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序章
1話 僅かな儚い日常
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父親の指示で、捜査協力を半ば強制的に受託させられた翌日。
私は、いつも通りに学校へ通った。
「あ……玉ノ井、おはよう!」
「おはよう!」
「おいおい……お前の顔で、学ランは似合わないって。」
「放っといてよ……寒いし、こういう時に学ランって便利なんだから。」
「『便利』とか考えたことも無えよ……制服って、不便でウザいってのが定番だろ?」
色んな服が好きな私からすれば、NGワードだ
しかし、男子には、そういったのは関係ない。
寧ろ、服が嫌いなのではと思うほど、無頓着な人間が多いのも知っている。
「あのね……それじゃあ、一つ制服の豆知識。」
「何だよ?」
「セーラー服の女子って好き?」
「……他の女子より、お前が一番似合いそうな。」
毎度、男子からは、こういったことを言われるのだ。
嬉しくないと言えば嘘だが、正直なところ、引いてしまう。
一応、自覚はしているのだが、クラスの男子の多くにとって、『私は都合良くベタベタ触れる便利な女子』という位置付で見ているらしい。
これでも出生届の性別が同じなのかと思うと、残念で仕方がない。
「よしなさい……傍から見たら、今の発言は只のスケベ男子の戯言だけど、同じ学校の生徒が聞いたら、別の意味の変態になるよ?」
「遠慮しとく……でも、セーラー服は萌えるよな。」
「そのセーラー服って、元は男性の水兵の制服で、水中で破って脱ぎやすいように設計されているのよ。」
「破って……違う方向へ想像すれば嬉しいけど、まんま想像すると……おえぇええぇっ‼」
男子生徒は思いっきり吐いた。
マンガの誇張表現で描かれてはいるが、現実で会話を想像して本当に吐くのを見るのは、初めてだった。
どれだけ想像力が豊かなのだろう。
ほとほと感心する。
まあ、話題はしくじった。
「あ……失敗☆」
「『失敗☆』じゃないっ……何てことしてくれてんだ‼」
「………逃げろ~っ‼」
「あ……待て!」
こんな感じで、下らないやり取りをして、偶に登校中に鬼ごっこ染みたこともして、頻繁に教室の内外で女子会もやって、といった他愛もない日常を楽しめるのは、恐らく今日の現在だけだろうと、私は深く噛み締めた。
同時にワクワクもする。
あの日に教室で読んでいたのは、横溝正史の『犬神家の一族』だった。
『犬神家の一族』は、多くの人は子ども時代にプールで逆さまになって、足をY字に開いて浮上するネタで馴染みがあるかもしれない。
しかし、この作品の凄いところは、登場人物の殺害方法のインパクトだけではない。
当時のミステリーからは、想像もできない犯人像と、犯人のその後である。
当時のもので、人物が成り代わっているというのは、かなり斬新だったと言える。
そういった手法のミステリーは、現代だと至って定番となっているが、特に、この作品が切っ掛けになっていると言っても、過言ではないだろう。
その後は、犯人が金田一や警察の目を盗んで、早朝に逃げるのではなく、入水自殺をするという結末なのだから、余計に奇抜で先進精鋭な作品だったと思われる。
こういう作品たちを読んでいると、自分も推理がしたくなって、何となく登場人物になり切って、事件を解決できる気分になってくる。
……しかし、いざ現実に、それになってしまえば、それがどんなに過酷なものなのかを、未だ活動を開始すらしていない状態でも、犇々と痛感してしまう。
教室に着き、親友の席を確認した。
未だ登校していないようだ。
遅れて担任が入室した。
「はーい、今から大事な話をするから、席に着けーっ!」
「おはようございます。」
「お、玉ノ井か……丁度いい…隣で昨日のことを説明してくれ。」
私は強引に二の腕を掴まれて、そのまま教卓に並べられた。
どうやら、私が直接説明した方が、早いらしかった。
私は、いつも通りに学校へ通った。
「あ……玉ノ井、おはよう!」
「おはよう!」
「おいおい……お前の顔で、学ランは似合わないって。」
「放っといてよ……寒いし、こういう時に学ランって便利なんだから。」
「『便利』とか考えたことも無えよ……制服って、不便でウザいってのが定番だろ?」
色んな服が好きな私からすれば、NGワードだ
しかし、男子には、そういったのは関係ない。
寧ろ、服が嫌いなのではと思うほど、無頓着な人間が多いのも知っている。
「あのね……それじゃあ、一つ制服の豆知識。」
「何だよ?」
「セーラー服の女子って好き?」
「……他の女子より、お前が一番似合いそうな。」
毎度、男子からは、こういったことを言われるのだ。
嬉しくないと言えば嘘だが、正直なところ、引いてしまう。
一応、自覚はしているのだが、クラスの男子の多くにとって、『私は都合良くベタベタ触れる便利な女子』という位置付で見ているらしい。
これでも出生届の性別が同じなのかと思うと、残念で仕方がない。
「よしなさい……傍から見たら、今の発言は只のスケベ男子の戯言だけど、同じ学校の生徒が聞いたら、別の意味の変態になるよ?」
「遠慮しとく……でも、セーラー服は萌えるよな。」
「そのセーラー服って、元は男性の水兵の制服で、水中で破って脱ぎやすいように設計されているのよ。」
「破って……違う方向へ想像すれば嬉しいけど、まんま想像すると……おえぇええぇっ‼」
男子生徒は思いっきり吐いた。
マンガの誇張表現で描かれてはいるが、現実で会話を想像して本当に吐くのを見るのは、初めてだった。
どれだけ想像力が豊かなのだろう。
ほとほと感心する。
まあ、話題はしくじった。
「あ……失敗☆」
「『失敗☆』じゃないっ……何てことしてくれてんだ‼」
「………逃げろ~っ‼」
「あ……待て!」
こんな感じで、下らないやり取りをして、偶に登校中に鬼ごっこ染みたこともして、頻繁に教室の内外で女子会もやって、といった他愛もない日常を楽しめるのは、恐らく今日の現在だけだろうと、私は深く噛み締めた。
同時にワクワクもする。
あの日に教室で読んでいたのは、横溝正史の『犬神家の一族』だった。
『犬神家の一族』は、多くの人は子ども時代にプールで逆さまになって、足をY字に開いて浮上するネタで馴染みがあるかもしれない。
しかし、この作品の凄いところは、登場人物の殺害方法のインパクトだけではない。
当時のミステリーからは、想像もできない犯人像と、犯人のその後である。
当時のもので、人物が成り代わっているというのは、かなり斬新だったと言える。
そういった手法のミステリーは、現代だと至って定番となっているが、特に、この作品が切っ掛けになっていると言っても、過言ではないだろう。
その後は、犯人が金田一や警察の目を盗んで、早朝に逃げるのではなく、入水自殺をするという結末なのだから、余計に奇抜で先進精鋭な作品だったと思われる。
こういう作品たちを読んでいると、自分も推理がしたくなって、何となく登場人物になり切って、事件を解決できる気分になってくる。
……しかし、いざ現実に、それになってしまえば、それがどんなに過酷なものなのかを、未だ活動を開始すらしていない状態でも、犇々と痛感してしまう。
教室に着き、親友の席を確認した。
未だ登校していないようだ。
遅れて担任が入室した。
「はーい、今から大事な話をするから、席に着けーっ!」
「おはようございます。」
「お、玉ノ井か……丁度いい…隣で昨日のことを説明してくれ。」
私は強引に二の腕を掴まれて、そのまま教卓に並べられた。
どうやら、私が直接説明した方が、早いらしかった。
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