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第五章 帰還
137話
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その夜、リフィルナはアルディスと通信機で話をしていた。
『僕を含めて状況が変わったこともあってね。まだリフィルナにも言えないことなのだけれども。だからこれから少し忙しくなるんだ』
よって通信機やブルーを使ってのやり取りはできるだろうが、どこかへ出かけることが難しくなったとアルディスは残念そうに言ってきた。リフィルナも残念だし寂しく思う。とはいえ無理をしてまで付き合ってもらうのも辛いので「わかりました」と頷いた。
『ごめんね。時間ができたらまた一緒に出かけられたらいいなあ』
「はい」
そもそもこの国の王子と友人であったり普段このように気軽な感じで話すこと自体すごいことだ。リフィルナは笑みを浮かべてまた頷いた。その上で最近全然会うことも話すこともできていないフォルスとも、あれほど長い間一緒にいたことは到底考えられないくらいすごいことだったのだなと実感した。
「アルだけでなくフォルもお忙しいのでしょうね。フォルとも全然お会いできていないです」
『ひょっとして、通信機で話もしてない?』
「はい」
『……ふぅ』
「アル?」
『ああ、ごめんね。そういえば兄さんから受け取った?』
多分ブローチのことだろうとリフィルナは頷いた。
『あれ、本当は会って直接渡したかったみたいだけどね、また断られるかもしれないからってコルドに頼んだんだって』
コルドもそのようなことを言っていた。確かに直接渡されたら断ってしまっていたかもしれない。とはいえわざわざリフィルナ用にあれほど素敵な加工を施してくれているものなので、もしかしたら恐縮しながらも受け取っていたかもしれない。手にした後なので自分でもどちらなのかわからないが、どのみちそのためでいいから会いたかったなとリフィルナは思った。
『受け取ってくれてよかった。そのブローチと手紙を渡すことすら兄さんはずいぶん……、いや、まあがんばっていたみたいだからリフィルナにそんな兄さんを見せてあげたかったな』
途中言葉を濁した後で、アルディスは楽しげに笑っていた。
「どんなデザインかアルも知っているんですか?」
『うん、知ってる』
アルディスは自信満々に頷いてからふと後ろを振り返り誰かと話す素振りを見せてきた。そして申し訳なさそうにリフィルナを見てくる。
『ごめん、リフィルナ。少し呼ばれたからもう切るね』
夜ですら何やらゆっくりできない様子に王子というのは大変なのだなと同情しつつ、リフィルナは「はい、おやすみなさい」と頷いた。
『うん。パーティーで会うのを楽しみにしているね。おやすみ、リフィルナ』
また笑みを見せてくると、通信機は切れた。
そのパーティー当日、フィールズ子爵の屋敷は朝から慌ただしかった。とはいえコルドはいつもとさほど変わらない時間を過ごしているようだ。リフィルナとしては心底羨ましいし、やはり少年に戻ろうかなとさえ思えてしまう。ただリフィルナの世話をしてくれる使用人たちは忙しそうだというのに何故かとても楽しそうだった。何人かが先日届けられたドレスの点検や準備をしている間、リフィルナは風呂に入れられ徹底的に磨き上げられ、マッサージをされたりクリームを塗られたりの挙句にそのドレスを着せられた。その際に胴体が千切れてしまうのではというくらいコルセットで締めつけられた。剣の訓練よりもきついのではと毎度のことながらリフィルナは呼吸で逃しつつ思う。
「私、別に太ってないと思うんだけど」
「リフィルナ様はむしろもっと太られても大丈夫ですよ。デコルテの辺りもそうなるともっと魅力的になられるでしょうね」
そうなると今度は胸の開いたドレスを着せさせられそうな気がする。筋肉をつけるためにたくさん食べるべきかもしれないが、そういったドレスは避けたい。悲しいながらに食事制限でもしたくなった。
「と、とにかく太ってないと思うのに何でこんなに締めつけないとなの」
「さらに魅力的に見せるためですよ」
「見せなくていいよ」
「さて、次はお化粧とヘアメイクですね」
「聞いてる?」
とはいえドレスはとても可愛くて綺麗だとリフィルナも思う。ブローチに合わせた、黄色とオレンジの明るい色をしたふわりと軽そうなドレスだ。
支度がようやく終わり、コルドに見てもらうと「綺麗だ、リィー。ドレスも瞳の色にとても合っていて本当に似合うよ」と嬉しそうに微笑んできた。
「じゃあ行こうか。本当はフォルス王子がここまで迎えに来ると言っていたんだけどね、王宮でのエスコートを譲ったんだ。せめて王宮までは俺がエスコートしたいから遠慮させてもらったよ」
「そうなの?」
差し出された手に自分の手を乗せ、リフィルナは首を傾げた。エスコートというのは何か大事な要素でもあるのだろうかと少々不思議に思う。フィールズ家にいた頃はエスコートなどされることがなかったし、令嬢としてのマナーは学びつつもそういったことはまだ学んでいなかったのもあって、よくわからない。
王宮に着くと、フォルスが第一王子だというのにわざわざ馬車の前で待っていた。馬車から下りてそれに気づいたリフィルナは少し恐縮するが、そのリフィルナを見るフォスルが何故か目を見開いた後むしろ無表情になった気がする。どうかしたのだろうかと気にしていると、近づいてきたフォルスはもういつものように穏やかな表情で静かに笑みを浮かべてリフィルナに手を差し出してきた。
