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序章
1話 予定外の悦び
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~『犬宮もこ奈』と『赤塚清世』の邂逅~
「こんにちは……家の近くで、どうしたんですか?」
『赤塚』さんの妹らしい高学年が、駆け寄ってきて、話しかけてきた。
マズい……これでは完全に不審者で、怖い中学生だ。
これは詰んだな。
そう感じていると、思わぬ声がかかる。
「まさか、お姉ちゃんの友達?」
「お姉ちゃん……?」
「うん、『芽衣』のこと。」
成程、『赤塚』さんの妹で間違いないようだ。
しかも、自分の姉の友人だと勘違いしてくれている。
これは好都合だ。
私は、嘘をつくことにした。
「ああ……うん、そうだよ?」
「へえ……意外だなー。」
「何で?」
「だって、お姉ちゃんは、結構ヤンキーみたいな人が、嫌いなんだもん。」
無邪気に人を傷つける物言いに、私は少々打ちひしがれた。
それと同時に、「やっぱり」と思った。
この状況が無ければ、詰んでいたかもしれない。
ここは、嘘がバレないように、細心の注意を払って時間を稼ごう。
「そうなんだよ~……不思議だよね?」
「……ということは、あなたは、きっといい人だね!」
「そうかな……ありがとう。」
『いい人』と言われるのは、何時ぶりだろうか。
胸の奥が締め付けられて、心地良い苦しさが、私を満たしていく。
「でも、なんで一緒にいないの?」
「うーん……途中まで一緒だったんだけど、少し休憩してから帰るよ。」
「じゃあさ……あなたも一緒に遊ぼう?」
「え……?」
「お名前は何ていうの?」
私は、相手が高学年だと思って、流石に舐めていた。
こんなにも、思春期真っ盛りで、こんなにも無垢で無邪気で天真爛漫な女の子は、正直初めての体験だ。
ペースに嵌まり込んで、どんどん流されていく。
「えーと……『もこ奈』。」
「『もこ奈』ちゃん?」
「うん……私の名前だよ。」
「へえ……可愛い名前だね!」
「君は?」
「清世!」
一瞬、聞き慣れない名前だった。
私は聞き取れずに、聞き返した。
「きよ……何て?」
「き・よ・ぜ‼」
「『きよぜ』ちゃんって言うの?」
「うん……誰も真面に読んでくれないんだ。」
目の前の、『清世』という少女は、少し寂しそうな顔をした。
睫毛の長い円らな瞳を、俯かせて口をとがらせて、拗ねた顔を決め込んだ。
私は、不覚にも胸が高鳴ってしまった。
「じゃあ……私は間違えない様に、『ぜっちゃん』って呼ぶね?」
「え~……何か嫌だけど、別に良いよ。」
「なら、私のことは、『もこ』で良いよ!」
「……なら『もこちゃん』ね?」
「うん、よろしくね!」
私は、この少女を、『赤塚芽衣の妹』としてではなく、一人の女の子として、強く惹かれていった。
「こんにちは……家の近くで、どうしたんですか?」
『赤塚』さんの妹らしい高学年が、駆け寄ってきて、話しかけてきた。
マズい……これでは完全に不審者で、怖い中学生だ。
これは詰んだな。
そう感じていると、思わぬ声がかかる。
「まさか、お姉ちゃんの友達?」
「お姉ちゃん……?」
「うん、『芽衣』のこと。」
成程、『赤塚』さんの妹で間違いないようだ。
しかも、自分の姉の友人だと勘違いしてくれている。
これは好都合だ。
私は、嘘をつくことにした。
「ああ……うん、そうだよ?」
「へえ……意外だなー。」
「何で?」
「だって、お姉ちゃんは、結構ヤンキーみたいな人が、嫌いなんだもん。」
無邪気に人を傷つける物言いに、私は少々打ちひしがれた。
それと同時に、「やっぱり」と思った。
この状況が無ければ、詰んでいたかもしれない。
ここは、嘘がバレないように、細心の注意を払って時間を稼ごう。
「そうなんだよ~……不思議だよね?」
「……ということは、あなたは、きっといい人だね!」
「そうかな……ありがとう。」
『いい人』と言われるのは、何時ぶりだろうか。
胸の奥が締め付けられて、心地良い苦しさが、私を満たしていく。
「でも、なんで一緒にいないの?」
「うーん……途中まで一緒だったんだけど、少し休憩してから帰るよ。」
「じゃあさ……あなたも一緒に遊ぼう?」
「え……?」
「お名前は何ていうの?」
私は、相手が高学年だと思って、流石に舐めていた。
こんなにも、思春期真っ盛りで、こんなにも無垢で無邪気で天真爛漫な女の子は、正直初めての体験だ。
ペースに嵌まり込んで、どんどん流されていく。
「えーと……『もこ奈』。」
「『もこ奈』ちゃん?」
「うん……私の名前だよ。」
「へえ……可愛い名前だね!」
「君は?」
「清世!」
一瞬、聞き慣れない名前だった。
私は聞き取れずに、聞き返した。
「きよ……何て?」
「き・よ・ぜ‼」
「『きよぜ』ちゃんって言うの?」
「うん……誰も真面に読んでくれないんだ。」
目の前の、『清世』という少女は、少し寂しそうな顔をした。
睫毛の長い円らな瞳を、俯かせて口をとがらせて、拗ねた顔を決め込んだ。
私は、不覚にも胸が高鳴ってしまった。
「じゃあ……私は間違えない様に、『ぜっちゃん』って呼ぶね?」
「え~……何か嫌だけど、別に良いよ。」
「なら、私のことは、『もこ』で良いよ!」
「……なら『もこちゃん』ね?」
「うん、よろしくね!」
私は、この少女を、『赤塚芽衣の妹』としてではなく、一人の女の子として、強く惹かれていった。
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