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従業員を雇おう
しおりを挟む病気を治すポーションの販売を始めてからというものの俺のポーションショップは大繁盛している。
ひっきりなしに客は来るしポーションの生産が追いつかず売り切れになることも多い。
特に売れ上げが高いのは回復のポーション、元気になるポーション、栄養ポーションを始めとした基本ポーションと病気を治すポーションだ。
これらの生産に追われて新しいポーションを研究する時間なんて取れない。
そろそろ本格的に工房の拡張を考えないとな。
それぞれの生産量が日に数十本程度だし、ポーションの生産ももっと効率化したい。
「というわけで従業員を増やそうと思うんだ」
「たしかにそうよね。レアも店番大変みたいだし……」
「お姉さま。わたしは大丈夫なのです」
ほぼ一人でこの店を切り盛りしているからレアには頭が上がらない。
やっぱり賃金を……という話を以前にもしたが断られた。
代わりにポーションの現物報酬の数を増やしてほしいとのことだったのでそうしたのだが、シア達はポーションを何に使ってんだろう。
「大丈夫じゃないだろ。客が少なかった頃ならともかく今は朝から晩まで出るのは身体が持たないだろ」
「エルロット。わたしはだいじょ――「大丈夫じゃないわよ、エルロットのいう通りにしなさい」……了解ですなの」
とひと悶着あったものの従業員を増やす方向性で決まった。
問題はどこでどんな人を雇うかだ。
「うーむ。にしても人を雇うにはどうすればいいんだろう」
「冒険者だったらギルドで斡旋できそうなものだけど、欲しいのは普通の従業員だよね。レアは何か意見ない?」
「奴隷市場ならある」
「そうか、奴隷か……」
奴隷を雇うというのも方法の一つだ。
帝都では奴隷は一般的だし、いろんな人材を探すなら奴隷のほうが見つかりやすいとも聞く。
この際、奴隷を雇うのもありかもしれない。
「よし。奴隷市場に行ってみるか」
こうして人生初の奴隷市場へと向かうことになった。
帝都の貧民街から中心へ向かうと冒険者ギルドなどがある大きな通りへと出る。
通りを真っ直ぐと進みもうすぐで貴族街だと言うところで右折。そこからほんの少し歩くと奴隷市場のある広場へと辿り着く。
帝都の奴隷市場は世界一だ。広場には沢山の奴隷商が移動式の天幕を張り、沢山の奴隷たちが並べられていた。
「ここにいるのは肉体奴隷ね」
「肉体奴隷?」
聴き慣れない言葉がシアから飛び出た。
どうやら、奴隷にも種類がいるらしい。
肉体奴隷は奴隷の中でも最もポピュラーな奴隷らしい。
どんなに厳しい労働でもこなす彼らはお金を稼ぎたい一般人や元犯罪者が多くで大体がムキムキの男性だった。
「なんか暑苦しい奴ばっかだな」
「ええ、彼らは鉱山とか荷物運びとか体力仕事をするのが一般的なのよ」
「なるほどな……じゃああの人らは?」
「商業奴隷ね。会計とか商業に必要な能力を持っている奴隷よ」
専門知識を持ってる奴隷までいるのか。
会計とかまったくわかんないからああいう奴隷にショップを任せてもいいかもな。
そう思って値札を見るとあらまびっくり。
目に入った奴隷でも金貨30枚。とてもじゃないが払える金額ではない。
「な、なぁ……高くないか?」
「当然ね。専門知識を持った人はその分高いのよ」
な、なるほど……。
想像してたのとはちがう。
今回一番ほしいのは接客ができる奴だ。
ムッキムキの肉体奴隷は論外だし、商業奴隷だとオーバースペック。
もうちょっと違う奴隷を探そう。
とりあえず、市場をぐるりと周ってみる。
冒険奴隷に料理奴隷、魔法が扱える魔法奴隷。実にさまざまな奴隷がいる。
しかも、彼らは生き生きとした顔だ。中にはこちらに手を振るような人もいる。
ってか奴隷ってこんなにいんのかよ。魔法が扱えるなら奴隷になる必要もないだろ。
そのあたりについてはシアがいろいろと知っていた。
「奴隷のほとんどが契約奴隷だからね。1年とか5年間、奴隷になる代わりにお金をたくさんもらえるのよ」
身体を張るような肉体奴隷や冒険奴隷はともかく、それ以外の奴隷は普通に働くよりも好待遇なことが多いらしい。
それに得意な仕事だけをやればいいから、料理奴隷なら料理を魔法奴隷なら魔法をそれぞれ頑張るだけでよい。
デメリットがあるとすれば自由な時間が取れないことくらいらしい。
「しかし、そんなに金は持ってないぞ」
「……あっちに安い奴隷もいる」
「レア。いいの?」
「コクリ」
広場から外れた路地。そこも奴隷市場の一部らしい。
先ほどまでの喧騒は遠のき薄汚れた印象がある。
その中の一角にその店があった。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
いかにも胡散臭そうな男の店員に連れられて店内へと。
その店は広場にあったような陽気な雰囲気はない。
奴隷たちは皆うろんとした瞳で虚空を見つめ、活気がまったくない。
「ここの奴隷は全奴隷よ」
「全奴隷?」
「どんな仕事でもこなす奴隷のことよ。広場にいる奴隷と違って借金とかで奴隷になった人たちよ」
広場にいる奴隷たちは犯罪奴隷を除いて自ら奴隷になった人が多いそうだ。
そして、ここにいるの奴隷たちは借金などで奴隷になってしまった人のようだ。
専門技術を持っていないことが多く、お値段も安い。
「お探しの奴隷はどのような奴隷でしょうか?」
「ええと、お店で接客をしてもらいたいんだ。愛嬌のある人が良いかな」
「なるほど……そういったご用途ですか。でしたら、こちらの奴隷たちが良いでしょう」
そういって案内され紹介されたのは年端もいかない少女ばかりだった。
無理やり笑顔を作っているような子に懇願するような目つきでこちらを見ている子。
奴隷という身分から抜け出したい。そう思っているのだろう。
全員を見回していると一人だけ様子のおかしい子がいた。
他の子たちが必死に自分をアピールする中で一人だけつまらなさそうにそっぽを向いている赤い髪が特徴的な子だ。
「……決めた」
特段、決め手となるような要素はまったくなかった。
ただ単にその子が気になっただけだった。いわゆるフィーリングというやつだ。
「お客様お目が高い。こちらの奴隷は――」
俺が指名すると商人が淡々とその子がどういう子なのか説明した。
説明には嘘も混じっていただろう。誇張された表現ばかり使うので商人も売るのに必死の様子。
俺は適当に相槌を打つと購入する意思を示した。
「ありがとうございます。では早速準備をさせていただきます」
残念そうにこちらを見ている他の子には申し訳ないけど。俺にはこの子が気になるのだ。
とりあえずこれで従業員は確保した。
ショップに戻ったら店について教えないとな。
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