王子とチェネレントラ

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37話

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 隼が実家へ帰っているという情報を得ていた凪が、戻ってきたらしい隼の寮へ押しかけようとしたらお伴が増えた。

「……何でお前らまでついて来んだよ」
「そりゃ当たり前でしょ。隼くんに会いにいくんでしょ、だって。俺も会いたいしね」
「鳴海に会いに行くのであってお前についていくわけじゃない」

 そして返ってくる言葉にイライラしながらジロリと二人を睨む。だが和颯と目が合うと、慌てて前を向いてから舌打ちした。
 隼の部屋へ訪れると、隼は入れてくれたが微妙な顔をしてくる。

「なぜそんな顔で俺を迎え入れるんだ」
「……別に何でもありません」
「何でもないことはないだろう」

 凪がさらに言うと隼にため息つかれた。

「……じゃあ言いますが、来られるなら来られるで連絡してくれませんか。いきなり来るの止めてください。俺の携帯に何か勝手に登録してきたくせに、それ何のためなんですか、馬鹿なんですか」
「聞かないほうがよかった」
「あはは。相変わらず隼くんほろ苦だねえ」

 凪が微妙な顔をしている横で氷聖が楽しそうに笑ってくる。

「連絡もしてなかったとは知らなくてな。すまない。あとこれ、よかったら後で食べるといい」

 和颯がニッコリしながら隼に袋を差し出してきた。ドライアイスに包まれた箱が入っている。中を開けると美味しそうなアイスキャンディが沢山入っていた。間違いなくコンビニエンスストアなどで売っているアイスと違ってやたら上品そうなアイスだ。

「いえ、というかわざわざすみません葵部長。ありがとうございます」

 アイスが純粋に嬉しかったのか、隼はニッコリ礼を言う。和颯は「いえいえ」と微笑むと屈んで隼の額に軽くキスした。

「てめぇ! 土産という抜けがけだけじゃなく俺のものに何してくれてんだ!」
「カズのやり方だよねーほんっとカズ」

 途端凪は勢いよく怒り、その横で氷聖が白い目を和颯へ向ける。その上、今までいたことも知らなかった雅也が無言で隼の前に立ち塞がり、和颯を睨んできた。
 和颯は全然気にした様子もなく「お邪魔します」とニコニコ中へ歩いていく。

「俺は俺のものであって雪城先輩のものじゃありません」

 額にキスされた隼はそれよりもアイスが溶けることを気にして淡々と言いながら台所へ向かいだした。

「お前は相変わらず何て言うか……!」
「ていうか狼くん、いたんだ?」

 凪がまた微妙な顔で隼の後について行こうとしている横で、氷聖がニッコリ雅也を見る。

「いるっすね」

 今度は氷聖を睨みながら、雅也は素っ気なく答えてくる。そんな様子を黙って見た後で氷聖は楽しげに微笑んだ。

「手土産本当にありがとうございます。その、俺も一応皆さんへ、実家帰った時にお土産買ってたんですが……」

 テーブルについた凪たちに冷たい茶を出しながら、隼が言い難そうに切り出してきた。雅也は少し離れたところで凪たちを胡散臭そうに見ながら黙って壁にもたれている。

「実家の、ってことはあのプリンか?」

 凪が聞くと「はい」と隼は頷く。

「甘いもの、皆さんあまり食べられるイメージはないんですけど、あれわりと甘さ控えめだし俺は凄く好きなんで……」
「それは楽しみだな」
「隼くんの好きなものを買ってくれるっていうのが嬉しいね」
「前にも貰ったしな。あれなら食えるぞ」

 三人の言葉を聞いて隼はますます言い難そうな表情になった。

「その、すみません。でも食べてしまって……」
「そうか。気にするな、日持ちするものでもないだろうしな」
「隼くんが好きなものなら隼くんに沢山食べて欲しいしね」
「また今度で構わないぞ」

 基本的に自分本位である三人がニコニコ答えるのを聞いて、今まで黙っていた雅也が口を開いた。

「全部俺が食った」

 実際、隼がこの三人にも一応買ってきていると知った雅也はムッとして残りも全部食べてしまっていた。隼も、渡す機会があれば程度に考えていたので、腹立てることもなく仕方ないと思っていたのだが。

「人への土産を食うなどと、この下郎が……」
「躾けのなってない狼くんだよねえ……」
「てめぇ、俺の隼がこの俺に買ったもの何食ってんだよ!」

 途端、三人の態度が豹変する。特に和颯と氷聖は無駄に笑みを浮かべつつ立ち上がり、ムッとしたような表情で黙っている雅也を囲う。

「ちょ、ちょっと先輩方、やめてください」

 むしろ隼が微妙な顔して止めに入っていた。凪はそんな隼と、そして雅也を黙って見ていたが少し考えた後で立ち上がる。そして和颯たちの間から手を伸ばすと、雅也の胸倉をつかんで引っ張った。

「おい、ちょっとジュース買ってくる。お前荷物持ちについて来い」
「ざけんなよ先輩」

 それに対し睨みながら答えてくる雅也に「別に三人にしてもあの二人が隼を襲うわけねえだろが。いいから来い」と構わず引っ張った。多分和颯たちや隼が怪訝そうに見ていただろうが気にしない。
 態度は悪いが頭は悪くないらしく、凪の様子を見て一応大人しくついて来る様子を見せてきた雅也から手を離すと、凪はそのまま出入口のドアへ向かった。
 しばらく黙って歩いた後にちゃんと後ろに同じく黙ったままついてきている雅也を振り返った。

「お前、隼のこと好きなのか?」

 そして単刀直入に聞く。すると今までむすっとした顔をしていた雅也の顔色がみるみる赤くなっていった。その様子は明らかに返事を聞くまでもなかった。

「いつから好きだったんだ?」
「……何でそんなこと答えなきゃならねぇんだよ」
「隼は俺のものだっつってんだろが。その隼と同室のヤツがそういう意味で好きだってんなら色々気にするに決まってんだろ。無茶なことしてないだろうな」

 凪が鬱陶しげに雅也を見ると、何故か雅也は怪訝そうな顔で凪を見てくる。

「あ? 何だ?」
「……アンタこそ何だよ……? アイツの保護者かよ? は! 俺がアイツに無茶する訳ねぇだろ、ざけんな」

 怪訝そうに呟いた後、今度はバカにしたように雅也は凪を見てきた。

「保護者? 俺だって隼のこと好きだぞ、何言ってんだお前。まあ無茶してねぇならいい。それを聞きたかっただけだ」
「……アンタ、俺以上に救い難いな」
「ああ? 何の話だ」

 今度は凪が怪訝に思って言ったところで、寮に近い学校敷地内の店についた。二人は無言で適当に物色した後、飲み物やらちょっとした菓子を選ぶ。
 凪が支払いして店を出ると、先に店から出ていた雅也が振り返ってくる。

「アンタさあ、人好きになったことあんの」
「今現に隼が好きだっつってんだろ」
「……マジ俺より馬鹿じゃね」
「……お前な、先輩に向かってその態度、大人げないと思わないのか?」
「アンタこそ俺より二つも年食ってんだから間違えてんじゃねぇよ」

 呆れて凪が雅也を見ると、むしろため息つかれながら言い返された。

「は?」
「なる……その、隼のこと、どう好きかもうちょっとそのマヌケな頭で考えろよ。まあ俺も偉そうなこと言えねぇけどな」

 雅也は言い終わると凪の持っている袋の内一つを奪い、先にさくさくと歩いていってしまった。
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