銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第五章 帰還

150話(終)

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「何か変?」


「いや、何でも。ただ僕らの時と違って、カダンは随分優しいなと思ってね。僕たちの時は、ちょっとずつじゃなんて配慮はなかった」


 カウルとルイは、自分がどれだけの衝撃を受けたか孝宏に言い聞かせた。

 孝宏の体験よりも悲惨だったと。身内だからか遠慮がない分、激しい魔力の圧に死ぬかと思ったと、自身の体験を力いっぱいに語った。


「初めての時、俺は手を握った事しか覚えてなかったぞ。気がついても脳が揺すぶられているみたいでその日は飯が食えなかったな」


「僕は意識はあったけど即効で立てなくなった。あの後熱が出てね、しばらく寝込んだな。まあ、何回か繰り返せばなれるんだけどね」


「ルイは俺よりも長い事特訓してたよな」


「僕はカウルより繊細だからね」


(あれで、優しくされていたのか?そいつは……驚きだ)


 三人の勇者の中でも、一番の落ちこぼれで魔術も満足に使えない。

 彼の落胆ぶりは肌で感じ取っていたし、期待が大きかった分その落差も大きい。

 孝宏ずっと、ひょっとすると、カダンに嫌われてるのかもしれないと思っていた。


「そう意外そうな顔しないでよ。カダンは素直じゃないだけだから」


 孝宏が、もしかすると勘違いかもしれないと僅かに持っていた希望を、皮肉にもルイのフォローが否定した。

 少なくとも自分に対してよそよそしい態度であったのは間違いないようだ、と孝宏は思った。


「苦しかったのはわかる。僕らもそうだった。でもその分、効果は抜群だよ。魔力が濃い分はっきりと感じ取れるからわかりやすいんだよ」


「へ、へぇ。まあ確かに解り易かったかも。ルイの杖で火柱で出したのあの後すぐだし」


 (でもあの後も制御をできてない俺って、もしかして不器用なんじゃ)


「待てよルイ。うっかり聞き流す所だったが、お前タカヒロにこれをしていないのか?マリーにはやっていただろう?」


 孝宏にとっては随分と不公平で、寝耳に水な情報だ。孝宏が批難の目を向けると、ルイは顔面に貼り付けた笑顔でこちらを見ていた。


「あ、いや?たまたまタイミングが合わなくて、する機会がなかったんだ。………………ゴメンネ」


「鈴木さんには?」


 孝宏のルイを見る目は厳しい。

 マリーが特別扱いなのか、それとも自分だけが特別なのか、その差は大きい。出来れば前者であって欲しい。後者だったらきっとしばらく立ち直れないだろう。


「そう考えるとこの三人の中で、一番すごいのは自力で魔法を会得したスズキだね」


 ルイは胸の前で腕を組んで、したり顔で何度も頷いた。孝宏はほっと胸をなで下ろしたが、冗談めかして何とか誤魔化したいルイに、ちょっと意地悪をしてやろうとにやりと笑った。


「ルイってさ、いやらしいのな。訓練建前にして、マリーに触りたかっただけだろ?」 


 ルイの表情が引きつり固まった。肯定したも同然だ。ルイは孝宏の胸ぐらに掴みかかり凄んだ。


「タタカヒロ!?なな、何、根も葉もないことを言ってるのかな!?僕はただマリーの訓練になればって」


「す、け、べ」


「てめっ、その口削いでや……」


「そういや、なんでマリーは静かなんだ?」


 荷物の影に隠れて見えなかったが、マリーは自分のバッグを枕に規則的に寝息を立てていた。

 これほど騒いでも起きてこない所を見るに、寝入っているようだ。

 ルイは気が抜けて浮いた腰を下ろした。どうやらマリーから助平呼ばわりされるのは回避でき、安堵したようだった。


「おい、マリーを起こせ」


 外のカウルが言った。声の調子が嫌に重いのは気のせいだろうか。


「ソコトラが見えてきた」


 遂にソコトラに着いてしまった。ルイにも緊張の色が浮かぶ。孝宏はますます腹の奥がズンと重くなった。

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感想 21

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みんなの感想(21件)

アガサ
2021.01.04 アガサ

髪を結ったり香水を使ったり…無事リフィルナが少年→乙女にジョブチェンジ出来て良かった。
姉・イルナとの確執が溶け互いの幸せを喜ぶ事が出来て良かった。
兄・コルドが渋面→笑顔で祝福してくれて良かった。
両親とは未だ隔たりが有るけれどコチラはどうなるやら。まぁ、お父さん代わりのディルが焼け果実したけど祝福してくるから良いか。
アルディスの呪いが解けて良かった。
フォルスも最後までドタバタしたけどリフィルナから「す、好きです……」の告白を受けて…うん、これは爆発しろ(笑)

リフィルナとフォルス無事二人が婚約出来て良かった。

綴られる物語りはここで御仕舞いだけれど…この先、結婚して二人が末永く幸せに。


とても楽しく暖かい物語、ありがとうございます。


 

2021.01.04 Guidepost

ジョブチェンジできてよかったです。笑いました。
基本暖かい家族が好きで。話の設定上両親だけは残念ですが、よかったと思ってもらえてこちらこそよかったです。あと何気にヤケ果実気に入っていただけているのなら嬉しい限りです。
アルディスは多分とてもいい叔父さんになると思うんですが、肝心の二人が二人だけに父王も(孫がみたい)とヤキモキするほどな相変わらずの二人のままじゃないかと思われます。一応フォルスはいつだって手を出す準備はできているとは思うのですけれども。

楽しく暖かい物語と言っていただけて嬉しいです。こちらこそいつも感想をいただけてとても励みになりました。アガサさん、ありがとうございました!

解除
アガサ
2020.12.31 アガサ

Oh 、場所を変えても菓子に目が行く残念令嬢リフィルナ(笑)
 自分の気持ちを整理出来ずに出たとこ勝負で何とか成ると思ったみたいだけれけど、経験値0だから…まあ、この結果になるのは残当。
 そしてフォルスもテンパって「違う、違うぞフォルス。~(以下略)」←内心で予防線張りまくりが笑える

   どう見てもお似合いの二人だよ。

2021.01.01 Guidepost

見た目は本当に可憐な令嬢なんですけどね。天然だから仕方ないです。
あとこの二人はきっと今後も色々大変だろうと思います。フォルスは恋愛面以外はしっかりとしてるんですけれども。

あけましておめでとうございます。いつも感想ありがとうございます、アガサさん。このお話も残すところあと少しですが、もう少しのお付き合いよろしくお願いいたします。

解除
アガサ
2020.12.30 アガサ

>いっそもう、このまま焼き菓子を堪能して今日はおわろうか。

『色気より食い気』、『花より団子』かよ(笑)
見た目が可憐な御令嬢なだけに残念極まる。
 まあ、それがリフィルナだから仕方ない。ここで『はにゃ~ん』的な目をハートにしてデレたら、「熱でもあるのか?」と心配されそう。

 今回は最後まで『食い気』のリフィルナが笑えた。

2020.12.31 Guidepost

見た目だけなら誰にも劣らない令嬢だと思われるんですが、リフィルナなのではい、仕方ないです。
確かに目をハートにしてうっとり誰かを見ているリフィルナはむしろ正常ではなさそうですね……!

フォルスもアガサさんと同じくつい、笑ってしまってます。とはいえこれでこそリフィルナです。
感想、ありがとうございます!

解除

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