Winter smile

西崎 劉

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 宇宙海賊対策本部から黒の「ダークマスター」へ救援の指示が入った。
 無言で待機していた隊員の全てが、隊長であるアゲハに注目する。
「……さあ、仕事だよ!今回は“フルムーン”の救出だ」
 海賊から襲撃された旅客船を奪還しに行ったのは、茶の「アストロボーイ」だが、その旅客船が、実は偽装だと知って、情報部へ連絡を寄越してきた。その船を詳しく調べるためだ。ところが、それは海賊側の「フルムーン」を誘い出すための囮だった。S.P.Pが、何処まで海賊側の動きを知っているか、その情報を得るためにわざと用意した事だったのだ。アストロボーイはそれとも気付かず、その罠に掛かった。旅客船は変化し、その旅客船を護衛していた護衛艦二隻も豹変した。守られるはずのその三隻が背後から攻めてきたから堪らない。旅客船に乗り込んだフルムーンのメンバー殆どが捕まり、身動き出来なくなったのだ。そうこうしている内に、味方の戦艦が被害を拡大させていく。
 それで援護に呼ばれたのが、緑の「ナイトメア」と紫の「プアズン」が出動した。そして、別口で直接伝令が本部から入る。偽装旅客船に捕らわれているフルムーンの救出とデータ収拾を。
「隊長、そんなに大きなエモノですかね?」
 端末コンピュータを内蔵した漆黒のフルフェイスメットを被り、トマホークの点検をしながらタパが言う。
「ナイトメアとプアズンが出てるんだ。そう大した仕事ではないと思うが……用心はした方がいいな。行動を起こす時には、瞬間移動能力者(テレポーター)は一人、必ずいれとけ。……万が一……」
 一度言葉を切って、フッと笑う。
「万が一、わたしと連絡が取れなくなったとしたら、死んだと思って、自分の命と自分が助け出したフルムーンのメンバーの命を優先させろ。無駄死にだけは、許さないからね。さあっ、行こうっ!」
 アゲハの言葉にみんなが硬直すると、彼女は無敵の鮮やかな笑顔を見せる。
「わたしは、不死身だ。心配するなっ!」
 そして、フルフェイスのメットを被った。
  戦闘区域に到着するまで、食堂で単独行動を起こす時のメンバーの振り分けをアゲハは行った。スノウは瞬間移動の出来るダイダロスと透視能力のタパのチームに配属された。ダーリーはロビィとあと数名のチームに配属になる。隊長であるアゲハは別のチームだった。振り分けが終わると、今から乗り込む旅客船と同じ型の見取り図を開き、それぞれの目的を明確にする。
 館内に放送が入り、ダークマスターの出動命令が下る。それぞれのチームに配属された数名の瞬間移動能力者が、それぞれの目的地へ直接移動した。普段ならば、その様な事は行わないのだが、敵艦の伏兵がいないとは限らないし、捕らわれているフルムーンのメンバーの安否も気づかわれての、苦肉の策だ。
 それぞれのチームは艦内に到着すると、早速行動を起こした。スノウのチームは、退路確保。あちこち関係のない所で煙幕弾を仕掛けてスプリンクラーを発動させる。ダーリーのチームは、この旅客船のメインコンピュータの情報を引き出す事とその破壊。四苦八苦して、パスワードを解くと、意外な事実が出てきた。宇宙有数の企業団体が、海賊と手を組んでいた証拠や、先に起きたファタム星でのテロ事件など。アゲハのチームは、念動力者を主体に構成したフルムーンの部隊の救出に向かった。スノウたちが起こした騒ぎに紛れ、精神感応能力をフルに使って、捕らわれた者たちの居場所を聞き出し、そこへ急行する。
 あちこちで戦闘が開かれる。仲間にそれぞれ指示をだし、司令室を襲う。捕らわれたフルムーンの戒めである電子錠のロックを外すと、数人単位で仲間の所へ転送させる。全てを救出した後、背後を護りながら予め落ち合う場所と決めた所へ向かった。大勢で移動するには、目立ちすぎるので、二手に別れる提案をする。
「……陽動作戦と、いこうか」
 落合場所…つまり、アゲハたちが乗ってきた戦艦がある場所を敵に知られるのは、全滅の危険があった。また、時間制限をしている。時間までに到着出来なければ、先に戻るように指示を与えていた。
 背負っていたリュックからトラップ爆弾を取り出し、組み立て始める。話し合った結果、アゲハと数名がこの場に残って時間稼ぎをしている間に、他の者たちは避難するというものだ。
「こんな大事になるとは思ってもみなかったよなぁ……ねぇ、隊長」
 この隊ではアゲハと同期の青年が、汗を拭いながら言う。
「われわれが、確実にやつらを追い詰めている証拠さ」
 組み立ておわったトラップを、瞬間移動能力者が、次々に指示された所へ仕掛けていく。
 仕掛け終わった頃、精神感応で、無事、フルムーンが収容された事を知ったアゲハは、退却命令を出した。
 電気配線や、入口付近に時限爆弾を仕掛けている時、ふと、アゲハの顔が強張った。
「帰りましょう、隊長っ!」
 一点を顔を顰めてアゲハは睨む。しかし、作戦が上手くいって、浮かれた様子の他の者はそれに気付かなかった。
「……ああ、そうだな。先に戻っていてくれないか?」
 アゲハはニコリと笑ってそう告げる。
「…………隊長?」
 不安そうに聞き返すみんなにおどけた様子を見せた。
「忘れ物が、あるんだ。それを、取って来る。……すぐ戻るから、先に帰っていてくれ」
「でも……」
 尚も言い募る者たちの肩を軽く叩いて、背を押した。
「すぐ、だから。先に行っていてくれないか?帰ったら……そうだな、無事任務が終了した事へのお祝いをしよう」
 それが、アゲハの最後の姿だった。アゲハが送りだした隊員が、自分たちの艦に乗った頃、今までいた旅客船が、あちこち火の手が上がり、粉々に吹っ飛んだ。
 スノウとダーリーは呆然としたまま、その光景を見る。横で床を叩きながら火の玉と化した旅客船を見つめ、最後にアゲハに見送られた隊員が泣いていた。
「すぐって、言ったじゃないですかっ!……隊長っ!……何が、あったんですか?あそこでっ……」
 任務を無事果たせたが、想像したより大きな代償と引換えだった。ダークマスターの隊長が副官だったダーリー=マキシムに変わり、スノウはしばらく辞令があるまでダークマスターに所属していたが、今までの情報収拾能力を買われ、フルムーンに配属になった。
 それから八年経過した。ただがむしゃらに駆け抜けた八年目にして、やっと……アゲハの探し求めていた海賊、ダルダホーンを撲滅出来たのだ。そして、アゲハの歳にスノウは追いついてしまった。
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