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第五章 帰還
142話
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リフィルナはぽかんとした顔で話を聞いていた。その後にそういえばアルディスが忙しくなったと通信機で話していたことを思い出す。多分このことがあったからなのだろうなと思い至った。
とりあえずアルディスにおめでとうを言いたい、とリフィルナは人混みの中気合いを入れてアルディス目がけて歩いていく。王子たちは目立っていたので人に溢れていてもわかった。
ずいぶん近くなるとアルディスのほうからリフィルナに気づいて近づいてきてくれた。
「リフィルナ」
「アル、……ディス王子殿下。おめでとうございます」
「ありがとう。でもこういうことだから、これからはあまり自由に出かけられなくなるんだ。それがとても残念で。旅にも行きたかったなあ」
ふと以前アルディスお気に入りの店で食事をしていた時に「僕も一緒に旅、してみたかったな」とアルディスが言っていたことを思い出した。リフィルナは気軽に「じゃあアルも今度どこかへ行きませんか」などと返していたが、その時にはおそらく話は出ていたのだろう。何となく切なくなる。
「私も残念です。その、こんなことを次期王に言うべきじゃないかもですが」
「うん?」
「もし、忙しいだろうけどもし、機会があれば王になられる前にどこか、行きましょう」
「……ふふ。嬉しいな。是非そうしたい。でもリフィルナわかってる? いくら僕たちはとても親しい友人でも君はご令嬢だよ。女の子。気軽にそんなこと言っちゃだめだよ」
「大丈夫です。もし旅行になるのなら私、少年になるので」
「っあはは! なるほどそれは楽しそうだ」
楽しそうに笑った後、アルディスは「兄さんの許可がでたら是非、ね」とリフィルナに微笑んできた。
「フォルの?」
王位継承を移す場合なにか色んな対応や許可が必要になるのだろうかとリフィルナは首を傾げながら思った。だとしたら思っていた以上に大変そうだ。
話していると他の貴族たちがアルディスの元へ何人もやってきた。アルディスは苦笑しながら変な顔をしてみせて「とにかく、これからは僕も民のためにがんばるよ」とウィンクしてきた。ただリフィルナが何か言い返す前にアルディスは貴族たちに囲まれてしまった。
少し見ているとアルディスは一人一人に対して丁寧に言葉を返している。素晴らしいことなのだが、あれほど身近だった友人がどうしても遠くに感じてしまい、改めて切なく思った。
人が増えてしまったのもあり、リフィルナはそっとアルディスから離れる。少し歩いたところでコルドを見つけたが、コットンと何か話しているところだった。特に険悪な様子は感じられず時折笑みさえ見せているのに気づいて、リフィルナは何となくホッとした。
コットンのことはリフィルナ自身、あの屋敷で暮らしていた時もあまり苦手ではなかった。もちろんほぼ無関心な様子だったのでその面で言うならば苦手だったかもしれないが、他の家族がリフィルナ自身を邪険にしていたのに対し、コットンは大抵のことに無関心なだけでリフィルナだからどうこうという風ではなかったからだろう。
とはいえ話しかける勇気はないのでリフィルナはそのまま移動した。人混みに慣れないのもあり、外の空気が吸いたくなる。庭園へ出ようかと思ったところで、そういえば王の話の後フォルスから庭園へ行こうと誘われていたことを思い出した。少し話したいことがあると言っていたが、フォルスも他の貴族との対応に忙しいのではないだろうか。フォルスを探して見つけたところで声をかけられるだろうかと懸念していると、そのフォルスから声をかけられた。
「フォル、……ス王子殿下」
アルディスにしてもフォルスにしても、つい気さくに名前を呼んでしまいそうになる。自分に微妙な気持ちになっているとフォルスが笑みを向けてきた。
「フォルでいい、とはさすがにこの場では言えない、か」
「気をつけたいんですけど、私ほんとうっかりで」
「じゃあ気さくに呼んでもらえるよう、このまま庭園へ行かないか」
「あはは。はい」
笑ってリフィルナは頷いた。
外へ出て二人で庭園を歩いているとアルディスと初めて出会った時のことを思い出す。あの時はアルディスが第二王子だなどと思いつきもしなかった。フォルスと出会った時も同じように第一王子だと思いもしなかったが。
「あのベンチに座らないか」
ふとフォルスに言われたベンチを見て、リフィルナは笑ってしまった。アルディスとそこに座って話したことが脳裏に過る。あの時はすでに座っていたアルディスに誘われた。つい、さすが双子だなどと思ってしまった。
「どうかしたのか?」
「い、いえ。何でもないんです」
慌てて首を振り、リフィルナはエスコートされてベンチに腰掛けた。
空はもう夕暮れ時になりかかっていて、周りを優しい黄昏色に包み込んでいる。その風景を堪能しつつ、リフィルナはふと、あの頃の自分が今の状況を知ったらどう思うのだろうなと考えた。
友だちどころか誰も知り合いなどいなくて、リフィルナ自身今以上に目立つことを避けていた。丁度あの時はフォルスとイルナの婚約発表もあったのだが、リフィルナは義理の兄となる王子と話すどころか顔すら見る機会すらなかった。
