上 下
146 / 151
第五章 帰還

145話

しおりを挟む
 翌日の昼頃、アルディスは通信機でリフィルナに連絡を取った。すぐに出てきたリフィルナは『アル……忙しいのでは?』と困惑している。

「昨日の帰り、君に連絡を入れるねって言ったんだけどな。やっぱり覚えてなかったか」
『え? ご、ごめんなさい!』
「いいよ、大丈夫」

 アルディスは笑いながら手を振った。覚えていないだろうなとは思っていた。心ここにあらずだったリフィルナを思い出し、アルディスはまた笑う。

『あの……』
「ああ、こっちこそごめん。確かに今日から本格的に僕も色々と忙しくなるんだけどね、その前に少しだけ自分の時間をもらったんだ。どうしてもリフィルナと話がしたくて」

 実際リフィルナと、本格的に忙しくなる前に話したいと思っていた。それと共に、昨日のリフィルナの様子が気になっていたしフォルスのフォローもしたいという目的もある。

『私にご自分の時間使うなんてもったいないですよ』
「何言ってるの。それよりもリフィルナ、僕に相談したいこと、あるんじゃない?」

 ニコニコと聞けばわかりやすく動揺している。

『な、何でわかったんですか』
「そりゃあ、ね……昨日帰る時の君を見ていれば」
『私そんなに上の空だったんですね。……その……アルに言っていいかどうかわからないんです、でも』
「兄さんのこと?」
『何でわかるんですっ?』

 面白いなあと思いながらアルディスは「双子だしね」と言っておいた。リフィルナがわかりやす過ぎるということもあるが、彼女のいないところでリフィルナについて二人で話していると知れば落ち着かないかもしれないと思ったからだ。それにリフィルナならそう言うだけで納得しそうな気がしたのもある。
 案の定『なるほど……双子ですもんね』などと何がなるほどなのか、すぐに納得してきた。そしておずおずとフォルスとのことを話してくれる。

『私……誰かに好かれるなんて思ったことすらなくて、初めてのこと過ぎてわからなくて……』

 皆、意味はそれぞれ違えども君が大好きなのにね。

「他の人とフォルス、君が持つ気持ちの違いについて考えてみよう」
『気持ちの違い?』
「そうだなあ……自分から言い出すのはちょっとあれだけど、僕のこと、どう思ってる? 僕は君にとってどういう存在?」
『アルは……今回のことも誰かに相談したいなって思った時一番に浮かんだの。アルになら、言ってもいいことだったら何でも話せそう。だって生まれて初めての友だちなんです。とても大切な存在』
「嬉しいな。ありがとうリフィルナ。僕も同じだよ。外での初めての友だちで、そしてとても大切な人だ」

 二人で微笑み合ってから、アルディスは「じゃあコルジアは?」と聞いた。

『コルジアですか? 旅の間、とても頼りになりました。それにとても優しくて。なのにフォルに対しては何だかおかしくて。よく二人を見て笑ったりしてたなあ。楽しかった。お兄さまって感じではないんですが、とても頼りになる人で好きな人です。やっぱり大切な人』

 テント暮らしの時によく作ってくれたスープがとても美味しかった、とリフィルナは楽しそうに話してきた。

「好きな人、か。ねえリフィルナ。もし僕やコルジアが君に対してフォルスと同じように好きだと打ち明けてきたらどう思うだろうか」

 アルディスがそう聞いた途端、リフィルナはとても困惑した顔を見せてきた。

 うーん、友人だからそうなるのもわかるんだけど、ちょっと切ないなあ。

 内心苦笑しながらアルディスは「ごめんね」と謝った。

「困らせたいんじゃないんだ。君の気持ちを整理して、自分の中で把握して欲しくて」
『いえ。えっと……アルのことは大好きだけど……かけがえのない友だちだって思ってるから……それにコルジアも頼れる人だし好きだけど……』
「恋愛としては違う、と」
『は、はい』
「そっか。ねえ、リフィルナ。兄さんに言われて考えてしまうのは、まあ実際に言われたからだってこともあるけどね、あるけど、でもわからないと思いつつ明確に違うと思わないのは何でかな」

 アルディスの言葉に、リフィルナは思い切りぽかんとした顔をしている。思わず微笑んでしまった。

「僕とコルジアのことはすぐ違うってわかったよね? 兄さん……フォルスへの答えはわからないままだったのに。それって、そういうこと、なんじゃないかな」
『そう、いう……?』

 リフィルナはますますぽかんとしている。だが次第にその顔色が赤くなっていった。

「リフィルナ。フォルスは僕にとって本当に素晴らしい兄だ。誰よりも尊敬できる人だ。よく僕のことを優しすぎるって言ってくるんだけどね、僕からしたら兄さんのほうがよっぽど優しいと思ってる。真面目で完璧に見えて、結構不器用なとこもあるけどね、でもそういうところも僕は好きなんだ。とても自慢の兄だよ、リフィルナ。僕からも、どうぞ兄さんをよろしくねって言っておくよ」
『え、あ……え、う……、えっ、と……、は、はい』

 おそらく自分の気持ちを理解しつつもまだ混乱しているリフィルナに笑いかけると、アルディスは「ごめん、そろそろ時間がなくなってきた」と告げた。

「また時間ができれば連絡するね。あとたまにブルーを送るよ。じゃあね、リフィルナ。どうか上手くいきますように」

 通信機を切った後、アルディスは実際に二人がうまくいくことを祈りつつ、微笑んだ。そして自分の部屋を出て執務室へ足を向けた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
*この作品は24hポイントが0になりしだい、公開を終了します。ご愛読ありがとうございました。 アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

処理中です...