7 / 27
7話
しおりを挟む
それはそうだろう。剣をずっと続けている令嬢など少なくともこの周辺では自分以外に聞いたことがない。イーディスも転生前のことを思い出さなければ剣など触れもしていなかったかもしれない。
ずっと真面目に剣を続けるイーディスに対し、最近とうとうランスが折れてくれ、困惑しつつもようやく面と向かって教えてくれるようにはなっていたが、どうしたって当たり前ではないのだろう。今もレナードの近くにいたランスは「王子相手に言いやがったな」とでも言いそうな顔でイーディスを見ている。
レナードはぽかんとした顔でイーディスを見ていたが少しすると気を取り直してきた。そして笑いかけてくる。
「イーディスはすごいね。かっこいいだろうね」
「危ないからやめろとか女の子が何をしているのかとか言わないの?」
「うーん、危ないならやめて欲しいけどランスが止めてないなら危なげなく剣を振ってるんじゃないかなと思って。女の子が剣を握るのは確かに珍しいけど、イーディスはきっと剣ですら似合いそうだよ」
「おい、俺は三年もの間賛成してなかったんだ。最近ようやく渋々認めただけだぞ殿下」
「そうなの? でも渋々でも認めたならイーディスはちゃんと剣を扱ってるってことだよね。あと僕に対して偉そうな話し方するくせに殿下っていうのむしろ馬鹿にされているようにしか聞こえないからどっちかに統一してくれない? というか敬語じゃなくていいから前みたいに名前で呼んで」
「何言ってんだ。最後に残した敬意だろうが」
「待って、じゃあ殿下呼びなくしたら僕は側近予定の幼馴染から敬意ゼロで接されることになるのか?」
確かに王子と側近となる家来の会話ではないだろうなとイーディスは聞きながら思っていた。ただ、変にかしこまったやり取りよりもこういった気安そうなやり取りのほうがイーディスとしては見ていても落ち着くというか、好きだなと思う。すでに第一王子であるジュードについている側近のビリーはエレンの幼馴染でもあり、ジュードの従兄弟であり親友でもあるとレナードからも聞いているが、イーディスが見かけた時はいつもジュードに対して敬語で自然に接していたように思う。もしくはランスも実際側近となれば接し方も変わるのだろうか。
「安心しろ、側近になればちゃんと外面だけは取り繕うから」
外面ね、とイーディスは内心苦笑した。
「全く安心要素でないけどね。で、イーディス。何故僕に騎士になりたいとか言ってくれたの? 心を許してくれたから? 僕を受け入れてくれたから?」
微妙な顔をランスへ向けた後、レナードはそわそわとイーディスを見てきた。
「そんなこと、浮かびもしなかった」
「そっかぁ浮かびもしなかったかぁ……」
「そうじゃなくて、レナードにも教えて欲しいなあって思って」
「……え? なにを」
「剣を」
「えー……。ランス。僕はどうしたらいいの」
「教えてやらない、絶対嫌だ、と」
「……そう言った僕はイーディスからどんな対応を受けるんだ」
「なら結構よと冷たくされるんじゃないか?」
「ランス。僕の想いを知っていてそういう冗談を言うのは感心しないな」
「殿下には命をかけて側につかせてもらうけどな、それとこれとは別。俺の妹にちょっとでも変なことしたら殿下の殿下を串刺しだからな」
「お前本当に僕の親友で側近になる人なの……あとイーディスの前でわからないだろうからってそれこそ変なことを言わないでくれない? 第一僕ほど紳士なやつなんてそういないからね!」
十三歳の令嬢にはわからないだろうと二人は、特にランスは安心した上で馬鹿な話をしているのだろう。しかしこちとら前世を含め未経験ながら知識だけは十分過ぎるくらい豊富なんだぞとイーディスは内心微妙な顔で思っていた。とはいえ男子たるものつい馬鹿な話をしてしまう気持ちもわかるので「あら、どんな話をなさってたんです?」なんてからかわずに聞かなかったことにして流しておく。
「レナード」
「な、なに? イーディス」
「教えてくれるでしょう?」
「う……」
「私ね、剣を振るのがすごく楽しいの。それに騎士にずっと憧れてたの」
演技ではなく本当に楽しげに口にしたイーディスを、レナードは戸惑った顔で見てくる。もう一押しだろう。
「レナードに教えてもらったらますます楽しいだろうなって思って」
「やる」
よし。
「本当? 約束だからね。ありがとう、レナード」
「あ……、つい……」
「はぁ……ったく、ディー。俺が教えてやっているだろう?」
「ランスお兄さまに教えてもらうのも楽しいしありがたいのだけど、忙しい時もあるでしょう? レナードがここへ遊びに来るついでに教えてもらえたら丁度いいかなあって思って」
ニコニコと言うイーディスに、ランスはもう一度ため息をついた。だがその後にイーディスをそっと抱きしめてくる。
したいようにさせておいたらその内ランスはイーディスを離し、レナードをじろりと見た。
「おい、殿下。ディーに怪我でもさせてみろ。それこそ串刺しどころかただではおかないからな」
「お前本当に僕の親友で側近になる人なのか……?」
