まれ出でたる者。我が名と命に従い顕現せよ!ロックベアー!』
同じく、王子の足元から真っ黒な熊が現れる。どちらも牡牛並みのデカさだ。
――良かった。幻獣ではなく、魔獣だった。
いや、別に良くないけど。
幻獣じゃないとはいえ、あの二体の魔物、ベハティ母さんから映像付きで見せてもらった上位魔獣の中にいたし。ランク的にはBランクに相当する危険な連中だ。それを二体も同時に出すかよ!
「さあ行け、お前達!」
ローレンス王子の命令と共に、二匹の従魔が同時に俺へと襲い掛かってくる。
おい、これって勝つ気というより、殺る気満々じゃね?ちゃんと寸止めする気って、あるのかな。
『防御結界発動!』
手をかざし、防御の魔法陣を発動させる。
アイシングウルフの牙と、ロックベアーの爪が魔法陣に阻まれ、二匹が後方に飛びずさる。その隙に、まずはアイシングウルフへと攻撃照準を合わせた。
こいつの属性は『氷』
牙や爪の攻撃を喰らうと、そこが凍結してしまう上、動きも狼だけあって俊敏だ。先に倒しておいた方がいいな。
『紅の炎よ。全てを焼き尽くす業火の矢となりて敵を貫け!“紅蓮の矢”』
詠唱を唱えた直後、指の先に一点集中し、放った炎爆魔法が炎の矢となって再び襲い掛かってきたアイシングウルフの眉間を貫いた。
アイシングウルフの全身にヒビが入り、まるで氷が割れるように粉々に砕け散る。
すると、周囲からどよめきと黄色い歓声が上がった。(その黄色の中に、野太い声が多数混じっていたような気がするが…)
さて次だが…。確かこの熊、名前の通り毛皮が滅茶苦茶固いんだよな。
その重さからアイシングウルフのような機動力はないんだけど、とにかく攻撃が半端なく重い。普通の熊に遭遇して攻撃されても大ケガなのに、それに完全武装した鉄の鎧並みの毛皮をまとってるんだから、まともに攻撃を喰らったりしたらひとたまりもない…と、母さんが言っていた。当然、普通の剣ではかすり傷一つ負わせられないとの事だ。
ちなみに母は、以前こいつと遭遇した時、素手でブチのめしたと言っていたが…。俺も修行を続けていれば、いつか岩を素手で砕けるようになるのだろうか。
俺が今手にしている剣は、ウェズレイ父さんが先祖代々受け継いでいる宝具の一つで、魔鉱石…前世で言えばレアメタルの一種を使って造り上げた剣なのだ。なので、ひょっとしたらあいつを切る事が出来るかもしれない。でも俺の力量では切れたとしても毛皮だけで、本体までは切れない可能性が高い。
そうなるとやはり、さっきのアイシングウルフ同様、魔法で何とかすればいいのだが…。氷に対して炎ってのはすぐ分かったけど、岩系にはどの攻撃がいいんだったっけ?
