28 / 31
序章
1話 二人の想い
しおりを挟む
~『もこちゃん』と『ぜっちゃん』~
私たちは、友達になって、一緒に遊んで、其々の岐路に着いた。
久しぶりに、こんなに楽しい時間を過ごせて、自分らしい子どもの時間を過ごせた気がする。
片や約束をすっぽかして、片や目的も負の感情も忘れて、一時かもしれない幸福な時間を過ごせた。
沢山話した。
喋りたい事、嫌なことの愚痴、可笑しくて他の人には言えない悪口や噂話、悩み足りなくてキャッキャしたい恋バナ、時折甘えてみたくて泣き言、ムカついて仕方のない怒り……etc.
兎に角、腹の底から出るわ〃で、本当に二人で驚き合った。
お互いに、出会えて本当によかったって……これが親友というものなのかと、分かち合えた気がした。
『犬宮もこ奈』は近付いた目的と本当の理由を、『赤塚清世』は姉との葛藤と『車木巴直』への恋心を、腹を割って話し合った。
「私ね……実は、芽衣ちゃんの友達じゃないの。」
「知ってるよ……だって、訊いた時の答えが変だったもん。」
「バレてたか……本当はね、助けて欲しくて、どうにかして頼めないかって考えていたの。」
「直接言えば良いじゃん!」
その通りだ。
しかし、そういう訳にも行かないのだった。
「私ってさ、見た目も評判も悪い子だから、頼みたくても近付くこともできないんだよ。」
「……どっちのお姉ちゃんも、きっと誤解してるんだよ。」
「え?」
神妙な顔で呟くと、ぜっちゃんが立ち上がる。
そして、こちらに向き直り、覚悟を決めたような凛々しい顔になった。
「よし……決めた!」
「何を?」
「芽衣の代わりに、私がもこちゃんを助けてあげる。」
そう得意げに、言い切った。
高らかなる宣言だ。
「私ね……本当は芽衣に、嫉妬してるんだよ……。」
「そう……。」
「うん……お姉ちゃんってさ、美人でさ…基本的に何でもできるじゃん?」
得意げな、先程までの顔付きとは一変、物憂げな表情で問いかけてきた。
こちらは、クラスメイトということ以外の接点はない。
ただ、分かる限りの第一印象は答えてみる。
「そうだね……クラスでも優等生かな。」
「私もクラスでは、いつも優等生っていわれるんだけど…本当は、そうじゃないんだよ。」
「……?」
「一杯さ……他の子みたいに、ほんの少しの悪さをしてみて、ちょっぴりだけ、大人に歯向かってみたいんだよ。」
本当に寂しそうだった。
孤独とでもいうべき雰囲気を纏った、今日会ったばかりの一人の小学生が、そこにいる。
私には、その気持ちが理解こそできなかったが、なった結果は身をもって知っている。
諭すより他は無い。
「そんなことしても、何も得しないよ?」
「わかってる……私には警察官のお父さんがいるし、そんなことをすれば、きっとお父さんに、良くない評判が付いてしまうんじゃないかってことも。」
「うん……。」
「だからさ……せめて、良いことをして、大人に突き付けたいんだ……私だってできるんだぞって。」
彼女は反抗期なのだ。
しかも、筋道を立てた、正しい在り方の良い意志だ。
「いいな……ぜっちゃんって、すごくバイタリティがあって。」
「そういう、もこちゃんも、本当は真面目で良い子だったんだね。」
改めて『真面目で良い子だった』という言葉に、胸が痛くなる。
捨てたけど、捨てきれない。
今現在は、大好きだった実父の名前を汚している、後悔と自己嫌悪で一杯なところに、その言葉は枯れた大地に落ちた一滴のミネラルを含んだ雫なのだ。
「今の姿は、目的を果たすための手段なんだ……馬鹿げてるやり方だけど、これしかないんだ。」
「目的って?」
残酷だから言うまいと思っていたが、今の素直になっている頭では、制御できずに口を突いて言葉が勝手に紡がれる。
「私ね……親を目の前で殺されたんだ。」
「うそ……。」
「信じられないよね……おまけに口がきけない様に、喉まで潰されちゃってさ……。」
「犯人は?」
「叔父だよ……だけど、警察は信じてくれないし、私を犯人にして、事件を終わらされちゃったの。」
「じゃあ……それを解決して、濡れ衣を晴らしたいの?」
「そういうこと。」
「それなら……準備が必要だね。」
「?」
明らかに、怒った声だった。
それも、深い強すぎる怒りだった。
爆発すらままならない程に、人を人でなくするものに違いなかった。
「私が動くから、もこちゃんが、これ以上動く必要はないよ。」
「え……それはどういう……?」
「私が、お姉ちゃんとお父さんを嗾ける……それと、事件をもう一度起こさせる。」
「ダメ…危険すぎる‼」
止めようと思い、声が大きくなる。
そして、金切り声に近い、悲鳴のような静止と共に、そうすればいいか分からない手が、ぜっちゃんの肩を強く掴んだ。
しかし、ぜっちゃんは、強い決心と意地を顔に滲ませて、私を安心させるために覚悟を決めた、美しい顔で私を見つめ返してきた。
私は、それに為す術もなく、頼る外が無くなってしまった。
私たちは、友達になって、一緒に遊んで、其々の岐路に着いた。
久しぶりに、こんなに楽しい時間を過ごせて、自分らしい子どもの時間を過ごせた気がする。
片や約束をすっぽかして、片や目的も負の感情も忘れて、一時かもしれない幸福な時間を過ごせた。
沢山話した。
喋りたい事、嫌なことの愚痴、可笑しくて他の人には言えない悪口や噂話、悩み足りなくてキャッキャしたい恋バナ、時折甘えてみたくて泣き言、ムカついて仕方のない怒り……etc.
