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第一章

いざ、出発!

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「うん、よく似あっているぞ。ユキヤ」

「うむ、我が息子ながら惚れ惚れするな!」

「本当に……。在りし日のセオドアを見ているようだ。大変に誇らしい!」

「へへ……。父さん、母さん、父上、みんな有難う!」

ローレンス王子の誕生日当日。

俺は誕生パーティーと決闘が待ち受けている王立学院に出席する為、両親と義父が連名で作ってくれた礼服(という名の戦闘服)を身に着け、そのお披露目をしていた。

礼服(戦闘服)は、一見すると黒シルクで作った……そうだな。俺の元いた世界で言えば、社交ダンスで男性が着るような、燕尾服に近い作りとなっている。

ま、燕尾服はものの例えで、ちゃんと貴族が舞踏会に赴く時に着るようなパーティー用の服だけど、俺が来ている服は、普通の貴族が着てくる様なビラビラキラキラした華美な装飾を一切排除し、動き易さに特化した作りとなっている。

燕尾服と言ったのは、上着の裾が長いマントタイプだからだ。これは戦闘の時に相手に自分の動きの流れを見切らせない為と、隠し武器の携帯を安易にする為。だけど武骨にはなり過ぎず、袖や襟と言った場所に銀糸で刺繍を施し、胸元にはクラパッドにエメラルドで模ったアスタール公爵家の紋章を止め具として使っている。

全身の映る鏡の前で確認したが、自分で言うのもなんだけど、かなりさまになっていて、そんな場合ではないのだけれど、無駄にテンションが上がってしまう。

「残念だが、私達はパーティーに参加する事が出来ない。ユキヤ。どうかくれぐれも気を付けて」

そんな浮かれ気分が、不安そうな父さんの様子を見て少しだけ沈下する。

そう、今回の誕生パーティーはローレンス王子の意向で、学生や学院内の関係者、王家の者達、そして俺のように名指しで指名された部外者以外の参加が原則禁止となっているのだ。

これってあからさまに、いざって時の邪魔が入らないようにされたんだよな……。全く、職権濫用も甚だしい。この国の王家、本当に大丈夫か?

「セオドア、そう心配するな。この一週間、ユキヤは私が驚く程に強くなった。魔力のコントロールもほぼ完璧だし、余程の相手でなければ余裕で勝てるさ」

母、ベハティの言葉に、ウェズレイ義父さんも頷く。

「全くだな。ユキヤは魔力は強かったが、コントロールが壊滅的だったからな。それがよくぞこの短期間でここまで成長したものだ。……それにしても……」

そこでウェズレイ義父さんがはぁ……と溜息をついた。

「全く……。こんな事になるのなら、さっさとテオに挑ませておけば……」

ん?ウェズレイ父さん?何をテオに挑ませると?首を傾げる俺と同時に、セオドア父さんがピクリと眉を引き上げた。

「……ウェズレイ?それはどういった意味だ?…まさかお前……」

「え?あ、いや!何でもない!って、セオドア、やめてくれその目!誤解だ誤解!」

「ほぉ……そうか、誤解か。それではその誤解とやらを詳しく聞かせてもらおうか?」

父さん。笑顔なんだけど確かに目が恐い。あ、ウェズレイ義父さんが壁際にジリジリ追い詰められている。

「お坊ちゃま、そろそろ馬車に乗らないと」

両親の修羅場(?)に思わず見入ってしまっていた俺に、タイミング良くジョナサンが声をかける。確かに時計を見ると、そろそろ出発しないとヤバイ時間だ。

「それじゃあ、行って来まーす!」

外套を引っ掴み慌てて部屋を飛び出すと、後ろの方で小さく「貴様ー!そんなアホな事計画していたのかー!!」と、父さんの怒鳴り声が小さく聞こえて来た。計画ってなんの事だろう?気になる。帰ったらセオ父さんに詳しく聞こう。

そうして屋敷の使用人達に見送られながら、正面玄関に控えていた馬車に飛び乗る。するといつの間に来たのか。母さんが馬車の横に立っていた。

「ユキヤ。万が一という事があるからな。これを身に着けておけ」

そうして渡されたのは、銀色に光るシンプルなブレスレット。

「それを身に着けていれば、私と魔力回路が繋がる。どうしようもなくなったら、そのブレスレットに願え。すぐに駆け付けるから」

「でも……。そんな事したら、アスタール公爵家が……」

負ければ、俺は王子の召使的立場に追いやられる。俺の存在は、あのバカ王子には目の上のたんこぶだろうから、恐らくアスタール公爵家にも父さんの実家にも二度と帰れなくされて、王宮で飼い殺しの可能性が高い。

だがそれは決闘における勝ち負けの結果なのだ。その事でアスタール公爵家の不名誉になる事はない。問題は自分が負けそうになった俺が、結果を受け入れたく無いから戦いを放棄して逃げ出す事だ。
これは不名誉なんてものではなく、下手すればアスタール公爵家の存続に関わる重要な事態になってしまう可能性があるのだ。

「私は基本、アスタール公爵家とは関係ない立場だ。そしてお前は私の大切な息子。いざとなればアスタール公爵家から廃嫡させてでも逃がしてやるさ。ちなみにセオドアとウェズレイにも、その事は通達済だ。お前の弟のテオノアも、お前が王子の奴隷になるぐらいなら……と、諸手を挙げて賛成してくれる筈だ」

動揺する俺に、気にしなくてもいいと笑ってそう言う母。

軽く言っているが、俺がその道を選べば、例え俺が廃嫡されたとしてもアスタール公爵家がお咎めなし……という訳にはいかないだろう。確実に何らかの迷惑が掛かってしまう。あの王家の事だ、親戚筋とはいえ、どんな無理を強いてくるか分かったもんじゃない。

「……うん。有難う母さん。でも俺、そうならないように全力で頑張るよ!」

俺は決意を新たにする。

きっと俺はどんなに切羽詰まった状況に陥ったとしても、この腕輪を使う事はない。俺を想う家族の気持ちだけ、有難く受け取っておく事にしよう。

「ああ、勿論そうするといい。ソレはあくまで最終手段だからな」

そう言って笑う母は、多分俺がそう考えている事を知っている筈だ。不安だろうに、それでも笑って見送ってくれる。その気持ちが俺に勇気と気力を与えてくれる。

母に見送られ、馬車は王立学院に向けて出発した。
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