詩集『刺繡』

新帯 繭

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スコール

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『雨』
思い出すのは
燥ぎまわった中学時代
ただ数少ない友人と
喋りながら雨の中を
傘も持たずに下校して
家に帰って熱いシャワーを浴びる
そんなプチイベントに小さな幸せがあった
水恐怖症で水が浴びれないのに
私はそれを子どもの時に欲した
乳児期に入った水風呂の思い出が
只忘れられなかっただけかもしれない

丁度このころは
幼稚園で出会った初恋の女の子と
再会できて少し嬉しかった時期
ただ声がかけられなくて
只管にもどかしくて
幼少時代の自分の行動を
思い出すようにして繰り返していた
次第にその子への気持ちも再燃した
堪らず受験前に告白した
話したいことが一杯あり過ぎて
その告白が20分ほど掛かった
私の初恋はこれで終わった

このときの思い出を
私は『Skal』で思い出す
あの白い爽やかな炭酸飲料を
幼少期に飲んだことがある
炭酸の刺激が苦手だったけれど
あの味だけは好きになれた
大人になってから
ホームアップやアンバサにも手を出した
それでもスコールには勝てない
思い出効果だろうか
これっぽっちも敵いそうにない
私の青春を代表する唯一の味覚だ


思い出は若気の至りなのかもしれない
それは『Skal』のように
甘酸っぱくて爽やかで
弾けるように切なくて
それは『squall』のように
潤いを与えて
何もかもを流しながら
特別になっていくものだろうか

私の初恋は晴れやかな園庭だった
園舎の裏でコソコソして遊んだ毎日
体は大きい男の子なのに
心と為すこと全てが女の子だった
弱っちい私を守ってくれた
逞しくって賢い女の子だった
そんな彼女に私は憧れたのだ

今の私は彼女に近付けているだろうか
私は私らしく生きられているだろうか
今日も『Skal』を唇に
そんなことを思い返す
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