兎に角、腹の底から出るわ〃で、本当に二人で驚き合った。
お互いに、出会えて本当によかったって……これが親友というものなのかと、分かち合えた気がした。
『犬宮もこ奈』は近付いた目的と本当の理由を、『赤塚清世』は姉との葛藤と『車木巴直』への恋心を、腹を割って話し合った。
「私ね……実は、芽衣ちゃんの友達じゃないの。」
「知ってるよ……だって、訊いた時の答えが変だったもん。」
「バレてたか……本当はね、助けて欲しくて、どうにかして頼めないかって考えていたの。」
「直接言えば良いじゃん!」
その通りだ。
しかし、そういう訳にも行かないのだった。
「私ってさ、見た目も評判も悪い子だから、頼みたくても近付くこともできないんだよ。」
「……どっちのお姉ちゃんも、きっと誤解してるんだよ。」
「え?」
神妙な顔で呟くと、ぜっちゃんが立ち上がる。
そして、こちらに向き直り、覚悟を決めたような凛々しい顔になった。
「よし……決めた!」
「何を?」
「芽衣の代わりに、私がもこちゃんを助けてあげる。」
そう得意げに、言い切った。
高らかなる宣言だ。
「私ね……本当は芽衣に、嫉妬してるんだよ……。」
「そう……。」
「うん……お姉ちゃんってさ、美人でさ…基本的に何でもできるじゃん?」
得意げな、先程までの顔付きとは一変、物憂げな表情で問いかけてきた。
こちらは、クラスメイトということ以外の接点はない。
ただ、分かる限りの第一印象は答えてみる。
「そうだね……クラスでも優等生かな。」
「私もクラスでは、いつも優等生っていわれるんだけど…本当は、そうじゃないんだよ。」
「……?」
「一杯さ……他の子みたいに、ほんの少しの悪さをしてみて、ちょっぴりだけ、大人に歯向かってみたいんだよ。」
本当に寂しそうだった。
孤独とでもいうべき雰囲気を纏った、今日会ったばかりの一人の小学生が、そこにいる。
私には、その気持ちが理解こそできなかったが、なった結果は身をもって知っている。
諭すより他は無い。
「そんなことしても、何も得しないよ?」
「わかってる……私には警察官のお父さんがいるし、そんなことをすれば、きっとお父さんに、良くない評判が付いてしまうんじゃないかってことも。」
「うん……。」
「だからさ……せめて、良いことをして、大人に突き付けたいんだ……私だってできるんだぞって。」
彼女は反抗期なのだ。
しかも、筋道を立てた、正しい在り方の良い意志だ。
「いいな……ぜっちゃんって、すごくバイタリティがあって。」
「そういう、もこちゃんも、本当は真面目で良い子だったんだね。」
改めて『真面目で良い子だった』という言葉に、胸が痛くなる。
捨てたけど、捨てきれない。
今現在は、大好きだった実父の名前を汚している、後悔と自己嫌悪で一杯なところに、その言葉は枯れた大地に落ちた一滴のミネラルを含んだ雫なのだ。
「今の姿は、目的を果たすための手段なんだ……馬鹿げてるやり方だけど、これしかないんだ。」
「目的って?」
残酷だから言うまいと思っていたが、今の素直になっている頭では、制御できずに口を突いて言葉が勝手に紡がれる。
「私ね……親を目の前で殺されたんだ。」
「うそ……。」
「信じられないよね……おまけに口がきけない様に、喉まで潰されちゃってさ……。」
「犯人は?」
「叔父だよ……だけど、警察は信じてくれないし、私を犯人にして、事件を終わらされちゃったの。」
「じゃあ……それを解決して、濡れ衣を晴らしたいの?」
「そういうこと。」
「それなら……準備が必要だね。」
「?」
明らかに、怒った声だった。
それも、深い強すぎる怒りだった。
爆発すらままならない程に、人を人でなくするものに違いなかった。
「私が動くから、もこちゃんが、これ以上動く必要はないよ。」
「え……それはどういう……?」
「私が、お姉ちゃんとお父さんを嗾ける……それと、事件をもう一度起こさせる。」
「ダメ…危険すぎる‼」
止めようと思い、声が大きくなる。
そして、金切り声に近い、悲鳴のような静止と共に、そうすればいいか分からない手が、ぜっちゃんの肩を強く掴んだ。
しかし、ぜっちゃんは、強い決心と意地を顔に滲ませて、私を安心させるために覚悟を決めた、美しい顔で私を見つめ返してきた。
私は、それに為す術もなく、頼る外が無くなってしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム
かものすけ
ミステリー
昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。
高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。
そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。
謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?
果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。
北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
遠山未歩…和人とゆきの母親。
遠山昇 …和人とゆきの父親。
山部智人…【未来教】の元経理担当。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる