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第五章 帰還

148話

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 リフィルナは自分に微笑んでくれるフォルスを見た。ホッとすると共に改めて自分の気持ちに気づかされて落ち着かなくもなる。何より恥ずかしい。何が恥ずかしいのかと問われたら言葉にし難いのだが、恥ずかしい。
 だが勇気を出さなくては、とフォルスに向き直った。このためにコルドに連れてきてもらったのだ、次にこんな機会がいつあるかわからない。向き直ったもののまたほんの少し顔をそらしながら、拙くていいと言ってくれたフォルスに感謝しつつリフィルナは言葉にし始めた。

「言葉にしたらいいのか、お手紙のほうがいいのか、迷ってしまって……ただお手紙のほうが私の気持ち的には楽ですが、どう書けばいいかわからなくて……」
「楽……ああ……そんな」

 フォルスが何やら呟いた。怪訝に思いフォルスを見ると、片手で目の辺りを覆っている。

「あの、フォルス……?」
「いや、すまない。何でもないよ。気にしないで続けて」
「は、はい。その、簡単に一言で済ませられたらよかったのですが……」

 何か言う度にフォルスが何というのだろうか、どんどん落ち込んでいっている気がする。だが気のせいかもしれない。少なくともフォルスに「大丈夫ですか」と聞くと笑みを見せて「気にしないで。大丈夫。リフィは話を続けてくれたらいいよ」などと返ってくるので、なるべく気にしないように心がける。どのみち自分に集中しないと言葉がすぐに出てこなくなりそうだ。

「だから直接会えば、言葉にしやすくなるかもって思って……。直接会うなんて嫌だなって少し思ったんですが」

 言いながら「落ち着かなくて結局言葉にならないかもしれないから嫌だなって少し思った」と言おうとしていたつもりだったのに焦って言葉が抜けたことに気づいた。まだまだ緊張と焦りが抜けていないようだ。
 落ち着け、と自分に言い聞かせる。やはりディルに来てもらったほうがよかったのかもしれない。ディルをこの散歩に連れて行こうとしたら『私は普通置いていくだろう……』と呆れたように言われた。神獣である竜に対して失礼な言い方になるが、蛇にも呆れられるポンコツっぷりにリフィルナも自分に呆れた。それでもついて来てもらいたかったが渋々諦めた。貴賓室に残っているディルは今頃幸せな気分で果物を堪能している頃だろう。

「その、わ、私」

 フォルスは静かにリフィルナが拙い様子で話す様子を多分見守ってくれているのだろう。もはやフォルスの方を全く見られないためわからないが、相槌がないのでおそらくそうだろうと緊張して破裂しそうな頭の片隅で思った。

「私、えっと、アルがとても大好きなお友だちで……」

 何とか話すのを待ってくれているのはとても嬉しいしありがたいが、シンとした完全無言状態よりはいっそ相槌があったほうがリフィルナも空気抜きができたかもしれない。アルディスと話している時のような助け舟をフォルスに求めるわけにはいかないが、心臓がもう少しで破裂してしまいそうだ。魔物と戦っているほうがまだ平気かもしれない勢いだ。
 もうこのまま逃げて冒険の旅に出たい。
 思わずそう思いそうになる自分を叱咤した。逃げるのはもうたくさんだ。もっとちゃんと相手に向き合っていればきっとどうにかなれたかもしれないと後で思うのは二度とごめんだ。アルディスやイルナが過る。

「で、でももしアルにこ、こく、告白されて、もきっとその、多分、お友だちだからと、その、お断りを、して、しまっただろうな、と、その、アルに相談、さ、させてもらって気づかせてもら、って」

 自分でも何を言っているのかわからない。着地点も行方不明だ。

「でも、でもその、フォルに、言われた、後でその、ずっとわからなくて、どうしていいか、とか、どうすればいいかとか、その、たくさんわからなく、て……でもアルやコルジアに対して抱く、だろう気持ちと、その、違うってあの、気づいて……」

 私の馬鹿。本当に馬鹿。もう何を言っているのか全然わからないよ。フォルにだってこんなの伝わらない。
 見られなくなっていたフォルスをつい、思わず俯き加減の頭をほんの少し上げて見てしまった。すると先ほどまでは不思議な反応をしていたフォルスがどこかぽかんとしたような顔をしている。ああ、やはり何を言っているのか全くわからないから困惑しているのだろうなとリフィルナが少し泣きそうな気持になっていると「……続け、て?」と少し掠れた声で言われた。

 続けて?
 えっと、こんな感じでも、いいの?

「は、は……い。わ、私……」

 そうだ。先に一番大切な言葉をまず言うべきだった。それを言って、多少なりとも余裕ができてから説明すれば今のわけのわからない内容よりはマシになったのかもしれない。

「す、好き、です……」

 だが一番大切な、一番伝えなければならない言葉はほんの少しの綴りだというのに一番気力や労力を必要とした。何とか言葉にした途端、魂も飛び出そうになる。この後に過程や理由などといった何かを述べるのは到底無理だったかもしれない。リフィルナができたことは、また何とかフォルスを恐る恐る見ることだった。
 フォルスはまだぽかんとしていた。だがその顔が一気に破顔したかと思うと眩しいほどの笑顔になった。
 今度はリフィルナが思わずぽかんとしていると、フォルスが立ち上がってリフィルナのそばへ来た。

「……ありがとう」

 そしてリフィルナを抱きしめてきた。
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