黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
9 / 194
第一章

魅了のスキル

しおりを挟む
「しかしアレだな。あの子…ユキヤは特殊だ。いや、異質だと言ってもいい」

「それは…。ユキヤの魂の核がこの世界のものではない...からですか?」

眉を寄せたセオドアの言葉に、ベハティが頷く。

「ああ。界を渡った魂は、特殊な力を得るものが多い。はるか昔に召喚された異世界人。私の仲間だった召喚勇者もそうだったからな」

自分がセオドアの子を宿した直後、この世界とは明らかに異なる『何か』がこの身に宿るのを感じた。慌ててその力に問い掛けてみれば、『何か』は自分の名らしきものを呟き、消滅したのだ。

いや、融合したと言うべきか…我が子の中に。

「多分だが、『彼』は何らかの原因で命を落としたのだろう。そして命を散らす瞬間に『何らかの因子』が働いて、彼は自分のいた世界からこちらに弾かれ…いや、導かれ来てしまった…」

だから、自分の息子が異質なのは当然なのだ。
自分はその事を誰にも言わずに子を産み、『ユキヤ』と名付けた。

『彼』が呟いた、おそらくは彼の真名を。

「ユキヤが幼い頃おかしくなった時、貴女にそれを聞かされ、信じられない思いでした。正直、今も信じきれないのですが…」

「ま、私にしたって憶測の域を出てないからね。ただ、そう考えたら全てに合点がいくってだけさ」

「確かに…そうですが」

苦渋の表情を浮かべたセオドアに、ベハティは苦笑を浮かべる。確かに我が子の魂が異世界人のものだなどと、親としては信じたくないだろう。

だが、生まれついての貴族なのに、妙に庶民くさく大人びた考え方と行動。お抱え鍛冶師のドワーフと摩訶不思議な発明品を作り上げ、それを使って教えてもいない料理を次々と作りあげるその知識。どう考えても普通ではない。

ハッキリ言って、あの年齢の子供としても貴族としても、ユキヤは規格外だ。
だからセオドアも、なんだかんだ言って彼女の憶測を信じているのだろう。


「でも一番問題なのは、あの子自身に自覚が無いってことだね」

「…そうですね。最初は私譲りの容姿のせいで苦労させてると思っていましたが…。まさかあのとんでもないスキルのせいだったとは」

いや、半分はお前譲りの美貌のせいだろ…と、ベハティは心の中で呟いた。

そう。ユキヤはセオドアを上回る程、誰彼構わずといった感じで無自覚に相手をタラシこみ、自分に夢中にさせてしまうのだ。

たとえそれが、同性にまるで興味の無い男や異性に興味のない女であってもだ。ここら辺が父親とは決定的に違う所である。

しかも、タラシこむ相手は人間に限らない。たとえば、どんなに気性の洗い馬や警戒心の強い小動物であっても、ユキヤにかかればあっさり手なづけられてしまうのだ。

ユキヤに仕えさせる召し使いも例に漏れずで、どんなに厳選しても結果は同じ。

メイドも以下同文で、同性にしか興味の無い女を雇っても、いつの間にかユキヤに惹かれていってしまう。

ユキヤは単純に、自分の見た目で女性から敬遠されていると思っている。だがそうではなく、セオドアとウェズレイが殊更厳しくユキヤの傍に近付けないようにしているだけなのだ。それとユキヤ狙いの従兄弟連中が揃ってガードしているのも大きい。

この事実を知れば、ユキヤは「えー!なんて勿体無いことしてくれんだよ!」と怒るだろうが、相手を落とそうとする女性のえげつなさは男の比ではない。しかも女は妊娠という最終奥義がある。実際、幼いユキヤとそういう事をしようとしたメイドは一人や二人どころではないのだ。

このように、相手を自分に夢中にさせてしまう能力は『魅了』と呼ばれている。魔法とは異なる、呪縛系スキルの一つだ。

他者を自分の『魅了』で縛りつけ、意のままに使役させる力。それは主に、魔族と呼ばれる少数種族が多く有するスキルだ。

それゆえこの力は人族には滅多に顕れる事がなく、故にその力を強く持つ者は王宮お抱えの召喚師になる場合が殆どだ。

なにせ、人だけでなく強大な力を持つ魔獣などを使役させる事が出来れば、その国の軍事力が飛躍的に上がる。それだけでなく、他国への牽制や政治的駆け引きにも利用できるからだ。

「ユキヤの貞操も守らなきゃだけど、お偉方にユキヤの力を知られ、利用される事も防がないといけないね」

「それでは、やはり…」

「ああ。手遅れになる前に、護り手となりうるモノを召喚させる」

真剣な顔で告げられた言葉に、セオドアはほんの少しの逡巡の後、頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

処理中です...