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第一章
賄賂はお菓子
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「では、父上。行ってらっしゃいませ」
「うむ。ユキヤ、お前もセオドアの言う事を良く聞き、いい子にしているのだぞ」
「はい。あ、テオ。ほいこれ!学院に戻ったら食べろよ。お前の好物、沢山作ったから!」
王立学園は王宮のすぐ近くだという事で、休日を利用して帰宅していたテオも義父の馬車に乗っている。その弟に、俺は小さい頃からよく作ってやっているお菓子が詰まったバスケットを手渡す。
「……有難う御座います」
最近、そっけない態度を取りがちな弟だが、今日は珍しく素直に目元を綻ばした。
「ユキヤ、私には?」
「あ、これはテオにだけ作りました。父上はいつでも食べられるから、今回は作ってません」
「そ、そんな……!」
ウェズレイは期待に満ち溢れた眼差しを愛息子に向けたが、アッサリと否定されショックを受ける。
「だからって、自分の息子からお菓子をせびらないで下さいよ?」
この世の終わりみたいに絶望している義父に対し、俺は更に釘を刺す。すると何となく顔が引きつった。やはり狙っていたか。
「わ、分かってる!仮にも公爵家の家長が、息子から菓子を奪う訳なかろうが!」
咳ばらいをし、威厳を前面に出そうとしているが、以前作って寝かせておいたバターケーキをコッソリ食べられてから、俺は菓子に関しては義父を信じていない。弟も同様らしく、何やらジト目で父親を見ていた。
この髪型以外(義父長髪で弟短髪)見た目そっくりな親子は、互いに見た目を裏切りかなりの甘党だ。
しかし二人とも「俺が作るお菓子が一番口に合う」と言って既製品は殆ど食べず、俺が作る菓子を喜んで食べてくれる。
まあ、その理由は何となく分かる。
この世界の貴族の食べるお菓子は、とにかく甘い。クッキーもケーキも、口に入れた瞬間、ジャリッと砂糖を噛み締めた様な音が聞こえる程に甘い。
砂糖は贅沢品ゆえ、それをふんだんに使用する事で貴族としてのスティタスが上がるらしく、高級菓子になればなるほど甘い。ハッキリ言って頭痛がするレベルだ。
俺は甘い物がそれなりに好きだが、歯が溶けそうな菓子を好んで喰う趣味は無い。というか、素材の味もへったくれもない物なんぞ、元日本人として絶対に認められない。
なので仕方なく、自分で食べるお菓子を自分で作っていたら、いつの間にか家族が喜んでそれらを食べるようになったのだ。たまに遊びに来る従弟連中に振舞う事もあるが、軒並み好評である。なんならお土産までせびられる。
ひょっとして貴族連中……。上流階級の面子とプライドで無理矢理食っているだけで、本当の所は皆、砂糖の味しかしない激甘菓子に辟易しているのかもしれないな。
「じゃあな、テオ!また来週の土曜日に!」
ニッコリ笑顔で手を振ると、ほんの少しだけ頬を染めた弟がコックリ頷いてくれる。よしよし、お菓子効果は偉大だ。
豪華な装飾を施された馬車が、王宮に向けて出発する。
それを実父であるセオドアと見送り、完全に馬車が視界から消えるのを確認した後、俺達は屋敷の敷地内に広がる大きな林の中へと歩いていった。
この林を抜けた先にある、実父所有の離れ。
そこに、俺の秘密の『師匠』が待っているのだ。
「うむ。ユキヤ、お前もセオドアの言う事を良く聞き、いい子にしているのだぞ」
「はい。あ、テオ。ほいこれ!学院に戻ったら食べろよ。お前の好物、沢山作ったから!」
王立学園は王宮のすぐ近くだという事で、休日を利用して帰宅していたテオも義父の馬車に乗っている。その弟に、俺は小さい頃からよく作ってやっているお菓子が詰まったバスケットを手渡す。
「……有難う御座います」
最近、そっけない態度を取りがちな弟だが、今日は珍しく素直に目元を綻ばした。
「ユキヤ、私には?」
「あ、これはテオにだけ作りました。父上はいつでも食べられるから、今回は作ってません」
「そ、そんな……!」
ウェズレイは期待に満ち溢れた眼差しを愛息子に向けたが、アッサリと否定されショックを受ける。
「だからって、自分の息子からお菓子をせびらないで下さいよ?」
この世の終わりみたいに絶望している義父に対し、俺は更に釘を刺す。すると何となく顔が引きつった。やはり狙っていたか。
「わ、分かってる!仮にも公爵家の家長が、息子から菓子を奪う訳なかろうが!」
咳ばらいをし、威厳を前面に出そうとしているが、以前作って寝かせておいたバターケーキをコッソリ食べられてから、俺は菓子に関しては義父を信じていない。弟も同様らしく、何やらジト目で父親を見ていた。
この髪型以外(義父長髪で弟短髪)見た目そっくりな親子は、互いに見た目を裏切りかなりの甘党だ。
しかし二人とも「俺が作るお菓子が一番口に合う」と言って既製品は殆ど食べず、俺が作る菓子を喜んで食べてくれる。
まあ、その理由は何となく分かる。
この世界の貴族の食べるお菓子は、とにかく甘い。クッキーもケーキも、口に入れた瞬間、ジャリッと砂糖を噛み締めた様な音が聞こえる程に甘い。
砂糖は贅沢品ゆえ、それをふんだんに使用する事で貴族としてのスティタスが上がるらしく、高級菓子になればなるほど甘い。ハッキリ言って頭痛がするレベルだ。
俺は甘い物がそれなりに好きだが、歯が溶けそうな菓子を好んで喰う趣味は無い。というか、素材の味もへったくれもない物なんぞ、元日本人として絶対に認められない。
なので仕方なく、自分で食べるお菓子を自分で作っていたら、いつの間にか家族が喜んでそれらを食べるようになったのだ。たまに遊びに来る従弟連中に振舞う事もあるが、軒並み好評である。なんならお土産までせびられる。
ひょっとして貴族連中……。上流階級の面子とプライドで無理矢理食っているだけで、本当の所は皆、砂糖の味しかしない激甘菓子に辟易しているのかもしれないな。
「じゃあな、テオ!また来週の土曜日に!」
ニッコリ笑顔で手を振ると、ほんの少しだけ頬を染めた弟がコックリ頷いてくれる。よしよし、お菓子効果は偉大だ。
豪華な装飾を施された馬車が、王宮に向けて出発する。
それを実父であるセオドアと見送り、完全に馬車が視界から消えるのを確認した後、俺達は屋敷の敷地内に広がる大きな林の中へと歩いていった。
この林を抜けた先にある、実父所有の離れ。
そこに、俺の秘密の『師匠』が待っているのだ。
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