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不穏な学園

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 その日、アリス・フローゲンハイトはずっと不機嫌だった。
 学園に登校して自席へ着席をしても、ずっと口を尖らせて周りに対して今日は不機嫌であることをアピールしていた。

 それもそのはずである。今日はアリスにとって忘れてはならない嫌な授業がある日だったのだ。

 ゆえに学園へ向かう途中の馬車で今日の授業割を思い出してからずっと無理矢理不機嫌そうなオーラを醸し出しているのだ。

「あら、アリスさん。今日はいつにも増して不機嫌そうね」

「なによ、リリス。何か用なの?」

「いえ、天才のアリスさんに一言挨拶をと思いましてね。聞きましたわよ。今日の実技で試合をなさるそうね。お相手はご友人のキャロさんでしたっけ? 天才のアリスさんでしたら落ちこぼれのキャロさんに負けるはずはないですわ。頑張ってくださいまし」

 リリス・アーノルド。
 アリスの同級生でアリスの再従姉妹はとこにあたる人物である。

 アリスの祖母とリリスの祖母は実の姉妹であるがかなり仲が悪く、その影響で孫である2人も仲があまりよろしくなかった。

 しかし、貴族令嬢という看板の下では表だって対立することはなく、顔を合わせる度に遠回しな嫌味を言い合う程度にとどまっていた。

「そうね、ありがと」

 機嫌がすこぶる悪いアリスはそう素っ気なく言葉を返すと視線をリリスから外した。

「アリスさん! いくら、リリスさんの再従兄弟はとこだとしても無作法ではありませんか!」

「そうですわ、貴族令嬢としてはあるまじきお言葉ではありませんこと?」

 リリスの取り巻きが何かわめき散らしているがアリスは完全無視だ。
 というかアリスはリリスの取り巻きの名前どころか顔すらまともに覚えていない。

 リリスも取り巻きたちには辟易しているのか、彼女たちの言葉を遮るとふんっと鼻を鳴らして立ち去った。

 何だかんだ言って二人は生まれた頃からの付き合いである。
 アリスの不機嫌オーラを感じ取ったリリスはそのまま取り巻きたちと談笑に入った。

「アリスちゃん、ごめんね。私がドジで」

 不機嫌そうなアリスへ親友のキャロ・バークスが申し訳なさそうに声をかける。
 アリスは成績優秀なため実技での試合を免除されていた。

 ……のだが、友人であるキャロが落第してしまい、さらにはクラス全員に試合で敗北するということになったため、唯一、試合をしていないアリスが矢面になったのだ。

「あんたは悪くないわキャロ。悪いのは全部、あの性悪教師なんだから」

 キャロが落第したのは決してキャロが悪いわけではなかった。

 運動音痴でステータスも低く、スキルを一つも持っていないキャロはこの学園のヒエラルキーの最底辺であり、ヒエラルキーのトップに立つリリスたちにとっての恰好の良い獲物だった。

 つまるところ、キャロはリリスたちの妨害によって落第してしまったのだ。
 いつもなら親友であるアリスがキャロを庇うのだが、起きたのがアリスのいない実技の授業だったため庇えなかった。

(本当なら、今日は休むつもりだったのよ……)

 そうアリスは口をぎゅっと噛み締めた。
 いくら、キャロのためとはいえ、実技の授業に出ることはアリスにとって想定外のことなのだ。
 下手なことをすればレベルが1であることがバレてしまう。

 レベル1でも覚えられる魔法や簡単に取得できるスキルはすべて覚えているが、レベルの違いは格の違い。

 どんなに天才でも、どんな努力家であっても格の違いを埋めることは一朝一夕ではないのだ。

 とくに装備品……武器や鎧はレベルが足りないといくらステータスがあっても装備できない。
 レベルに左右されないスキルや、魔力量によって扱える種類が決まる魔法だけではどうしようもないのだ。

(それもこれもセバスチャンのせいなのよ!)

 怒りの矛先はいつの間にかセバスチャンへと向いていた。
 昨夜、セバスチャンは秘密の特訓によって死んだはずなのに、今朝ピンピンとしていた。
 本人は疲れがスッキリとれたとか言ってるからさらに謎が深まるばかり。

 実はセバスチャンは既に死に、ミジンコ神のタマちゃん様によって復活し、中身が山田太郎に代わっていることなんてアリスは知る由もなかった。

 今日のことを思ってアリスは深くため息をついた。

「……はぁ、帰りたい」
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