銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

Guidepost

文字の大きさ
上 下
138 / 151
第五章 帰還

137話

しおりを挟む
 その夜、リフィルナはアルディスと通信機で話をしていた。

『僕を含めて状況が変わったこともあってね。まだリフィルナにも言えないことなのだけれども。だからこれから少し忙しくなるんだ』

 よって通信機やブルーを使ってのやり取りはできるだろうが、どこかへ出かけることが難しくなったとアルディスは残念そうに言ってきた。リフィルナも残念だし寂しく思う。とはいえ無理をしてまで付き合ってもらうのも辛いので「わかりました」と頷いた。

『ごめんね。時間ができたらまた一緒に出かけられたらいいなあ』
「はい」

 そもそもこの国の王子と友人であったり普段このように気軽な感じで話すこと自体すごいことだ。リフィルナは笑みを浮かべてまた頷いた。その上で最近全然会うことも話すこともできていないフォルスとも、あれほど長い間一緒にいたことは到底考えられないくらいすごいことだったのだなと実感した。

「アルだけでなくフォルもお忙しいのでしょうね。フォルとも全然お会いできていないです」
『ひょっとして、通信機で話もしてない?』
「はい」
『……ふぅ』
「アル?」
『ああ、ごめんね。そういえば兄さんから受け取った?』

 多分ブローチのことだろうとリフィルナは頷いた。

『あれ、本当は会って直接渡したかったみたいだけどね、また断られるかもしれないからってコルドに頼んだんだって』

 コルドもそのようなことを言っていた。確かに直接渡されたら断ってしまっていたかもしれない。とはいえわざわざリフィルナ用にあれほど素敵な加工を施してくれているものなので、もしかしたら恐縮しながらも受け取っていたかもしれない。手にした後なので自分でもどちらなのかわからないが、どのみちそのためでいいから会いたかったなとリフィルナは思った。

『受け取ってくれてよかった。そのブローチと手紙を渡すことすら兄さんはずいぶん……、いや、まあがんばっていたみたいだからリフィルナにそんな兄さんを見せてあげたかったな』

 途中言葉を濁した後で、アルディスは楽しげに笑っていた。

「どんなデザインかアルも知っているんですか?」
『うん、知ってる』

 アルディスは自信満々に頷いてからふと後ろを振り返り誰かと話す素振りを見せてきた。そして申し訳なさそうにリフィルナを見てくる。

『ごめん、リフィルナ。少し呼ばれたからもう切るね』

 夜ですら何やらゆっくりできない様子に王子というのは大変なのだなと同情しつつ、リフィルナは「はい、おやすみなさい」と頷いた。

『うん。パーティーで会うのを楽しみにしているね。おやすみ、リフィルナ』

 また笑みを見せてくると、通信機は切れた。
 そのパーティー当日、フィールズ子爵の屋敷は朝から慌ただしかった。とはいえコルドはいつもとさほど変わらない時間を過ごしているようだ。リフィルナとしては心底羨ましいし、やはり少年に戻ろうかなとさえ思えてしまう。ただリフィルナの世話をしてくれる使用人たちは忙しそうだというのに何故かとても楽しそうだった。何人かが先日届けられたドレスの点検や準備をしている間、リフィルナは風呂に入れられ徹底的に磨き上げられ、マッサージをされたりクリームを塗られたりの挙句にそのドレスを着せられた。その際に胴体が千切れてしまうのではというくらいコルセットで締めつけられた。剣の訓練よりもきついのではと毎度のことながらリフィルナは呼吸で逃しつつ思う。

「私、別に太ってないと思うんだけど」
「リフィルナ様はむしろもっと太られても大丈夫ですよ。デコルテの辺りもそうなるともっと魅力的になられるでしょうね」

 そうなると今度は胸の開いたドレスを着せさせられそうな気がする。筋肉をつけるためにたくさん食べるべきかもしれないが、そういったドレスは避けたい。悲しいながらに食事制限でもしたくなった。

「と、とにかく太ってないと思うのに何でこんなに締めつけないとなの」
「さらに魅力的に見せるためですよ」
「見せなくていいよ」
「さて、次はお化粧とヘアメイクですね」
「聞いてる?」

 とはいえドレスはとても可愛くて綺麗だとリフィルナも思う。ブローチに合わせた、黄色とオレンジの明るい色をしたふわりと軽そうなドレスだ。
 支度がようやく終わり、コルドに見てもらうと「綺麗だ、リィー。ドレスも瞳の色にとても合っていて本当に似合うよ」と嬉しそうに微笑んできた。

「じゃあ行こうか。本当はフォルス王子がここまで迎えに来ると言っていたんだけどね、王宮でのエスコートを譲ったんだ。せめて王宮までは俺がエスコートしたいから遠慮させてもらったよ」
「そうなの?」

 差し出された手に自分の手を乗せ、リフィルナは首を傾げた。エスコートというのは何か大事な要素でもあるのだろうかと少々不思議に思う。フィールズ家にいた頃はエスコートなどされることがなかったし、令嬢としてのマナーは学びつつもそういったことはまだ学んでいなかったのもあって、よくわからない。
 王宮に着くと、フォルスが第一王子だというのにわざわざ馬車の前で待っていた。馬車から下りてそれに気づいたリフィルナは少し恐縮するが、そのリフィルナを見るフォスルが何故か目を見開いた後むしろ無表情になった気がする。どうかしたのだろうかと気にしていると、近づいてきたフォルスはもういつものように穏やかな表情で静かに笑みを浮かべてリフィルナに手を差し出してきた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

処理中です...