129 / 151
第五章 帰還
128話
しおりを挟む
食事を終えると二人はそのままそこでゆっくり茶を飲んでいた。
「パンがとても美味しかった」
「ほんと? 僕も好きなパンなんだ。何だか嬉しいな。……ねえ、リフィルナ」
「はい」
ニコニコとしているリフィルナにアルディスは微笑みながら続けた。
「リフィルナがこの国を出てどこかへ行ってしまったと知って、僕は自分を責めつつとても心配していた」
「そ──」
何か言いかけたリフィルナにアルディスは人差し指を自分の唇の前に立てて微笑んだまま首を振った。おそらくは「自分を責め」というところに反応したのだろうが、そこを言いたいわけではない。
「だけど、今のリフィルナはとても生き生きしている。昔僕と一緒に過ごしてくれていた時も楽しそうにしてくれていたが、今は一時的に楽しいのではなくて日々が楽しいといった風に見えるよ。旅での経験が君の心を成長させてくれたのかもしれない。それはとてもよかったと思う、けどやっぱり危険な旅はして欲しくない。だから先ほど君が言っていたように兄さんたちの存在が君を助けたのなら心からよかったと僕は思ってるんだ」
「アル……」
少しだけ申し訳なさそうに悲しそうな顔をしていたリフィルナがまたすぐに微笑んできた。
実際リフィルナは明るくなったと思う。以前も明るかったがどことなく影もあった。おそらくは家庭の事情から来るものだったのだろう。アルディスも引きこもりをしていたからわかる。だが今のリフィルナは本当に生き生きとしている。
そんなリフィルナの変化にフォルスも関わっていたと思うと笑みが零れる。ふとリフィルナを見るフォルスの顔が浮かび、アルディスはなおさら笑みを浮かべた。
「それにしても偶然ってすごいよね。僕が探していたリフィルナが、まさか遠い港町で僕の兄さんと出会い、しかもそのまま一緒に旅を続けていたなんて。しかも君と一緒の──」
一緒の、と言いながらアルディスはリフィルナの、ドレスには少々不釣り合いな大きめの鞄の中からほんの少し顔を覗かせているディルをちらりと見た。ディルと目が合うと笑みを浮かべたままそっと会釈する。
「ディルが結果的に兄さんの探していた目的であり、呪いを解いてくれるんだものね。それってなんだかとてもすごいことだなって思うよ」
「本当ですよね!」
リフィルナもしみじみとしながら頷き、そして笑ってきた。鞄の中のディルは目を細めている。
ちなみに後でリフィルナが席を外している時に、今日再会してからずっとただの蛇のように黙っていたディルがアルディスに話しかけてきた。
『確かにこれも運命なのだろうよ』
「運命?」
アルディスはつい声にしてしまった後にそっと周りを窺い、もう一度、ディルに届くのだろうかと少々怪訝に思いつつ『運命?』と心の中で話しかけてみた。
『問題ない、聞こえておる。同じ時に同じ場所で条件がそろい、キャベル王国王族の正統な血筋であるフォルスと愛し子の転生者であるリフィルナは出会った。しかも旅を共にすることになり、頑なだった私を動かした。そして呪いは解かれた。もしかしたらリフィルナが転生したこと自体、許す時が来たということだったのかもしれん。あやつらの出会いは必然であり、運命だったのかもな』
『運命、か……。……。……ところでディルはリフィルナの眷属だけど保護者でもあるのかな』
『まあ、そうかもしれん』
『じゃあ、例えば彼女と兄さんとか、僕が将来一緒になるとかはどう思う?』
ニコニコと聞けば『は。くだらん』などと言いながらディルは鞄の中に潜ってしまい、アルディスは苦笑していた。
しみじみして頷いていたリフィルナにアルディスが「また旅に出るの?」と聞くと、リフィルナは少し困ったような表情をしてきた。
「まだ、わからないんです。最初は……逃げるようにキャベル王国を出ました。でも姿を変えての旅はとても新鮮で楽しかった。それにフォルたちと出会い、一緒に向かうことになった島も、竜のいる島だと言われていたからディルの親とか知り合いがいるかも、なんて軽い気持ちで考えて行ってみたかっただけで、旅の延長というか、途中で立ち寄るくらいの感覚でした。旅の終わりなんて考えてなかった。だけどアルともお話できてわかりあえて、その、要は逃げた原因でもある出来事の一つも呪いのせいだとわかって、そしてその呪いを解くために帰ることになって……、……あれ? 私何が言いたいのかわからなくなってきちゃった」
真面目な顔で珍しく一気にたくさん話してきたかと思うとそんな風に言われ、アルディスは思わず笑った。
「リフィルナらしいよ」
「これ、私らしいんですか? 私ってほんと皆にどう思われてるんだろってたまに心配になります」
「そのまま、かな? 大丈夫、大抵皆、可愛いなとか微笑ましいなとか好意的に思っているはずだから」
「ほんと?」
「うん」
嬉しそうに笑うと、リフィルナはまた真面目な顔になる。
「とにかく、旅にまた出るか出ないかはまだちゃんと決めてないんです。時間だけはありますし、ゆっくり考えます」
言い終えるとまた微笑んできた。
