闇に光を

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 何故そんなに好きなのかと考えたことは何度もある。蒼羽は唯翔を元々弟として好きだったはずだが、身内として好きなのと恋愛対象として好きなのは全然違うものだ。何か境目というか、決定的なものがあったのだろうかと考えてみるが、わからない。
 自分は実際のところ頭は悪くないはずだ。なのに何故わからないのかもわからない。
 以前高人に聞いたことがある。

「お前たまに俺のこと馬鹿扱いするけど、俺って本当は馬鹿じゃないよな?」
「何の話だよ」
「ほら、テストはいつもそこそこいい結果だし、馬鹿やりつつも勉強はそれなりにできるはずだろ」
「だから何の話」
「いや……わからないことがあって……」
「何?」
「……それが……わからないこともわからなくてさ……」
「……全然伝わってこないけど、一つだけ俺にもわかることがあんぞ」
「よし、教えてくれ!」
「そーゆーとこだよ。お前がバカなの」
「話にならねぇ……!」
「お前がな」

 そもそも「俺、弟に恋愛感情もっちゃってんだよね」などといくら高人であっても言えるはずもない。よって、どういうきっかけでそんな感情を弟に持ってしまったのか、を高人に相談する訳にはいかない。
 だからまずはひたすら「わからない」のオンパレードである自分の頭は本来悪くないということだけでもはっきりすっきりさせる。そこからだと思っていたのだが、駄目だった。
 とはいえわからないことだらけという訳でもない。明確に言える好きな部分はある。
 唯翔そのものがもちろん好きだ。ただ、そんな中でも特に自分に刺さるというのだろうか。
 伏し目がちの瞳が好きだ。大人しく控えめそうでいて儚げにすら見える。その目線が不意に上がると思いがけず意思の強そうな真っ直ぐな視線だったりしてドキドキとする。
 低くて落ち着いた声が好きだ。わりと見た目通りでもあるが、それよりもさらにしっかりとした、どこか安心感すら覚える声をしている。
 見た目に反した優しいところが好きだ。唯翔は一見素っ気なくて冷たそうに見える。いいように言えばクールな感じだが、悪く言えば取っつきにくそうな第一印象を与えていそうだ。しかし確かに素っ気ないが、実際はとても優しい子だ。
 昔みたいに必死になって蒼羽の後を追いかけてはくれなくなったが、優しいところは変わらない。少し不器用でもあるが、この点は兄でよかったかもしれない。唯翔のわかりにくい優しさも蒼羽にはよく見える。

 ……何だろな。弟として好きだったけど、こういったギャップにじわじわと俺、やられてったのかな。

 何故男である弟が好きになってしまったのかは結局明確な答えを出せなかったが、そう結論するしかなかった。
 男を、しかも血の繋がった弟を好きになるなんて特殊でしかないと思っていたが、案外普通の理由なのかもしれない。むしろ普通過ぎて好きになるしかなかったんだろうと蒼羽は自分の中で納得することにした。そうしないと自分がただの変態なのではと思いかねない。
 その後戸惑ったのは一人で抜く時のネタだろうか。好きだと自覚したのは自分が中学三年の頃だが、蒼羽なりに悩みに悩んだ挙げ句にネタにまでしようと考えられるようになったのは高校に入ってからだ。
 何に戸惑うかというと、唯翔そのものというのだろうか。蒼羽は女性相手ではあるが経験もあるし、そもそも男として行為には自分の息子を使ってあげたい。だがいくら恋愛感情を持っているとはいえ大切な弟相手に自分のものを突っ込むという行為を想像しようとしたら興奮半分、鎮静半分といった感じの相反する感覚に襲われ、最終的に萎えた。
 インポ再来かと戦いたが、勃つには勃つ。
 では自分が受け入れる側になればいいのかと想像しようとしたが、なにぶんそちらの経験はないのでピンとこなくていまいち興奮しきれない。昔から国語より数学のほうが得意である蒼羽にはあまり想像力は養われていないのかもしれない。
 結局、何かふんわりとした感じでいつも抜く感じになった。ただそれでもそれなりに満足できるのはやはり唯翔が大好きだからだと思う。
 だがそんな大好きな弟は蒼羽を殴り、出ていってしまった。

「……俺、もしかして嫌われた? ねぇ、嫌われたの……?」

 思わず独り言を呟いた後に蒼羽は無意識に高人に電話をかけていた。

『おぅ』
「何ですぐ出ないんだよぉ! たか、一大事なんだ……! ゆいが出てった……!」
『あー、ここにいる』
「そ、……そうなのか? とりあえずそれならまぁ……よかった……。いや、俺はよくねーんだけども。とりあえず、悪いな……」
『いや、いーけど』
「なぁ、どーしよ、俺嫌われたかも……兄ちゃんだと思いたくねーって言われた……」
『……んなことねーって。売り言葉に買い言葉的なあれだろ』
「まず売ってねーよ」
『まー、お前足りねーもんな』
「頭が……?」
『そっちじゃねーよ』

 電話の先で高人が苦笑している。何が足りないというのか。

「……配慮……?」
『足りないのか?』
「や、俺が聞いてんだけど」
『とりあえずユイはここにいるし、お前は具合悪いんだろ。寝とけ』

 唯翔が気になって眠れるはずがない。だが実際まだ気持ちが悪いのも事実だった。

『大丈夫だ。ちゃんと帰してやるから』
「ん……わかった」
『じゃーな』

 電話が切れた。しばらくぼんやりと「ツー」というダイヤルトーンを聞いていた蒼羽はようやく自分も電源ボタンを押した。そしてふらふらとしながら食器を洗うと自分の部屋へ戻る。とりあえず母親が言っていたようにエアコンをつけてドライに設定した。
 出ていったその足でどこかへ遊びに行ったり友だちのところへ行くのではなく、すぐ近くに住む幼馴染みとはいえ蒼羽の親友でもある高人のところへ行く唯翔がかわいいと思う。

 ……たかの様子だと、俺、ゆいにマジで嫌われたって訳でもないんかな……。

 だったらいいんだけどと思いながら、蒼羽はうとうととしてきた。眠れるはずがないと思っていたが、具合が本当によくない上に薬も効いてきたのだろう。気づけば眠りに陥っていた。
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