Seeker at night

西崎 劉

文字の大きさ
4 / 19
第一幕 終焉の物語と殉教者たち

一:③

しおりを挟む
まだまだ発売日は先だが、それぞれが区切りをつけたのだ。受け持った人によっては、前後編や三部作となってしまったり、連載となったしまったりとバラバラだが、それでも最初の一冊目は、同時発売予定である。打ち上げ会場となったのは、大阪に住んでいる夫婦で漫画家をしている初老の男の家で、友香の所属する雑誌でも古参の猛者だ。地方放送局とはいえ、時代物がドラマ化したこともあり、そちらから流れてきたファンも多い。・・・・・・と、言っても、彼が現在担当したのは学園モノで甘酸っぱい話である。余談だが、彼の妻は、青年紙で現代物を描いていて、内容も硬派だ。二人は互いに修羅場になると、互いが手伝えるから、締め切り前には原稿が出来上がっていることが多くて、編集者の中では有名だ。時折、修羅場で悲鳴を上げている、同業者のスケットに行くこともあるから、彼ら夫婦と親しい者達から、神のように崇められている。
「・・・・・・あー、成人前の奴はジュースな? それともノンアルコールにしとくか? 最初の乾杯」
 片手に料理を盛った皿を二枚、器用に腕に乗せて、暖簾を巡って部屋に入ってきた、その男はそれぞれ座った席で、同業者ならではの話題で盛り上がる面々を見渡しながら希望を聞く。
「陸郎先輩、一応それらしく、ノンアルでいいんじゃないっスか?」
 提案されて他の面々を見渡すと、未成年である男女二名、飯島聡と瑞浪穂乃花とアルコールが不得手の友香と遥が手を挙げた。他の面々、古屋陸郎、梓夫婦と田中椿姫はいける口だ。今回の打ち上げに同行したアシスタントを努めた面々の殆どは、人数が人数だからと近所の居酒屋へ繰り出している。十分とはいえないが、軍資金を手渡しているので、その範囲内で飲み食いしてくるはずだ。古屋の家の近所のウィクリーマンションを宿泊場所として押さえたから、ある程度満足すれば、戻ってくるだろう。明日の朝には、それぞれの拠点に戻るから、それまでは自己責任で自由にさせるつもりだ。ジュースとビールの入ったコップで何度目かの乾杯を終えた後、聡は思い出したように顔を上げた。
「そういえばさ、今日ナイ・シーのファンクラブの面々が、オフ会しているんだって聞いたっスけど、柊センセは、知ってるっスか?」
 話を振られて友香は、己の従兄弟で現在小学五年の柊総太が熱烈なファンである友人の三瀬荘司に背を押され立ち上げたサークルを思い出した。最初は少人数だったが、ネットを経由して随分人数が増えたと、胸を張っていたのが脳裏に浮かぶ。
「うん。・・・・・・今日、あたしたちが打ち上げするって聞いて、俺たちもだって。今週の日曜日には、オンリーイベントがあるって言ってたかな?」
「うわぁ・・・・・・オンリーイベントかぁ・・・・・・」
 友香と聡の会話を聞いていた、穂乃花は身を乗り出すようにして追加情報を口にする。
「うちの出版社って、大手じゃないぶん、宣伝になるからって、許可さえ貰えば二次創作比較的寛容じゃん? だから、こういうイベントをコアなファンが集まって企画しているんだって。柊先生の所は、ナイ・シーの他にも色々しているみたいだし? 私のトコの作品も、イベント企画して開催しているって聞いたよ! ・・・・・・ま、予想外のキャラたちが、カップリングとして盛り上がっててさ、ファンレターでその手の話を振られると、どう返答していいか困るんだけどさ」
 二人の会話を聞いていた、椿姫は楽しげに手を叩きながら、「私よりマシでしょ」と、胸を張る。
「あー・・・・・・。椿姫センセの場合、男性向けの二次創作が多いっスよねぇ。たしか、アシの水山さんと星川さん、出してたじゃないっスか? 冗談で」
 聡に問われて、頷きながら人差し指を立てた。
「読み切りを一回だけ出すつもりが、反響が良くて、今回で七冊目」
「うわぁ・・・・・・・」
「おかげで、そのキャラが出てきたときに、つい意識しちゃうのがまずいよねぇ・・・・・・。修羅場ってる時に、ぽそりと話題を振られるとさ・・・・・・こう・・・・・・こう! 緊張感が抜けて、シリアスな場面が、そう見えなくなってさ、泣けるシーンなのに、腹筋鍛える感じで!」
「裏ではこんなこと、考えているでしょって、アシが合いの手を入れたりとか?」
「そうそう!」
 友香と遥は彼らの話題を、興味津々で静聴する。友香は完全デジタル作業な為に、アナログ作業が必要無いからだ。しかも作業が早いため、同時進行で作業を先に進めているから、原稿のストックもある。
「あ、そういえば、柊先生の所のナイ・シー関連、カップリング、NGって、公表しているんでしょ、公式ホームページで」
友香は肯定するように一つ頷くと「だって」と、声を上げた。
「そもそもがさ、遥の見た“夢”のオマージュが、私の描く“ナイト・シーカー”シリーズで、遥が頷いた虚実以外の“事実”から、かけ離れたものにしたくなかったのよ」
 現在漫画化に着手している面々は、友香の言い分を受けて、驚いた表情のまま、隣で総菜に手を伸ばしている遥へと視線を向ける。遥は皆の視線が集中したのを受けて、軽く肩を竦めて見せた。
「わたしは、気にしないけど?」
「私が気にするの! 世界観やその他、大事なことは壊したくないから、編集者や担当の人が、今回の企画を持ってきたときに、世界観を大事にしてくれる人たちにとお願いしたんだから」
 友香の言葉に、今回の企画に参加した人たちは「へぇ・・・・・・」と、何処か嬉しそうに、照れ笑いを見せながら、互いに視線を交わす。
「じゃあ、西荻さんが、真の原作者になるんだ」
面白そうに、梓が片手にビールの注がれたコップを手にしたまま、問いかけてくるから、遥は唐揚げを咀嚼しながら、視線を中空にさまよわせた。
「・・・・・・原作というより、原案に近いんじゃないかな? 夢で見た内容を一通り友香に話した後で、友香が取ったメモを参考に、話を描いているから、原作者は友香になるんじゃない?」
「・・・・・・起承転結をつけて通しで話を書き起こしたのは、柊先生だからねぇ・・・・・・」
「そう! だけど、友香が大事にしてくれるのは、とても嬉しいかな?」
 遥の返しに、今度は友香が照れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...