「パンがとても美味しかった」
「ほんと? 僕も好きなパンなんだ。何だか嬉しいな。……ねえ、リフィルナ」
「はい」
ニコニコとしているリフィルナにアルディスは微笑みながら続けた。
「リフィルナがこの国を出てどこかへ行ってしまったと知って、僕は自分を責めつつとても心配していた」
「そ──」
何か言いかけたリフィルナにアルディスは人差し指を自分の唇の前に立てて微笑んだまま首を振った。おそらくは「自分を責め」というところに反応したのだろうが、そこを言いたいわけではない。
「だけど、今のリフィルナはとても生き生きしている。昔僕と一緒に過ごしてくれていた時も楽しそうにしてくれていたが、今は一時的に楽しいのではなくて日々が楽しいといった風に見えるよ。旅での経験が君の心を成長させてくれたのかもしれない。それはとてもよかったと思う、けどやっぱり危険な旅はして欲しくない。だから先ほど君が言っていたように兄さんたちの存在が君を助けたのなら心からよかったと僕は思ってるんだ」
「アル……」
少しだけ申し訳なさそうに悲しそうな顔をしていたリフィルナがまたすぐに微笑んできた。
実際リフィルナは明るくなったと思う。以前も明るかったがどことなく影もあった。おそらくは家庭の事情から来るものだったのだろう。アルディスも引きこもりをしていたからわかる。だが今のリフィルナは本当に生き生きとしている。
そんなリフィルナの変化にフォルスも関わっていたと思うと笑みが零れる。ふとリフィルナを見るフォルスの顔が浮かび、アルディスはなおさら笑みを浮かべた。
「それにしても偶然ってすごいよね。僕が探していたリフィルナが、まさか遠い港町で僕の兄さんと出会い、しかもそのまま一緒に旅を続けていたなんて。しかも君と一緒の──」
一緒の、と言いながらアルディスはリフィルナの、ドレスには少々不釣り合いな大きめの鞄の中からほんの少し顔を覗かせているディルをちらりと見た。ディルと目が合うと笑みを浮かべたままそっと会釈する。
「ディルが結果的に兄さんの探していた目的であり、呪いを解いてくれるんだものね。それってなんだかとてもすごいことだなって思うよ」
「本当ですよね!」
リフィルナもしみじみとしながら頷き、そして笑ってきた。鞄の中のディルは目を細めている。
ちなみに後でリフィルナが席を外している時に、今日再会してからずっとただの蛇のように黙っていたディルがアルディスに話しかけてきた。
『確かにこれも運命なのだろうよ』
「運命?」
アルディスはつい声にしてしまった後にそっと周りを窺い、もう一度、ディルに届くのだろうかと少々怪訝に思いつつ『運命?』と心の中で話しかけてみた。
『問題ない、聞こえておる。同じ時に同じ場所で条件がそろい、キャベル王国王族の正統な血筋であるフォルスと愛し子の転生者であるリフィルナは出会った。しかも旅を共にすることになり、頑なだった私を動かした。そして呪いは解かれた。もしかしたらリフィルナが転生したこと自体、許す時が来たということだったのかもしれん。あやつらの出会いは必然であり、運命だったのかもな』
『運命、か……。……。……ところでディルはリフィルナの眷属だけど保護者でもあるのかな』
『まあ、そうかもしれん』
『じゃあ、例えば彼女と兄さんとか、僕が将来一緒になるとかはどう思う?』
ニコニコと聞けば『は。くだらん』などと言いながらディルは鞄の中に潜ってしまい、アルディスは苦笑していた。
しみじみして頷いていたリフィルナにアルディスが「また旅に出るの?」と聞くと、リフィルナは少し困ったような表情をしてきた。
「まだ、わからないんです。最初は……逃げるようにキャベル王国を出ました。でも姿を変えての旅はとても新鮮で楽しかった。それにフォルたちと出会い、一緒に向かうことになった島も、竜のいる島だと言われていたからディルの親とか知り合いがいるかも、なんて軽い気持ちで考えて行ってみたかっただけで、旅の延長というか、途中で立ち寄るくらいの感覚でした。旅の終わりなんて考えてなかった。だけどアルともお話できてわかりあえて、その、要は逃げた原因でもある出来事の一つも呪いのせいだとわかって、そしてその呪いを解くために帰ることになって……、……あれ? 私何が言いたいのかわからなくなってきちゃった」
真面目な顔で珍しく一気にたくさん話してきたかと思うとそんな風に言われ、アルディスは思わず笑った。
「リフィルナらしいよ」
「これ、私らしいんですか? 私ってほんと皆にどう思われてるんだろってたまに心配になります」
「そのまま、かな? 大丈夫、大抵皆、可愛いなとか微笑ましいなとか好意的に思っているはずだから」
「ほんと?」
「うん」
嬉しそうに笑うと、リフィルナはまた真面目な顔になる。
「とにかく、旅にまた出るか出ないかはまだちゃんと決めてないんです。時間だけはありますし、ゆっくり考えます」
言い終えるとまた微笑んできた。
0
お気に入りに追加
385
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる