王子とチェネレントラ

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24話

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 久しぶりに隼は休日をゆっくり休めているように思えた。ここのところ毎回とは言わないが凪や氷聖によって休日を妨害されている気がしていたのだ。とりあえず午前中は勉強が捗るのでひたすら机に向かっていた。
 昼になり、そろそろ何か作るか買うかするかなと考えた後、ずっと行きそびれていた銭湯を思い出した。

 あれだったら昼ご飯もたまには外で何か食べて……天気がいいし何だったらコンビニでおにぎりでも買って公園で食べてもいいな。そんでその後に銭湯にでも行こうか。

 考えつつ隼が部屋を出ると、丁度起きてきたらしい雅也と出くわした。

「……っなる、おま、いたのか……」
「そんなに驚かれることなの」
「いや、休みとなると最近お前いなかったろうが」

 隼が苦笑しながら雅也を見ると、何故かムッとしたような表情を見せた後、ふいと顔を逸らせてきた。その耳が赤い。
 何故最近よく耳が赤くなっているのだろうなと隼はそっと思った。腹を立てたり驚いたり、とりあえず何らかの感情起伏があった時に多分耳が、たまに顔も赤くなるようなのだが、それこそ最近雅也は頻繁に赤くなっている気がほんのりしていた。

「雅也も基本いないんじゃないの」
「別にそんなことねえ」

 雅也はそっけなく答えた後、少し何やら考えつつ洗面所へ向かっていった。それを見ながら昼ご飯をどうしようか思っていた隼は、そうだと同じく洗面所へ向かう。

「なあ、嫌じゃなければ……」

 ここまで言った後、ふと我に返った。最近当たり前のように夕食などを雅也と食べていたからつい「今から外へ食べに行かないか」と言いそうになったのだが、よくよく考えなくとも毎回一緒に食べる理由は特にない。

「嫌じゃなければ何だよ」

 隼が言いかけて止まっていたせいで、雅也が歯を磨きながら鬱陶しそうな顔で隼を見ている。知らない人が見ればそんな表情で見られるだけで怖いかもしれない。だが雅也にそろそろかなり慣れている隼は、いつもイライラした態度を取ってきたりこうして鬱陶しそうだったり怒っているように睨んでくる雅也が実際のところは全く怒っておらず、むしろ気にしていたり親身になってくれているのだ、くらいはわかるようになっている。
 とはいえたまに変な反応を返して来る時もあるので、わかっているつもりでもまだまだわかっていないようでもある。

「ああ、ごめん。その、ほんと用事なくて暇だったらってことだけどさ。俺、今からぶらぶらと外出かけようかなって思ってたんだ。だからもし暇だったら昼、一緒に外でどうかなって思って」

 隼が提案するように雅也を見ると、歯を磨いていた途中の雅也が何故かとてつもなく怒ったような表情をしながら歯ブラシを口から離し、ポカンと口を開けて隼を見てきた。

「え、何」

 そんな雅也の表情に隼もポカンとなる。

「な、に……って、え?」

 相変わらずポカンとしている雅也の口からハミガキ粉混じりの唾液が垂れる。

「ちょ、雅也」

 思わず声が出ると、雅也もハッとなって赤くなりながら手で垂れたものを拭った。そして慌てて洗面のボールに向かい口をすすぐ。
 どうしたのだろうと思いつつ、隼は一旦その場を離れることにした。テーブルの椅子以外は共同スペースに寛ぐ場所がないのでその椅子に座っていると、まだ少しきまり悪そうな雅也がやってきた。

「邪魔して悪い」
「別に……つか、さっきの……」
「ああうん、都合悪かったら……」

 休みの日だし、彼女と出かけるかなと隼は手を振った。

「悪くねぇよ!」
「え」

 途端、雅也がムッとしたように言ってくる。また隼がポカンとすると「あ、いや、わりぃ。その、俺、今日用事ないし……」と、怒鳴ってしまったのがまたきまり悪かったのかそっぽを向きつつ、ますます耳を赤くしながら言ってくる。