そういえばあのままフォルスが旅に出なかったら、リフィルナが家を出なかったら、フォルスとは義理の兄妹になっていたのだろうなとリフィルナは隣のフォルスを見上げた。
とりあえずアルディスにおめでとうを言いたい、とリフィルナは人混みの中気合いを入れてアルディス目がけて歩いていく。王子たちは目立っていたので人に溢れていてもわかった。
ずいぶん近くなるとアルディスのほうからリフィルナに気づいて近づいてきてくれた。
「リフィルナ」
「アル、……ディス王子殿下。おめでとうございます」
「ありがとう。でもこういうことだから、これからはあまり自由に出かけられなくなるんだ。それがとても残念で。旅にも行きたかったなあ」
ふと以前アルディスお気に入りの店で食事をしていた時に「僕も一緒に旅、してみたかったな」とアルディスが言っていたことを思い出した。リフィルナは気軽に「じゃあアルも今度どこかへ行きませんか」などと返していたが、その時にはおそらく話は出ていたのだろう。何となく切なくなる。
「私も残念です。その、こんなことを次期王に言うべきじゃないかもですが」
「うん?」
「もし、忙しいだろうけどもし、機会があれば王になられる前にどこか、行きましょう」
「……ふふ。嬉しいな。是非そうしたい。でもリフィルナわかってる? いくら僕たちはとても親しい友人でも君はご令嬢だよ。女の子。気軽にそんなこと言っちゃだめだよ」
「大丈夫です。もし旅行になるのなら私、少年になるので」
「っあはは! なるほどそれは楽しそうだ」
楽しそうに笑った後、アルディスは「兄さんの許可がでたら是非、ね」とリフィルナに微笑んできた。
「フォルの?」
王位継承を移す場合なにか色んな対応や許可が必要になるのだろうかとリフィルナは首を傾げながら思った。だとしたら思っていた以上に大変そうだ。
話していると他の貴族たちがアルディスの元へ何人もやってきた。アルディスは苦笑しながら変な顔をしてみせて「とにかく、これからは僕も民のためにがんばるよ」とウィンクしてきた。ただリフィルナが何か言い返す前にアルディスは貴族たちに囲まれてしまった。
少し見ているとアルディスは一人一人に対して丁寧に言葉を返している。素晴らしいことなのだが、あれほど身近だった友人がどうしても遠くに感じてしまい、改めて切なく思った。
人が増えてしまったのもあり、リフィルナはそっとアルディスから離れる。少し歩いたところでコルドを見つけたが、コットンと何か話しているところだった。特に険悪な様子は感じられず時折笑みさえ見せているのに気づいて、リフィルナは何となくホッとした。
コットンのことはリフィルナ自身、あの屋敷で暮らしていた時もあまり苦手ではなかった。もちろんほぼ無関心な様子だったのでその面で言うならば苦手だったかもしれないが、他の家族がリフィルナ自身を邪険にしていたのに対し、コットンは大抵のことに無関心なだけでリフィルナだからどうこうという風ではなかったからだろう。
とはいえ話しかける勇気はないのでリフィルナはそのまま移動した。人混みに慣れないのもあり、外の空気が吸いたくなる。庭園へ出ようかと思ったところで、そういえば王の話の後フォルスから庭園へ行こうと誘われていたことを思い出した。少し話したいことがあると言っていたが、フォルスも他の貴族との対応に忙しいのではないだろうか。フォルスを探して見つけたところで声をかけられるだろうかと懸念していると、そのフォルスから声をかけられた。
「フォル、……ス王子殿下」
アルディスにしてもフォルスにしても、つい気さくに名前を呼んでしまいそうになる。自分に微妙な気持ちになっているとフォルスが笑みを向けてきた。
「フォルでいい、とはさすがにこの場では言えない、か」
「気をつけたいんですけど、私ほんとうっかりで」
「じゃあ気さくに呼んでもらえるよう、このまま庭園へ行かないか」
「あはは。はい」
笑ってリフィルナは頷いた。
外へ出て二人で庭園を歩いているとアルディスと初めて出会った時のことを思い出す。あの時はアルディスが第二王子だなどと思いつきもしなかった。フォルスと出会った時も同じように第一王子だと思いもしなかったが。
「あのベンチに座らないか」
ふとフォルスに言われたベンチを見て、リフィルナは笑ってしまった。アルディスとそこに座って話したことが脳裏に過る。あの時はすでに座っていたアルディスに誘われた。つい、さすが双子だなどと思ってしまった。
「どうかしたのか?」
「い、いえ。何でもないんです」
慌てて首を振り、リフィルナはエスコートされてベンチに腰掛けた。
空はもう夕暮れ時になりかかっていて、周りを優しい黄昏色に包み込んでいる。その風景を堪能しつつ、リフィルナはふと、あの頃の自分が今の状況を知ったらどう思うのだろうなと考えた。
友だちどころか誰も知り合いなどいなくて、リフィルナ自身今以上に目立つことを避けていた。丁度あの時はフォルスとイルナの婚約発表もあったのだが、リフィルナは義理の兄となる王子と話すどころか顔すら見る機会すらなかった。
そういえばあのままフォルスが旅に出なかったら、リフィルナが家を出なかったら、フォルスとは義理の兄妹になっていたのだろうなとリフィルナは隣のフォルスを見上げた。
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