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序章

1話 自己紹介とともに

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私の名前は玉ノ井一花。
一応、性別は男の子となっている。
この表現から分かるように、私は性別違和の人間で所謂ジェンダーレス、Xジェンダーと言われる人間である。
その所為というのもあって、小学生の頃から酷いいじめに遭っていた。
逃げるために、学校の担任とも相談して、校長先生と同伴で授業中であっても図書室に逃げるように対応をしてもらい、そこから自然と沢山の本に囲まれる生活を送り、その内に自分も本が好きになって、何れ生活の一部となっていた。
そのお陰で、国語と理科の成績は略満点。
しかし、その所為でも激しい妬み嫉みで虐めは苛烈を極めて、遂に主犯格は中学で厳しい校長先生の目に留まり、滔々停学処分とその後の卒業までの期間を厳しい監視体制の中で過ごすということになった。
高校生になってからは、周囲も少し大人ぶってみているというだけあって、ああいった幼稚な理由の虐めは無くなっている。
第一、今の世の中にはジェンダーレスは当たり前の存在で、その他にも普通に同性愛者やサイレントの性別違和が多くいるのだ。
そんな中で虐めや差別をしようものなら、学校での居場所は一気に消え去るだろう。
そういうことで、今は教室の自席で静かに読書に勤しんでいる。

「おーい、一花~!」
「ん…何?」
「また足開いてるぞ?」
「え?……あ、やばっ‼」
「もう……服装を考えなさいよ⁉」
「あはは…ごめんね?」
「別に謝る事じゃないでしょ?」

こうして、女子との会話が多く、少し寂しいのは男子が話しかけてくれないこと。
というのも、私は今、女子の制服で投稿している。
髪も長く、セミロングぐらいに伸ばしている。
つまり、見た目は完全に女の子に近いのだ。
……というより、みんなは私のことを完全に女子として扱っている。
ただ、冬の時期になると上から学ランを羽織ったり、男子のズボンを履いたりして結構ちぐはぐな服装になるので、男子はかなり戸惑っているようだ。
さっきも私が足を開いていたことで、数人ほど遠目から覗いていたらしく、見渡した瞬間に目を逸らされた。

「本当……芽衣には、この服装のことで助けられっ放しだよ。」
「その代わり、アンタには服選びでお世話になりっ放しだけどね。」
「いっそのこと付き合っちゃう?」
「……アンタのジョークはどのレベルで受け止めたらいいの?」
「え?…今の本気にしてもよかったのに!」
「いやいや、一花を男としては見れないよ?」
「でも、生まれてきた体は男の子だよ?」
「それでも、今のアンタは女の子よりだよ!」
「もう、意地っ張り。」
「何の脈絡もなく、文法を無視して言うな!」

ピンポンパンポン

親友の赤塚芽衣といつもの会話をしていると、校内放送のチャイムが普段よりも大きくスピーカーから流れて、耳を突き刺した。

「緊急放送です……2年A組の赤塚芽衣さん、至急職員室に来てください。繰り返します…赤塚芽衣さん、大至急職員室に来てください。」

不穏な声とともに流れた自分の名前に親友の顔が青ざめていた。

「私……呼ばれたんだけど?」
「一緒に行くから、早く行こう!」
「え…怖い……。」
「いいから、泣いてる場合じゃないって!」

私は目の前に立っていた覗き犯の一人の手を強引に引きながら、親友の背中を擦って職員室に向かった。
その先で、自分の日常が崩れ去ることも知らずに。
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