「そうなのか。じゃあどうしよう。俺はコンビニでおにぎりかパンでも買って公園で家悪くないかなって思ってたんだけど、雅也はどっか店で食う方がいい?」

 少し楽しくなりながら聞く。自分でもただ外で食べるという行為を誰かとするのに対し、何故気分が上昇するのかわからないのだが、とりあえず隼は楽しい気分になっているのだけはわかった。

「別に。外でいい」
「ほんと? じゃあそこの店で買ってくのと街出てコンビニ行くの、どっちがいいかな」

 楽しい気分のせいで自分でも無駄にニコニコしているのがわかった。気持ち悪いとか言われるかなと隼が雅也を見ると、赤い顔をしてまたポカンと隼を見ている。

「雅也?」
「あ? あ、ああ。じゃあコンビニ」
「了解、財布とか取ってくる。あ、そうだ。俺さ」

 一旦自分の部屋へ戻ろうとした隼は雅也に向き直った。

「何だよ」
「後でそのまま銭湯行こうと思ってんだ。寮の大浴場は落ち着かないから好きじゃなくてさ。でもたまにはゆっくり風呂浸かりたいし。雅也も行く?」
「……っは?」

 隼が聞くと、雅也はとてつもなく嫌そうな表情をしてきた。顔が赤くなかったら慣れている隼ですら本当に嫌なのだろうなと思っているところだ。

「面倒なら……」
「面倒じゃねぇよ!」
「よかった」

 隼は笑いかけるとそのまま自分の部屋へ入り準備した。だから雅也の顔は見ていない。
 その後準備すると二人で外へ出かけた。
 そろそろ暑くなってきており、歩いていると少し汗ばむ。どちらも口数が多い方ではないが、無言になっても隼は落ち着かないということはなかった。その辺は普段たまにそわそわしだす雅也も同じようで、お互い無言でも気にせず歩く。
 おにぎりやパンを買って公園で食べる時も、部屋にいる時のようにたまに喋る以外はお互いぼんやりしていた。

「そういえば今日は彼女と遊ばないの?」

 食べ終えた後、ペットボトルの茶を飲みながら隼が聞くと、できますその時はジロリと睨まれた。

「何で」
「いつも行ってるから?」
「別にいつも行ってねぇよ!」

 ムッとしたような言い方だが本当に怒っているのでないのをわかっているので、隼は「そう?」とただ首を傾げる。

「他の友だちのとことかも行ってる……」
「ふーん」
「……んだよ、聞いておきながら興味ねぇ返事だな!」
「えー。何だよ。すげぇなっとか言えばいいわけ?」
「それはそれでうぜぇ」
「だろ」
「っち。……、……あれだ、最近はあんま彼女に、その、会ってねぇ……」

 少しきまり悪げに言ってきた雅也を隼は見返した。

「……何だよ」

 雅也は睨んできた後、顔を逸らす。
 隼はそういうことに関しては何とも思わないが、雅也はもしかしたら少し落ち込んでいるのかもしれないと隼は思った。

「別に。風呂、行く?」
「あー、おお」

 銭湯は特に大きなものではなかったが、気持ちのいい湯だった。隼が好きな感じの銭湯だと思った。とりあえず最近銭湯へ行けてなかったので、密かにわくわくしながら服を脱ぎ入ろうとしたら雅也は何故かまた赤くなって服を着たままだった。

「どうしたんだ?」
「別に! すぐ行くし先行ってろよ……!」
「? はいはい」

 雅也の反応を気にも留めず、隼は笑いながら浴場へ向かった。その後浴場で、先ほど落ち込んでそうだったので「背中洗ってあげるよ」と言うと、雅也は入ってきたばかりなのにすでに茹ったかのように真っ赤になっていた。
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