『僕を含めて状況が変わったこともあってね。まだリフィルナにも言えないことなのだけれども。だからこれから少し忙しくなるんだ』
よって通信機やブルーを使ってのやり取りはできるだろうが、どこかへ出かけることが難しくなったとアルディスは残念そうに言ってきた。リフィルナも残念だし寂しく思う。とはいえ無理をしてまで付き合ってもらうのも辛いので「わかりました」と頷いた。
『ごめんね。時間ができたらまた一緒に出かけられたらいいなあ』
「はい」
そもそもこの国の王子と友人であったり普段このように気軽な感じで話すこと自体すごいことだ。リフィルナは笑みを浮かべてまた頷いた。その上で最近全然会うことも話すこともできていないフォルスとも、あれほど長い間一緒にいたことは到底考えられないくらいすごいことだったのだなと実感した。
「アルだけでなくフォルもお忙しいのでしょうね。フォルとも全然お会いできていないです」
『ひょっとして、通信機で話もしてない?』
「はい」
『……ふぅ』
「アル?」
『ああ、ごめんね。そういえば兄さんから受け取った?』
多分ブローチのことだろうとリフィルナは頷いた。
『あれ、本当は会って直接渡したかったみたいだけどね、また断られるかもしれないからってコルドに頼んだんだって』
コルドもそのようなことを言っていた。確かに直接渡されたら断ってしまっていたかもしれない。とはいえわざわざリフィルナ用にあれほど素敵な加工を施してくれているものなので、もしかしたら恐縮しながらも受け取っていたかもしれない。手にした後なので自分でもどちらなのかわからないが、どのみちそのためでいいから会いたかったなとリフィルナは思った。
『受け取ってくれてよかった。そのブローチと手紙を渡すことすら兄さんはずいぶん……、いや、まあがんばっていたみたいだからリフィルナにそんな兄さんを見せてあげたかったな』
途中言葉を濁した後で、アルディスは楽しげに笑っていた。
「どんなデザインかアルも知っているんですか?」
『うん、知ってる』
アルディスは自信満々に頷いてからふと後ろを振り返り誰かと話す素振りを見せてきた。そして申し訳なさそうにリフィルナを見てくる。
『ごめん、リフィルナ。少し呼ばれたからもう切るね』
夜ですら何やらゆっくりできない様子に王子というのは大変なのだなと同情しつつ、リフィルナは「はい、おやすみなさい」と頷いた。
『うん。パーティーで会うのを楽しみにしているね。おやすみ、リフィルナ』
また笑みを見せてくると、通信機は切れた。
そのパーティー当日、フィールズ子爵の屋敷は朝から慌ただしかった。とはいえコルドはいつもとさほど変わらない時間を過ごしているようだ。リフィルナとしては心底羨ましいし、やはり少年に戻ろうかなとさえ思えてしまう。ただリフィルナの世話をしてくれる使用人たちは忙しそうだというのに何故かとても楽しそうだった。何人かが先日届けられたドレスの点検や準備をしている間、リフィルナは風呂に入れられ徹底的に磨き上げられ、マッサージをされたりクリームを塗られたりの挙句にそのドレスを着せられた。その際に胴体が千切れてしまうのではというくらいコルセットで締めつけられた。剣の訓練よりもきついのではと毎度のことながらリフィルナは呼吸で逃しつつ思う。
「私、別に太ってないと思うんだけど」
「リフィルナ様はむしろもっと太られても大丈夫ですよ。デコルテの辺りもそうなるともっと魅力的になられるでしょうね」
そうなると今度は胸の開いたドレスを着せさせられそうな気がする。筋肉をつけるためにたくさん食べるべきかもしれないが、そういったドレスは避けたい。悲しいながらに食事制限でもしたくなった。
「と、とにかく太ってないと思うのに何でこんなに締めつけないとなの」
「さらに魅力的に見せるためですよ」
「見せなくていいよ」
「さて、次はお化粧とヘアメイクですね」
「聞いてる?」
とはいえドレスはとても可愛くて綺麗だとリフィルナも思う。ブローチに合わせた、黄色とオレンジの明るい色をしたふわりと軽そうなドレスだ。
支度がようやく終わり、コルドに見てもらうと「綺麗だ、リィー。ドレスも瞳の色にとても合っていて本当に似合うよ」と嬉しそうに微笑んできた。
「じゃあ行こうか。本当はフォルス王子がここまで迎えに来ると言っていたんだけどね、王宮でのエスコートを譲ったんだ。せめて王宮までは俺がエスコートしたいから遠慮させてもらったよ」
「そうなの?」
差し出された手に自分の手を乗せ、リフィルナは首を傾げた。エスコートというのは何か大事な要素でもあるのだろうかと少々不思議に思う。フィールズ家にいた頃はエスコートなどされることがなかったし、令嬢としてのマナーは学びつつもそういったことはまだ学んでいなかったのもあって、よくわからない。
王宮に着くと、フォルスが第一王子だというのにわざわざ馬車の前で待っていた。馬車から下りてそれに気づいたリフィルナは少し恐縮するが、そのリフィルナを見るフォスルが何故か目を見開いた後むしろ無表情になった気がする。どうかしたのだろうかと気にしていると、近づいてきたフォルスはもういつものように穏やかな表情で静かに笑みを浮かべてリフィルナに手を差し出してきた。
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