詩集『刺繡』

新帯 繭

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仄暗い夜明け

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目覚めて、初めて見た景色
それは真っ白で遠くて、
見える、何もかもが大きくて、
だけど何も怖くはなくて……
私の心は泣き声で満たされた

周りの静けさが怖くて、
虚ろな無音を破ろうとして、
気付けば、只管泣いていた。
音だけが、孤独を薄らげる。
そんな赤子だった、一人の話。

私は幼き日の中で、
父に憧れを抱けずいた。
母には安心感のみを求め、
祖父母には愛嬌を振りまいて、
父には享楽の相手を求め、
弟には好敵手を求めた。

初めて服を選んだら、
どれも違う気がしていた。
他人の化粧姿を見て、
初めて自分に合点がいく。
それを真似して遊んだら、
両親に、ただ笑われた。
祖父母は嫌な顔を見せ、
男らしさを求められ、
ただ何もわからぬままに、
心成しか居心地悪く、
言うこと聞くふりをした。

幼少期には演技した。
ただ男のふりをして
馬鹿な頓珍漢の芝居をして、
いつまで続くかと憂いながら、
そのまま大人になることに
不安と妥協を感じながら、
人知れず、涙を流して、
自己嫌悪に生きながら、
奉仕精神に全てをぶつけて
優しさという、八つ当たりを
他人にばら撒いて育った。

心の性に不安を覚えた。
この頃に、体を覚えた。
自分は男ではないのだと、
初めて、明確に自覚した。
女にもなり切れず、
自分の容姿を憾めいた。
男に生まれし運命を、
誰にぶつけることもなく、
ひたすら自分を拒絶した。

25歳で、初めて自分を知る。
ジェンダーレスという言葉と
自由なファッションというものが、
私を、初めて開放する……。
だけれど、それは幻想で、
求めれば、求めるほどに、
周囲は私を、無意味に拒絶する。
心許なく芝居を続け、
道化に生きると決めかけて
母を喪い、化粧が剥がれて
狂いながら、泣きながら、
先が明けても、仄暗い未来。

心の中で思うのは、
私は、未だに何者か
分からぬまま、進む道すがら
仄暗い夜明けを経験して、
その人生もまた、未明のままに
生涯を憂いて、朝日を見る。
 
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