吾等文学ニテ事件ヲ解決ス

新帯 繭

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序章

1話 二人の想い

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~『もこちゃん』と『ぜっちゃん』~

私たちは、友達になって、一緒に遊んで、其々の岐路に着いた。
久しぶりに、こんなに楽しい時間を過ごせて、自分らしい子どもの時間を過ごせた気がする。
片や約束をすっぽかして、片や目的も負の感情も忘れて、一時かもしれない幸福な時間を過ごせた。
沢山話した。
喋りたい事、嫌なことの愚痴、可笑しくて他の人には言えない悪口や噂話、悩み足りなくてキャッキャしたい恋バナ、時折甘えてみたくて泣き言、ムカついて仕方のない怒り……etc.
兎に角、腹の底から出るわ〃で、本当に二人で驚き合った。
お互いに、出会えて本当によかったって……これが親友というものなのかと、分かち合えた気がした。
『犬宮もこ奈』は近付いた目的と本当の理由を、『赤塚清世』は姉との葛藤と『車木巴直』への恋心を、腹を割って話し合った。

「私ね……実は、芽衣ちゃんの友達じゃないの。」
「知ってるよ……だって、訊いた時の答えが変だったもん。」
「バレてたか……本当はね、助けて欲しくて、どうにかして頼めないかって考えていたの。」
「直接言えば良いじゃん!」

その通りだ。
しかし、そういう訳にも行かないのだった。

「私ってさ、見た目も評判も悪い子だから、頼みたくても近付くこともできないんだよ。」
「……どっちのお姉ちゃんも、きっと誤解してるんだよ。」
「え?」

神妙な顔で呟くと、ぜっちゃんが立ち上がる。
そして、こちらに向き直り、覚悟を決めたような凛々しい顔になった。

「よし……決めた!」
「何を?」
「芽衣の代わりに、私がもこちゃんを助けてあげる。」

そう得意げに、言い切った。
高らかなる宣言だ。

「私ね……本当は芽衣に、嫉妬してるんだよ……。」
「そう……。」
「うん……お姉ちゃんってさ、美人でさ…基本的に何でもできるじゃん?」

得意げな、先程までの顔付きとは一変、物憂げな表情で問いかけてきた。
こちらは、クラスメイトということ以外の接点はない。
ただ、分かる限りの第一印象は答えてみる。

「そうだね……クラスでも優等生かな。」
「私もクラスでは、いつも優等生っていわれるんだけど…本当は、そうじゃないんだよ。」
「……?」
「一杯さ……他の子みたいに、ほんの少しの悪さをしてみて、ちょっぴりだけ、大人に歯向かってみたいんだよ。」

本当に寂しそうだった。
孤独とでもいうべき雰囲気を纏った、今日会ったばかりの一人の小学生が、そこにいる。
私には、その気持ちが理解こそできなかったが、なった結果は身をもって知っている。
諭すより他は無い。

「そんなことしても、何も得しないよ?」
「わかってる……私には警察官のお父さんがいるし、そんなことをすれば、きっとお父さんに、良くない評判が付いてしまうんじゃないかってことも。」
「うん……。」
「だからさ……せめて、良いことをして、大人に突き付けたいんだ……私だってできるんだぞって。」

彼女は反抗期なのだ。
しかも、筋道を立てた、正しい在り方の良い意志だ。

「いいな……ぜっちゃんって、すごくバイタリティがあって。」
「そういう、もこちゃんも、本当は真面目で良い子だったんだね。」

改めて『真面目で良い子だった』という言葉に、胸が痛くなる。
捨てたけど、捨てきれない。
今現在は、大好きだった実父の名前を汚している、後悔と自己嫌悪で一杯なところに、その言葉は枯れた大地に落ちた一滴のミネラルを含んだ雫なのだ。

「今の姿は、目的を果たすための手段なんだ……馬鹿げてるやり方だけど、これしかないんだ。」
「目的って?」

残酷だから言うまいと思っていたが、今の素直になっている頭では、制御できずに口を突いて言葉が勝手に紡がれる。

「私ね……親を目の前で殺されたんだ。」
「うそ……。」
「信じられないよね……おまけに口がきけない様に、喉まで潰されちゃってさ……。」
「犯人は?」
「叔父だよ……だけど、警察は信じてくれないし、私を犯人にして、事件を終わらされちゃったの。」
「じゃあ……それを解決して、濡れ衣を晴らしたいの?」
「そういうこと。」
「それなら……準備が必要だね。」
「?」

明らかに、怒った声だった。
それも、深い強すぎる怒りだった。
爆発すらままならない程に、人を人でなくするものに違いなかった。

「私が動くから、もこちゃんが、これ以上動く必要はないよ。」
「え……それはどういう……?」
「私が、お姉ちゃんとお父さんを嗾ける……それと、事件をもう一度起こさせる。」
「ダメ…危険すぎる‼」

止めようと思い、声が大きくなる。
そして、金切り声に近い、悲鳴のような静止と共に、そうすればいいか分からない手が、ぜっちゃんの肩を強く掴んだ。
しかし、ぜっちゃんは、強い決心と意地を顔に滲ませて、私を安心させるために覚悟を決めた、美しい顔で私を見つめ返してきた。
私は、それに為す術もなく、頼る外が無くなってしまった。
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