そしてサーチ系のスキルを持つ者だろう。煙幕の中、的確に俺に向かって襲い掛かってくる。
俺は両足に仕込んだショートソードを抜き取ると、切りかかって来た相手の剣を弾いて叩き割る。
『…空を渡りし自由の使者よ。我が身にその力を宿らせたまえ』
風魔法の呪文を唱え、地面を蹴って空中に躍り出る。
――右3時の方向に二人、正面に一人、後方に二人…。
目隠しに邪魔されず、瞬時に敵の位置を確認する。そして着地するや、先手必勝とばかりに次々と対戦相手を倒していった。
「おお…!何と!」
「これは…!」
霧が晴れた時、その場に立っていたのは俺だけだった。俺に挑んできた者達は全て地に伏せているか、尻餅をつき震えているかだ。
「で?次は誰が来るんだ?」
半数ほど残った親衛隊の連中を睨み付けてやると、皆青褪め、怯えた様子で後ずさる。どうやら戦意喪失したらしい。
――実は俺自身、この時点ですでに息が上がってしまっていた。
いくらこの一週間、集中的に特訓を受けたとは言っても俺は武術の達人ではないし、実践経験もない素人だ。これだけの人数を一度に相手するのは流石にバテる。
だが相手の思惑通り、本命に行き着くまでにスタミナ切れになってしまったら洒落にならない。だから少々やり過ぎかと思う程度に叩き潰させてもらったのだ。
案の定、勝手にビビって戦意喪失してくれた。ふう…やれやれ。やはり攻撃は最大の防御だな。魔力も温存出来たし、後は王子様の従魔が対処可能なレベルであることを願うだけだ。間違っても幻獣クラスがいませんように。
「ええい!この役立たず共が!!もうよい、下がれ!この者には私直々に制裁を下す!」
「制裁?決闘の間違いだろ?」
「どちらも同じ事だ!いいか!このようなザコ共を打ち倒したからと言っていい気になるなよ!?目に物見せてくれる!」
そう言い放った次の瞬間、ローレンス王子の濃い翡翠色の瞳が鮮やかな黄緑色に光った。
『氷の吐息。氷雪を纏いし雪原の白き獣。我が名と命に従い顕現せよ!アイシングウルフ!』
詠唱が終わると同時にローレンス王子の足元が発光し、真っ白な毛並みの狼が飛び出して来た。
そして更に、王子の召喚は続く。
『大いなる大地。その谷間より生まれ出でたる者。我が名と命に従い顕現せよ!ロックベアー!』
同じく、王子の足元から真っ黒な熊が現れる。どちらも牡牛並みのデカさだ。
――良かった。幻獣ではなく、魔獣だった。
いや、別に良くないけど。
幻獣じゃないとはいえ、あの二体の魔物、ベハティ母さんから映像付きで見せてもらった上位魔獣の中にいたし。ランク的にはBランクに相当する危険な連中だ。それを二体も同時に出すかよ!
「さあ行け、お前達!」
ローレンス王子の命令と共に、二匹の従魔が同時に俺へと襲い掛かってくる。
おい、これって勝つ気というより、殺る気満々じゃね?ちゃんと寸止めする気って、あるのかな。
『防御結界発動!』
手をかざし、防御の魔法陣を発動させる。
アイシングウルフの牙と、ロックベアーの爪が魔法陣に阻まれ、二匹が後方に飛びずさる。その隙に、まずはアイシングウルフへと攻撃照準を合わせた。
こいつの属性は『氷』
牙や爪の攻撃を喰らうと、そこが凍結してしまう上、動きも狼だけあって俊敏だ。先に倒しておいた方がいいな。
『紅の炎よ。全てを焼き尽くす業火の矢となりて敵を貫け!“紅蓮の矢”』
詠唱を唱えた直後、指の先に一点集中し、放った炎爆魔法が炎の矢となって再び襲い掛かってきたアイシングウルフの眉間を貫いた。
アイシングウルフの全身にヒビが入り、まるで氷が割れるように粉々に砕け散る。
すると、周囲からどよめきと黄色い歓声が上がった。(その黄色の中に、野太い声が多数混じっていたような気がするが…)
さて次だが…。確かこの熊、名前の通り毛皮が滅茶苦茶固いんだよな。
その重さからアイシングウルフのような機動力はないんだけど、とにかく攻撃が半端なく重い。普通の熊に遭遇して攻撃されても大ケガなのに、それに完全武装した鉄の鎧並みの毛皮をまとってるんだから、まともに攻撃を喰らったりしたらひとたまりもない…と、母さんが言っていた。当然、普通の剣ではかすり傷一つ負わせられないとの事だ。
ちなみに母は、以前こいつと遭遇した時、素手でブチのめしたと言っていたが…。俺も修行を続けていれば、いつか岩を素手で砕けるようになるのだろうか。
俺が今手にしている剣は、ウェズレイ父さんが先祖代々受け継いでいる宝具の一つで、魔鉱石…前世で言えばレアメタルの一種を使って造り上げた剣なのだ。なので、ひょっとしたらあいつを切る事が出来るかもしれない。でも俺の力量では切れたとしても毛皮だけで、本体までは切れない可能性が高い。
そうなるとやはり、さっきのアイシングウルフ同様、魔法で何とかすればいいのだが…。氷に対して炎ってのはすぐ分かったけど、岩系にはどの攻撃がいいんだったっけ?
5
お気に入りに追加
935
あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風料理BLファンタジー。ここに開幕!
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる