詩集『刺繡』

新帯 繭

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子ども時代

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子どもは無邪気だ
無垢でいて
何をするにも悪意がない
時に残酷で
時に優しい天使のようだ
奇想天外なことを仕出かして
それに大人は驚いて
初めてものの新しい側面を知る
そういった展開は
子どもといるとお約束だ

こんなことを考えていると
昔の自分を思い出し
少し涙が出てくる
感動してノスタルジーに浸るわけじゃない
私は悔しくて悲しくて……
ただ泣きたくなるのだ

私は性別が不安定だ
それ故に理解されてこなかった
言動の理由に性別は付き物だ
考える本能的な部分は
子ども時代の学びの大きな部分だ

私はメイクが好きだった
ただ理由もなく
可愛くなりたかった
欲しい玩具も
本当は着せ替え人形や
女の子向けのコスチュームだった
だけど親は
それを見ると嫌悪感を向ける
明確ではなくても
子どもは敏感だ
私は只管にひた隠し続けた
隠すことで身を守り
自分を見失わない様に
守り通したのだ

長くして結びたかった髪も
短くスポーツ刈りにして
男の子っぽくすることに努めた
男の子の玩具も大量に強請った
そうすれば親が喜ぶからだ

周りからも
「かっこいいね」
「男前」
「イケメン」
という形容詞を
小学生まで浴び続けた
私は自分が分からなくなり始めていた
長い間虐められもした
多分そういった面が滲んでいたのか
それとも嫉妬心からなのか
よくは分からないかったが
唯々勉強が手につかないほど
寂しい思いをして過ごした

中学生になるとバスケに明け暮れた
だけど本当はお洒落の方がしたかった
女の子と普通におしゃべりしながら
遊んで勉強して恋バナもして
そういった学生生活をしたかった
だけど周囲は許してはくれなかった
いつも誘われるのは柔道部
バスケでも坊主は伝統により
半強制でしなくてはならない空気だった
気弱な部分に付け入られて
先輩からも凄惨な虐めに遭った
勉強も手につかなかったが
行きたい高校のために
少し頑張って集中して
何も考えずに只麻痺して
過ごした日々だった

高校でも願望は変わらなかった
前と違うのは女の子との関係だ
普通に喋り
偶に恋バナなんかもして
友達から恋人にもなってみて
相手はデートでこっちは遊びで
学校帰りにゲーセンに行ったりもした
しかし相変わらず悲しい思いもした
カミングアウトをした
ちょっとした油断で安心しきっていた
それで言われたのは『オカマ』
お道化て自分を誤魔化した
笑いを取って弄られることで
自分の悲しみに嘘をついて
居場所を守ろうとした
今となっては大きな過ちだったかもしれない
勉強が相変わらず手につかない
私は何もできずに大人を迎えた


子どもは純粋だ
純粋だから大人に染められる
染まった色は中々治らない
色濃く汚れも沁みついてしまう
簡単に歪になって
違和感が無いように
それを中心に出来上がってしまう

私は大人が嫌いだ
悪意を持って無邪気に
簡単に身勝手に子どもを染め上げる
歪んでいくままに仕上がる様を
嬉しそうに笑いながら
無責任に眺めている
そんな大人に
私は振り回されたのかもしれない

子どもは大人が思うより
純粋で無垢で無邪気ではない
そうでなくては
大人に好き勝手されて
自分の身を守ることができないからだ
大人の方が無邪気で無垢で
時に残酷で時に天使で
それでいながらも
優しく悪意に満ちている 
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