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第一幕 終焉の物語と殉教者たち
一:③
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まだまだ発売日は先だが、それぞれが区切りをつけたのだ。受け持った人によっては、前後編や三部作となってしまったり、連載となったしまったりとバラバラだが、それでも最初の一冊目は、同時発売予定である。打ち上げ会場となったのは、大阪に住んでいる夫婦で漫画家をしている初老の男の家で、友香の所属する雑誌でも古参の猛者だ。地方放送局とはいえ、時代物がドラマ化したこともあり、そちらから流れてきたファンも多い。・・・・・・と、言っても、彼が現在担当したのは学園モノで甘酸っぱい話である。余談だが、彼の妻は、青年紙で現代物を描いていて、内容も硬派だ。二人は互いに修羅場になると、互いが手伝えるから、締め切り前には原稿が出来上がっていることが多くて、編集者の中では有名だ。時折、修羅場で悲鳴を上げている、同業者のスケットに行くこともあるから、彼ら夫婦と親しい者達から、神のように崇められている。
「・・・・・・あー、成人前の奴はジュースな? それともノンアルコールにしとくか? 最初の乾杯」
片手に料理を盛った皿を二枚、器用に腕に乗せて、暖簾を巡って部屋に入ってきた、その男はそれぞれ座った席で、同業者ならではの話題で盛り上がる面々を見渡しながら希望を聞く。
「陸郎先輩、一応それらしく、ノンアルでいいんじゃないっスか?」
提案されて他の面々を見渡すと、未成年である男女二名、飯島聡と瑞浪穂乃花とアルコールが不得手の友香と遥が手を挙げた。他の面々、古屋陸郎、梓夫婦と田中椿姫はいける口だ。今回の打ち上げに同行したアシスタントを努めた面々の殆どは、人数が人数だからと近所の居酒屋へ繰り出している。十分とはいえないが、軍資金を手渡しているので、その範囲内で飲み食いしてくるはずだ。古屋の家の近所のウィクリーマンションを宿泊場所として押さえたから、ある程度満足すれば、戻ってくるだろう。明日の朝には、それぞれの拠点に戻るから、それまでは自己責任で自由にさせるつもりだ。ジュースとビールの入ったコップで何度目かの乾杯を終えた後、聡は思い出したように顔を上げた。
「そういえばさ、今日ナイ・シーのファンクラブの面々が、オフ会しているんだって聞いたっスけど、柊センセは、知ってるっスか?」
話を振られて友香は、己の従兄弟で現在小学五年の柊総太が熱烈なファンである友人の三瀬荘司に背を押され立ち上げたサークルを思い出した。最初は少人数だったが、ネットを経由して随分人数が増えたと、胸を張っていたのが脳裏に浮かぶ。
「うん。・・・・・・今日、あたしたちが打ち上げするって聞いて、俺たちもだって。今週の日曜日には、オンリーイベントがあるって言ってたかな?」
「うわぁ・・・・・・オンリーイベントかぁ・・・・・・」
友香と聡の会話を聞いていた、穂乃花は身を乗り出すようにして追加情報を口にする。
「うちの出版社って、大手じゃないぶん、宣伝になるからって、許可さえ貰えば二次創作比較的寛容じゃん? だから、こういうイベントをコアなファンが集まって企画しているんだって。柊先生の所は、ナイ・シーの他にも色々しているみたいだし? 私のトコの作品も、イベント企画して開催しているって聞いたよ! ・・・・・・ま、予想外のキャラたちが、カップリングとして盛り上がっててさ、ファンレターでその手の話を振られると、どう返答していいか困るんだけどさ」
二人の会話を聞いていた、椿姫は楽しげに手を叩きながら、「私よりマシでしょ」と、胸を張る。
「あー・・・・・・。椿姫センセの場合、男性向けの二次創作が多いっスよねぇ。たしか、アシの水山さんと星川さん、出してたじゃないっスか? 冗談で」