ずっと真面目に剣を続けるイーディスに対し、最近とうとうランスが折れてくれ、困惑しつつもようやく面と向かって教えてくれるようにはなっていたが、どうしたって当たり前ではないのだろう。今もレナードの近くにいたランスは「王子相手に言いやがったな」とでも言いそうな顔でイーディスを見ている。
レナードはぽかんとした顔でイーディスを見ていたが少しすると気を取り直してきた。そして笑いかけてくる。
「イーディスはすごいね。かっこいいだろうね」
「危ないからやめろとか女の子が何をしているのかとか言わないの?」
「うーん、危ないならやめて欲しいけどランスが止めてないなら危なげなく剣を振ってるんじゃないかなと思って。女の子が剣を握るのは確かに珍しいけど、イーディスはきっと剣ですら似合いそうだよ」
「おい、俺は三年もの間賛成してなかったんだ。最近ようやく渋々認めただけだぞ殿下」
「そうなの? でも渋々でも認めたならイーディスはちゃんと剣を扱ってるってことだよね。あと僕に対して偉そうな話し方するくせに殿下っていうのむしろ馬鹿にされているようにしか聞こえないからどっちかに統一してくれない? というか敬語じゃなくていいから前みたいに名前で呼んで」
「何言ってんだ。最後に残した敬意だろうが」
「待って、じゃあ殿下呼びなくしたら僕は側近予定の幼馴染から敬意ゼロで接されることになるのか?」
確かに王子と側近となる家来の会話ではないだろうなとイーディスは聞きながら思っていた。ただ、変にかしこまったやり取りよりもこういった気安そうなやり取りのほうがイーディスとしては見ていても落ち着くというか、好きだなと思う。すでに第一王子であるジュードについている側近のビリーはエレンの幼馴染でもあり、ジュードの従兄弟であり親友でもあるとレナードからも聞いているが、イーディスが見かけた時はいつもジュードに対して敬語で自然に接していたように思う。もしくはランスも実際側近となれば接し方も変わるのだろうか。
「安心しろ、側近になればちゃんと外面だけは取り繕うから」
外面ね、とイーディスは内心苦笑した。
「全く安心要素でないけどね。で、イーディス。何故僕に騎士になりたいとか言ってくれたの? 心を許してくれたから? 僕を受け入れてくれたから?」
微妙な顔をランスへ向けた後、レナードはそわそわとイーディスを見てきた。
「そんなこと、浮かびもしなかった」
「そっかぁ浮かびもしなかったかぁ……」
「そうじゃなくて、レナードにも教えて欲しいなあって思って」
「……え? なにを」
「剣を」
「えー……。ランス。僕はどうしたらいいの」
「教えてやらない、絶対嫌だ、と」
「……そう言った僕はイーディスからどんな対応を受けるんだ」
「なら結構よと冷たくされるんじゃないか?」
「ランス。僕の想いを知っていてそういう冗談を言うのは感心しないな」
「殿下には命をかけて側につかせてもらうけどな、それとこれとは別。俺の妹にちょっとでも変なことしたら殿下の殿下を串刺しだからな」
「お前本当に僕の親友で側近になる人なの……あとイーディスの前でわからないだろうからってそれこそ変なことを言わないでくれない? 第一僕ほど紳士なやつなんてそういないからね!」
十三歳の令嬢にはわからないだろうと二人は、特にランスは安心した上で馬鹿な話をしているのだろう。しかしこちとら前世を含め未経験ながら知識だけは十分過ぎるくらい豊富なんだぞとイーディスは内心微妙な顔で思っていた。とはいえ男子たるものつい馬鹿な話をしてしまう気持ちもわかるので「あら、どんな話をなさってたんです?」なんてからかわずに聞かなかったことにして流しておく。
「レナード」
「な、なに? イーディス」
「教えてくれるでしょう?」
「う……」
「私ね、剣を振るのがすごく楽しいの。それに騎士にずっと憧れてたの」
演技ではなく本当に楽しげに口にしたイーディスを、レナードは戸惑った顔で見てくる。もう一押しだろう。
「レナードに教えてもらったらますます楽しいだろうなって思って」
「やる」
よし。
「本当? 約束だからね。ありがとう、レナード」
「あ……、つい……」
「はぁ……ったく、ディー。俺が教えてやっているだろう?」
「ランスお兄さまに教えてもらうのも楽しいしありがたいのだけど、忙しい時もあるでしょう? レナードがここへ遊びに来るついでに教えてもらえたら丁度いいかなあって思って」
ニコニコと言うイーディスに、ランスはもう一度ため息をついた。だがその後にイーディスをそっと抱きしめてくる。
したいようにさせておいたらその内ランスはイーディスを離し、レナードをじろりと見た。
「おい、殿下。ディーに怪我でもさせてみろ。それこそ串刺しどころかただではおかないからな」
「お前本当に僕の親友で側近になる人なのか……?」
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます
天宮有
恋愛
婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。
家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる