銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第五章 帰還

140話

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 王が簡単な挨拶の後「改めて後程大事な発表がある。だがひとまずはダンスや食事などを楽しんで欲しい」とフォルスの帰還とアルディスの快気パーティーの開始合図を出してきた。優雅な音楽と共にパーティーは開始される。
 まだまだ現役といった王と、フォルスたちにとっては継母となる若く美しい王妃がまず中央に出てダンスを踊り始めた。二人のダンスはとても優美だった。それにリフィルナが見惚れているとフォルスが立ち上がり、手を差し出してくる。それによって今さらリフィルナは気づいた。王と今の王妃との間にはまだ子どもはいないが、例えいたとしてもフォルスは第一王子だ。そのパートナーとしてここにいるリフィルナはどうしたって王たちの次に踊らなければないないのだと。
 だが青ざめ動揺する暇はなかった。正直体がまだちゃんと覚えているか不安ながらも、そして緊張でおかしくなりそうになりながらも、マナーとして出ないわけにはいかない。内心覚悟を決めて立ち上がる時、近くにいたアルディスが「大丈夫」と小声で笑いかけてきてくれた。

「全部兄さんに任せてしまえ」

 そういうわけには、と思いつつもリフィルナは少し肩の力が抜けた。
 皆も立ち上がり見ている中、リフィルナはフォルスに導かれながら踊りをスタートする位置である演奏家の近くへ移動した。アルディスもどこかの令嬢とともに続いてきた。その後にも王族たちが続く。皆は王たちを先頭に列となっていく。男は左、女は右側に立つと向かい合って全員でお辞儀をする。そして集団舞踏が始まった。一曲終えると王たちは列の後ろへ回る。すると今度はフォルスとリフィルナが先頭になって再び踊る。一通り踊り終えるとまた王族とそのパートナーたちは全員でお辞儀をした。それが終わるとようやくペアダンスが始まった。他の貴族たちも踊り始める。

「緊張した?」

 向かい合ってペアダンスを踊り始めるとフォルスが笑いかけてきた。

「……はい。つっかえたらどうしようとか間違えたらどうしようとか思いました。でもフォルのリードが上手なので何とかなったみたいです」

 リフィルナも笑みを返す。それに昔引きこもりの時に受けていたダンス教育のおかげもあり、体がちゃんと動きを覚えていたようだ。途中からようやく少し楽しくなってきた。途中、アルディスやコルドとも踊った。コルドは踊っている間に「フォルス王子とのダンス、見事だったよ」とどこか諦めたように笑いかけてきた。
 またフォルスとのダンスに戻り、何曲か踊ったがさすがにそろそろ限界だった。体力のというより緊張からくる疲れだろうか。踊りの場から二人で離れると、アルディスが「お疲れ様」と飲み物を差し出してきた。

「この飲み物を給仕から受け取っている時、何人かのご令嬢に捕まっていたな」

 フォルスが苦笑しながらアルディスを見る。

「まあ、うん。今まで僕は引きこもりをしていたからね、こういった経験はあまりないから困惑しかないよ」
「その割に上手く対応していたようだが」
「気のせいだよ」

 アルディスがニッコリと微笑んだ。そういえば、とリフィルナはアルディスを見上げる。

「ん?」
「アルがパートナーとしてお連れしていた令嬢はどちらに?」
「ああ、彼女なら多分その辺でケーキでも食べているんじゃないかな。僕と兄さんの従妹でね、今回パートナーを頼んでたんだ。エンマって名前でキーガン家の子だよ。今言ったように僕は引きこもりしてたからね、特定の人はまだいないし遠慮したいかな」

 キーガン家といえば公爵家だ。そういえば先ほどアルディスがコルドに紹介していた相手も確かエスター・キーガンだった気がするとリフィルナは気づいた。
 ふと、そのコルドはどこにいるのだろうとリフィルナが目で探すと、少し向こうで誰かと話をしているところを見つけた。相手はどことなくアルディスのパートナー役をつとめていたエンマに面影が似ている気がする。もしかしたら例のエスターかもしれない。仕事かなにかの話かもしれないし、コルドの邪魔はしないようにしようとリフィルナは話しかけるのを諦めた。

「ああ、あのコルドと話しているのがエンマの兄さんでエスターっていう僕らの従兄。いつも僕や兄さんの味方になってくれるいい人なんだ。あと結構頭脳派タイプだから君のお兄さん、コルドと気が合うんじゃないかなって思って」

 そのエスターに呼ばれ、アルディスは「ちょっとごめんね」とそちらへ向かっていった。

「フォルは行かないんですか?」
「今はリフィのエスコート役だからね」
「えっ、あの、邪魔になるなら……」
「まさか。むしろ喜んでパートナーをさせてもらっているよ。ああ、そうだ。リフィ」
「はい」
「この後また王から発表があるんだけど、それが終わったら庭園へ行かないか?」
「庭園へ?」
「ああ。少し話したいことがあるんだ」
「はい、わかりました」

 少し首を傾げた後にリフィルナが笑みを浮かべて頷いたところで曲が一旦止まり、フォルスの言ったように王が「そろそろここで大事な話をしておきたい」と皆の前に立った。それに気づいた座っている貴族たちも慌てて立ち上がった。
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