聡に問われて、頷きながら人差し指を立てた。
「読み切りを一回だけ出すつもりが、反響が良くて、今回で七冊目」
「うわぁ・・・・・・・」
「おかげで、そのキャラが出てきたときに、つい意識しちゃうのがまずいよねぇ・・・・・・。修羅場ってる時に、ぽそりと話題を振られるとさ・・・・・・こう・・・・・・こう! 緊張感が抜けて、シリアスな場面が、そう見えなくなってさ、泣けるシーンなのに、腹筋鍛える感じで!」
「裏ではこんなこと、考えているでしょって、アシが合いの手を入れたりとか?」
「そうそう!」
友香と遥は彼らの話題を、興味津々で静聴する。友香は完全デジタル作業な為に、アナログ作業が必要無いからだ。しかも作業が早いため、同時進行で作業を先に進めているから、原稿のストックもある。
「あ、そういえば、柊先生の所のナイ・シー関連、カップリング、NGって、公表しているんでしょ、公式ホームページで」
友香は肯定するように一つ頷くと「だって」と、声を上げた。
「そもそもがさ、遥の見た“夢”のオマージュが、私の描く“ナイト・シーカー”シリーズで、遥が頷いた虚実以外の“事実”から、かけ離れたものにしたくなかったのよ」
現在漫画化に着手している面々は、友香の言い分を受けて、驚いた表情のまま、隣で総菜に手を伸ばしている遥へと視線を向ける。遥は皆の視線が集中したのを受けて、軽く肩を竦めて見せた。
「わたしは、気にしないけど?」
「私が気にするの! 世界観やその他、大事なことは壊したくないから、編集者や担当の人が、今回の企画を持ってきたときに、世界観を大事にしてくれる人たちにとお願いしたんだから」
友香の言葉に、今回の企画に参加した人たちは「へぇ・・・・・・」と、何処か嬉しそうに、照れ笑いを見せながら、互いに視線を交わす。
「じゃあ、西荻さんが、真の原作者になるんだ」
面白そうに、梓が片手にビールの注がれたコップを手にしたまま、問いかけてくるから、遥は唐揚げを咀嚼しながら、視線を中空にさまよわせた。
「・・・・・・原作というより、原案に近いんじゃないかな? 夢で見た内容を一通り友香に話した後で、友香が取ったメモを参考に、話を描いているから、原作者は友香になるんじゃない?」
「・・・・・・起承転結をつけて通しで話を書き起こしたのは、柊先生だからねぇ・・・・・・」
「そう! だけど、友香が大事にしてくれるのは、とても嬉しいかな?」
遥の返しに、今度は友香が照れた。
「・・・・・・あー、成人前の奴はジュースな? それともノンアルコールにしとくか? 最初の乾杯」
片手に料理を盛った皿を二枚、器用に腕に乗せて、暖簾を巡って部屋に入ってきた、その男はそれぞれ座った席で、同業者ならではの話題で盛り上がる面々を見渡しながら希望を聞く。
「陸郎先輩、一応それらしく、ノンアルでいいんじゃないっスか?」
提案されて他の面々を見渡すと、未成年である男女二名、飯島聡と瑞浪穂乃花とアルコールが不得手の友香と遥が手を挙げた。他の面々、古屋陸郎、梓夫婦と田中椿姫はいける口だ。今回の打ち上げに同行したアシスタントを努めた面々の殆どは、人数が人数だからと近所の居酒屋へ繰り出している。十分とはいえないが、軍資金を手渡しているので、その範囲内で飲み食いしてくるはずだ。古屋の家の近所のウィクリーマンションを宿泊場所として押さえたから、ある程度満足すれば、戻ってくるだろう。明日の朝には、それぞれの拠点に戻るから、それまでは自己責任で自由にさせるつもりだ。ジュースとビールの入ったコップで何度目かの乾杯を終えた後、聡は思い出したように顔を上げた。
「そういえばさ、今日ナイ・シーのファンクラブの面々が、オフ会しているんだって聞いたっスけど、柊センセは、知ってるっスか?」
話を振られて友香は、己の従兄弟で現在小学五年の柊総太が熱烈なファンである友人の三瀬荘司に背を押され立ち上げたサークルを思い出した。最初は少人数だったが、ネットを経由して随分人数が増えたと、胸を張っていたのが脳裏に浮かぶ。
「うん。・・・・・・今日、あたしたちが打ち上げするって聞いて、俺たちもだって。今週の日曜日には、オンリーイベントがあるって言ってたかな?」
「うわぁ・・・・・・オンリーイベントかぁ・・・・・・」
友香と聡の会話を聞いていた、穂乃花は身を乗り出すようにして追加情報を口にする。
「うちの出版社って、大手じゃないぶん、宣伝になるからって、許可さえ貰えば二次創作比較的寛容じゃん? だから、こういうイベントをコアなファンが集まって企画しているんだって。柊先生の所は、ナイ・シーの他にも色々しているみたいだし? 私のトコの作品も、イベント企画して開催しているって聞いたよ! ・・・・・・ま、予想外のキャラたちが、カップリングとして盛り上がっててさ、ファンレターでその手の話を振られると、どう返答していいか困るんだけどさ」
二人の会話を聞いていた、椿姫は楽しげに手を叩きながら、「私よりマシでしょ」と、胸を張る。
「あー・・・・・・。椿姫センセの場合、男性向けの二次創作が多いっスよねぇ。たしか、アシの水山さんと星川さん、出してたじゃないっスか? 冗談で」
聡に問われて、頷きながら人差し指を立てた。
「読み切りを一回だけ出すつもりが、反響が良くて、今回で七冊目」
「うわぁ・・・・・・・」
「おかげで、そのキャラが出てきたときに、つい意識しちゃうのがまずいよねぇ・・・・・・。修羅場ってる時に、ぽそりと話題を振られるとさ・・・・・・こう・・・・・・こう! 緊張感が抜けて、シリアスな場面が、そう見えなくなってさ、泣けるシーンなのに、腹筋鍛える感じで!」
「裏ではこんなこと、考えているでしょって、アシが合いの手を入れたりとか?」
「そうそう!」
友香と遥は彼らの話題を、興味津々で静聴する。友香は完全デジタル作業な為に、アナログ作業が必要無いからだ。しかも作業が早いため、同時進行で作業を先に進めているから、原稿のストックもある。
「あ、そういえば、柊先生の所のナイ・シー関連、カップリング、NGって、公表しているんでしょ、公式ホームページで」
友香は肯定するように一つ頷くと「だって」と、声を上げた。
「そもそもがさ、遥の見た“夢”のオマージュが、私の描く“ナイト・シーカー”シリーズで、遥が頷いた虚実以外の“事実”から、かけ離れたものにしたくなかったのよ」
現在漫画化に着手している面々は、友香の言い分を受けて、驚いた表情のまま、隣で総菜に手を伸ばしている遥へと視線を向ける。遥は皆の視線が集中したのを受けて、軽く肩を竦めて見せた。
「わたしは、気にしないけど?」
「私が気にするの! 世界観やその他、大事なことは壊したくないから、編集者や担当の人が、今回の企画を持ってきたときに、世界観を大事にしてくれる人たちにとお願いしたんだから」
友香の言葉に、今回の企画に参加した人たちは「へぇ・・・・・・」と、何処か嬉しそうに、照れ笑いを見せながら、互いに視線を交わす。
「じゃあ、西荻さんが、真の原作者になるんだ」
面白そうに、梓が片手にビールの注がれたコップを手にしたまま、問いかけてくるから、遥は唐揚げを咀嚼しながら、視線を中空にさまよわせた。
「・・・・・・原作というより、原案に近いんじゃないかな? 夢で見た内容を一通り友香に話した後で、友香が取ったメモを参考に、話を描いているから、原作者は友香になるんじゃない?」
「・・・・・・起承転結をつけて通しで話を書き起こしたのは、柊先生だからねぇ・・・・・・」
「そう! だけど、友香が大事にしてくれるのは、とても嬉しいかな?」
遥の返しに、今度は友香が照れた。
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